零
長らく続けてきたこの作品が、そろそろ終わってしまう……寂しい……
次を考えるかな? いくつか始まりは書き始めてるし、どれにするか……
『流石に限界が近いのでないか?』
「まだまだいけるに決まっているでしょう。レイさんが抱えてきたものに比べれば……そちらこそ、もうお疲れのようですね」
『ぬかせ!』
たがいにいがみ合いながら戦い続ける。
言ってしまえばこれはただの強がりである。
信頼すべき者に比べれば苦しくない。
友に比べればこの程度生ぬるい。
そんな風に強がって、追いかけた彼らを狙うアンデッドを食い止める。
弱り切り、すでに残っている生命力が少ないせいでアンデッドの興味が薄れ始めているのだ。
「──【三千大千世界】」
そんな中、無数の剣戟が視界を覆う。
『残ってくれたのは助かるが、よいのかラグナ。お前も気になっていただろうに』
「多分話を聞いた限り、他の世界の私のことだろう? なら、私には関係ない。と、言いたいところだが……まあ、すべてが終わったら改めて聞けばいい」
『もう会えぬかもしれぬ』
「死ぬのか?」
『それよりひどいかもしれん』
「私にはどうにも、アレがどうにかなる姿が想像できないがな」
どこか納得がいかない様子のラグナだが、そんな中で戦況が動き始める。
「っ!?」
『【精霊王】!』
ついに限界を迎えたウェルシュに駆け付けようと【龍神】が急ぐが群がる異形のアンデッドたちが阻む。
『ラグナ!』
「こっちも間に合わない!」
万事休す、【精霊王】ウェルシュはここで沈む。
ハズだった。
──『そして私のすべてをくべる』
唱が、聞こえた。
火があたりを覆った。
風が吹き荒れ周囲を切り裂いた
地が裂け敵を呑み込んだ。
草木が彼らを包み癒した。
「無事かウェルシュ!」
「なんで……みんなが……」
「なんでって、ずっと一緒に戦ってたじゃねえか」
「勇者くんの邪神退治を全力でサポートするって話だよね?」
「怠け者の私も、やるときはやる」
【火】の、【土】の、【風】の【王位精霊】たちが口々に言う。
「全く、寝ぼけてるの? っていうか私は属性精霊ってわけじゃないんだけどね」
「……ああ、そうでした。私は何を言っているのでしょう」
ウェルシュが立ち上がり、告げる。
「行きますよ、私たちの世界を守るために!」
【王位精霊】たちが正しい世界のためにチカラを振るう。
そこに彼女らと共にあった【帝】がいないことに誰も気づかないまま──
「レイくんおはよ!」
見慣れた教室でいつものように彩がレイに挨拶する。
『1M8:,ew-d0』
ジジ、ザザ……
いつものように挨拶を返そうとしてノイズが走る。
「おっ、さやちんおっはー! ん?誰と話してるの?」
「……? なにが? 近くに誰もいないのに誰と話すの?」
「ふぅ、これで百層クリアだね……」
誰もが踏破したことの無い、正しく未踏の階層を制覇し続け、区切りとも言える百層までクリアした一行。
「……大分、強くなったよね」
「そうだな。レベルもかなり上がったし、このままいけば魔王討伐もすぐなんじゃないか?」
光輝の言葉に続くようにして、隆静が言う。
どこか調子のいい言葉に鈴が続こうとした時だった。
何かが身体を突き抜ける。
何かが身体を吹き抜ける。
「……なに、今の」
桜が今の何とも言い表せない現象にそう呟く。
「?どうかしたのか?」
「……わからない。なにも、無かったのかもしれない」
「おい、光輝……?隆静もか……彩、鈴?お前ら、なんで泣いて……」
「え?は、ははは……なんで、でしょうか?」
「どうして……涙が……」
二人は指摘されてやっと自分が涙していることに気が付き、思い当たることが無く困惑する。
戸惑いながらも彼らは次の階層に進み、『転移結晶』が見つからずに彷徨い──朽ちかけた剣が一本、地面に突き刺さっていることに気が付く。
「『鑑定』──『隠蔽剣』? えっと、【露顕】」
隠蔽が解け、現れたのはどこか見覚えのある木製の家だった。
「ベッドも一つ、他の家具も一人分。誰かがひとりで済んでいたみたいだが、どうにもかなり昔のことなのか痕跡が読み取れないな」
「ねえ見てみて! こっちに地下への入り口が!」
鈴の見つけた階段を降り、神殿のような造りの中心に黒い剣が刺さっていた。
『'fzj/#6e/,1'A/G──』
白く輝く人の形が浮かび上がり、何かを語り掛ける。
「ごめん、何を伝えたいのかわからないよ……」
『'awjc#7//.3z#7』
「これをもらっていいってこと?」
どこか満足げに頷いたそれに、光輝は剣を抜いた。
「キミは、誰?」
目の前に現れた白い少女のような存在に光輝が問いかける。
全ての黒幕であった【邪神】が現れ、そこに突然現れたのだ。
『憶えてないのかな』
「そうだ、迷宮の中でこの『魔剣』を抜くときに……」
『そっか』
どこか寂し気に呟いたそれは、白く光を放つ。
「そういえば、【邪神】は何処に……」
『もういないよ。【邪神】はもういない』
そう返す目の前の存在に僕の仲間がひとり、警戒を露わにする。
「コウキさん、何を見て何と話しているのかはわかりませんが、恐らくそれはこの世界の存在ではありません」
「シリウナさん、それってどういう……」
「とにかく、気を抜かないように」
「桜先生……」
『シリウナと桜先生もそこにいるのか……なら、隆静やイリスも……』
変ってしまった世界に可能性を見出して小さく呟く。
「アレは【理外】、ほかの理に縛られない理そのものともいえる存在。【邪神】が成ろうとしていた理想みたいなものです」
「つまり、【理外存在】ってことでいいんだね」
『さすがだね、シリウナ。鈴は相変わらずだね』
「どうして、わたしたちの名前を……」
『君たちの冒険をずっと見てきたんだ。何回も何回も、僕が諦めた時も君たちは戦い続けた。だから僕は、【戦いたい】と思ったんだ』
自分の理解できない存在が自分たちを知っていることに警戒を消せない面々。
それを見て朗らかに笑みを浮かべる。
──もしも自分がまだ感情を持っていたらこうするだろう、と想像しながら。
『そろそろ行かないと。『すべては無へと帰結する』【|零ト無ヲ辿レ】』
カタチを失っていく。
存在としての全てを失って消えていく。
「待ってくれ!まだ君の名を聞いてない。よければ教えてくれないか?」
自分でも何故だか理解できないままに涙を流す光輝たち。
それでもまだわずかに残っている忘れてはいけない、失ってはいけない何かに縋り叫ぶ。
『『レイ』ト』
最後に何かを告げて、消えていった。
「まさか、こうなるとはね」
真っ白な部屋で一人、黒いローブの男が本をめくりながら呟く。
「直前に得た【王殺し】の称号を【精霊帝】である自分に使うことでブーストをかけたか。しかし、ループ世界の中心である自分を殺すのでは無く、『』に還すことで脱したか」
どこか面白そうに、残念そうに笑う。
「しかし、時間はかかったが……存外うまくいったな。『理外存在育成計画』、ダメもとではあったがなかなかどうして、可能性は十分に感じられたな。若しくはあの存在が特別なだけか? ふむ、試してみる価値はありそうだ」
本を閉じて、ニタリと笑う。
「さて、君は抜け出せたみたいだが──果たして並行世界の他の君はどうかな?」
眼下に浮かぶはいくつも並ぶ同じ世界。
それを見下ろしながら、【真なる邪神】は嘲笑った。