『戦いたい』
もしどうしてこうなったのかもっと詳しく書いてほしい、などの要望がございましたら遠慮なく感想欄にお書きください。
説明が足りてなかったり、通じない難しい言い回しをしていることもあるので……その時は感想欄で説明するか海藻みたいな感じて書かせていただきます。
『我にインストールされたのは数多繰り返してきたこの世界の、とある1週でしかない。しかし、今回インストールされたということは今回が最後のチャンスでありながら1番目的に近づいたということだ』
海面近くの中をうねる様にして進む【龍神】が初めに告げたのはそんな言葉だった。
「待って。今、数多繰り返してきたって──」
『む、【精霊王】、話していなかったのか? いや、知らされていなかったのか』
「ええ、初めて聞きました……」
どこか気落ちした様子のウェルシュだが無理もない。
彼女はレイのために動いてきたのに、そんな肝心なことを知らされていなかったのだから。
『落ち込むな精霊王。レイはお前を信用していないわけではない。大切な仲間だからこそ教えなかったのだ。本来なら自分でない自分の記録を読み込むなど危険極まりないものなのだからな』
「お、落ち込んでなんていません! 勝手なこと言わないでください!」
(((あからさまに落ち込んでただろうに……)))
とは思うものの、流石に口には出せない面々。
『さて、話を戻そう。この世界は同じ時間を繰り返している。とある一体の神──【邪神】によってな』
「それは、【光神】のリムちゃんたちとやりあったあの……」
『否、アレは真なる【邪神】などではない。アレはそう、いうなれば我々と同じく【邪神】の被害者にすぎん』
「あの、もしかして【邪神】って、ニャr──」
『その名を口にするな。もし違うかろうとそうであろうと、下手に名を呼べばそうである可能性が生まれる。聡明な貴様ならわかるだろう、鈴』
憶測でそのンを口にしようとした鈴を窘める。
「……ごめんなさい、確かに軽率でした」
『貴様はこういった事柄に対して理解が深いと聞いていたからな。レイは何と言っていたか……確か、チュウニビョウ、だったか?』
「多分【龍神】様に悪意はないんだろうけど、黒歴史を引っ張り出すのやめてもらっていいですか?」
羞恥にもだえる鈴を何とも言えない表情で見つめる勇者パーティー。
『ふむ、何か事情がありそうだな。まあいい、とにかくこの無限に続く円環を止めるために、我等は記憶を持ち越すための媒体を用意することにしたのだ。『Memories Unlimited Uniteder』、レイは【ムゥ】と呼んでいた【無属性精霊】だ。それを生みだし、時間の円環から除外するために我らは理の外に送り出そうとしたのだが、そこで問題が起きた。シリウナ、お主だ』
「わ、わたしですか?」
『うむ。どうやら世界の理に干渉されそうになると主は覚醒させる仕組みになっていたようでな。暴走した主を生かしたまま止めることはできなかった』
「待ってください、ひょっとして私を止めたのって……」
『うむ、レイだ。そしてレイはその時には【練成師】として理に迫っていてな。殺した存在を分解して取り込み、解析することができた』
「もしかして、レイ君はシリウナさんのチカラを取り込んだ……?」
『そうだ。さすがに【勇者】にもわかったか。だが、それだけで終わらなかったのだ。分解し、分析し、『練成』し、自分だけのものへと昇華させた。シリウナのチカラが切り取り、排除する力だったのに対してレイのチカラは自分を無にくべることで自分の中に空白を生み出し、対象に重ねることでなかったことにする力だった』
それがどれだけの意味を持つのかを察せたのは鈴とウェルシュのみ。
「つまりレイさんは自分の存在を犠牲にして対象を消せると、そう言うことですね?」
『そうだ。そのチカラの真に恐ろしいところは空白が過去にまで及び、その空白を世界がつじつま合わせをしてしまうことだ』
「つまり、消えたということすら誰も認識できないと?」
『完全ではないがな。普通に思い出すことはできぬだろう。そして、レイはそのチカラを使って【邪神】による干渉をなかったことにしようとしている』
「そんな! レイさんの存在すべてを消費しても【真なる邪神】を無に還せるわけ……!」
『レイには何か策があるようだったが、おおむねそうで間違いはないといっていた。だからわしも止めに行くのだレイ一人に背負わせるわけにいかんだろう? 奴はひとりで戦いすぎたのだ。何せあ奴は己に『ムゥ』を使って【戦わなくではならない】と洗脳を続けていたほどなのだから──』
最初に気が付いたのは、鈴だった。
【邪神】を名乗る相手を倒し、疑問を口にしたのだ。
【邪神】を名乗る存在がこの程度か、と。
この時の僕は戦えないただの生産職だった。
代わりに支援と生産に特化した『錬成師』だった。
だからこそ、この最終決戦でも『勇者パーティー』の一員として参加して貢献していた。
疑問を口にする僕らのところに、それは現れた。
嘲るように、賞賛するように。
オメデトウといいながら、残念だったねと言った。
そして、それが齎したのは絶望だった。
パーティーで随一の戦闘能力を誇る光輝が、巨大な触手に轢き殺された。
そのまま凪払われた触手を止めるために、【邪神】を名乗っていたモノの攻撃を防ぎきった隆静が立ちはだかり──吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ殺された。
その正体に察しをつけた鈴が絶望に心を壊し、無抵抗のまま潰された。
彩も狂ってしまったのか、叫びながら何かの大魔法を放とうとして──それを見て嗤っている【真なる邪神】に気がついて、僕は動いた。
具体的に言えば、彩を手に掛けた。
『錬成師』として高みに至っていた僕は、彩が行使しようとした魔法がどういったものかを理解できてしまったのだ。
【回復魔法】による時間の回復。すなわち、【時間遡行】。
あったことを全て台無しにしてでも、終わりを避けるために繰り返す禁断の魔法。
誰もそれに気が付かないままに繰り返すそれは、彩の意思で使ったように見えてその実、目の前の【真なる邪神】が誘導したものだった。
せっかくの玩具が壊れたと悲しそうに言った。
より良い玩具が見つかったと喜んで言った。
多分、今までは彩が玩具で半ば強制的に世界を繰り返させたのだろう。
そしてこれからは僕が玩具で、何らかの最悪を起こさせるのだろう。
だから、せめてもの抵抗として皆を無駄にしないために僕も禁忌を犯す。
皆のように『戦いたい』と願い、『錬成師』としての可能性として考えていたチカラ。
対象の全てを『魔素』という最小単位まで分解し、自分に取り込んで『解析』する。
そして、理解した。
彩の感じていた魂の摩耗も、失うことに対する狂気じみた恐怖心も。
そしてそれらを、彼女の全てが失われる直前まで思い出させない悪辣な呪いも──
なら、その理不尽を受け止めよう。
全てが零れて失われるくらいなら、僕が全てを呑み込もう。
だけど、お前は、許さない。
彼らの血肉だった『魔素』を錬成する。
見てくれはただの鉄の剣。
それも錆び切ったかのように赤褐色の鉄の剣。
それに彼らの絶望を込めて、呪詛を乗せる。
怖い怖い、と嗤う【真なる邪神】を他所に、予め作ってあった【転移魔道具】を起動する。
そこからは奴に見つからないように隠れて、対抗手段を得るために世界を巡った──
「──そこから先は【龍神】が彼らに説明してるんだろうなあ」
おどろおどろしい大地を踏みしめて呟く。
「魔大陸、今世で来るのは初めてだね」
そこらじゅうをアンデッドが徘徊する中、悠然と歩みを進める。
生あるものに執着する彼らだが、それ故にレイを認識できない。
生者が『正』の概念なら、死者たる彼らは『負』である。
そしてレイのあり方は『零』。
完全では無く多少の揺れ幅はあるものの、意図して『零』を認識しようとしない限り両者共々知覚すらできないのだ。
歩いて、歩いて、歩き続けて。
大きな城へと辿り着く。
「【魔王城】。本当ならイリスが……大丈夫、まだ終わってない。終わらせない」
扉を押し開く。
コツリコツリと足音を立てて歩く。
自分はここに居るのだと訴えるように響かせる。
迷うことなく、最奥の玉座の間へと辿り着く。
「貴様、何者だ? どうやって警戒網にかからずここまで……」
「やあ、相変わらず君は【邪神】を名乗ってるんだね。それが君の戒めか」
警戒する男にどこか親しげに話しかける。
「何を……」
「同じく奴の玩具同士仲良くなれると思うんだけどね。まあ、君は元だし壊れてしまったのだから無理もない」
そう言って剣を手に取り、鋒を向ける。
「さあ、やろうか。これがお互いの為だ」