レイ
──僕たちが異世界から帰ってきて半年ばかりが過ぎた。
【邪神】を退けた僕らに捕らわれていた【光神】がもとの世界に帰るための術を用意してくれた。
あの世界に残ることもできるといわれたけど、残る人はいなかった。
結局一人残らず帰ってくることができたのだけど、不思議なことにこの世界は時間が経過していなくて、召喚された当時のままであった。
「おはよう隆静、鈴、彩」
「おう」
「はよー」
「おはよう」
いつもと同じように、いつもと同じメンバーで通学路を行く。
「はあー、授業がそろそろ始まるとか、考えたくもない……」
「なら向こうに残っていれば良かったんじゃない?」
「そうしたらアニメとか見れないでしょ!」
「お前らしいな」
鈴が冗談を言って、彩がたしなめて、隆静が呆れたように言って僕が笑って、場が和む。
これが日常だった。
これを見るたびに、日常に帰ってきたのだと実感する。
「……どうしたの、光輝くん」
「いや、帰ってきたんだなって」
不思議そうに問いかけてきた彩にそう返したが、本心では違った。
──ナニカが致命的なまでに足りないのに、それが何かがわからない。
「何かが足りない。そんな気がするんだ」
「なんだろうな。俺もそんな気がするんだが……あれか? 恋してねぇとかじゃねぇの?」
「おや、お二人さんコイバナかい? なら私も混ぜなさいなっ!」
「なんでおっさんチックなの……」
そんな会話をしながら曲がり角にさしかかった瞬間だった。
「おっくれる、おっくれる~」
「──え?」
角から何かが飛び出してくる。
ぶつかる、と思った瞬間、その人影はひらりと身を躱し、純白の髪をたなびかせながら横を通り抜けていった。
「うわ~お、まさか物陰から少女がパンを咥えて……少女漫画かよ、ぶつかれよ」
「ちょっと、鈴?」
「なあ、お前ら、いまのヤツから気配を感じたか? 俺は感じなかった」
どこか面白がっていた二人とは違う隆静の言葉に空気が変わる。
「そういえば感じなかった……」
「っていうか劣化したとはいえ、一番『気配察知』の強かった光輝がぶつかりかけたんだよ? 私たちにわかるわけない……って、それおかしくない?」
鈴の言うように、あの世界から帰ってきた僕らはだいぶ能力が下がっている。
だけど一部のチカラは依然と変わらず使えるモノもある。
その『気配察知』にさっきの存在は全く引っ掛からなかったのだ。
──それになんだか胸の奥で蟠るモノを感じる。
鞄に着けた、小さくなった『魔剣』が、唯一あの世界から持って帰ってきたその剣がチリン、と小さく鳴った。
そしてその蟠りの正体を僕はすぐに知ることとなる。
僕だけではない。
あの場にいた者も、その場にいなかった者も。
同じくあの世界から帰ってきた者たちは思い出すことになった。
「えー、転校してきました」
その姿を見た時、心に空いていた虚にピースがはまるように感じた。
それは僕らが失ってしまったもので、そして戻らないものであったはずだ。
でも、目の前に確かにあるのだ。
少女のような装いで、純白の髪を腰まで伸ばして、
「『レイ』って言います。みんな、今日からよろしくね!」
失ってしまったはずの大切な名を、僕は叫んだ。
この後、彼は僕らのことを覚えていなかったり、僕らを思い出してもらうためにみんなで頑張ったりするのだけど、その話はまた機会があればしようと思う。
これにて、【『ハズレ』と言われた生産職でも戦いたい!!】を完結させていただきます。
読者の皆様には長らくお世話になりました。
色々ありましたが完結させることができて良かったです。
気が向いたら後日談も少し書くかもしれませんが、ズルズル行くよりスパッと終わるのも良いかな、と。
──そんな感傷に浸っている間に、新作を始めました!
イロアイの魔王〜魔王認定された男子高校生はアイの罪歌で世界を染める〜
https://ncode.syosetu.com/n2413gg/
前からちょいちょい言っていましたが、『ハズレ』のふたつは練習用の題材だったのです!(な、なんだってー!(棒))
書きたいから書く!それだけです!
下の方にURLがあるのでそこからどうぞ!
ではでは皆様、他の作品でお会いしましょう!
さらばっ!