欠落
キリがいいところで切ったので短めです。
次回が説明の回になってその後で決着をつけに行く予定です。
「やっぱり来たのか」
「──レイ!」
聖剣と魔剣を携えた【勇者】が立ちはだかる。
「さて、一応聞こうか。なんの用かな?」
「君を止めに来た」
「ここには結界が貼ってあったはずだけど、よく入ってこれたね」
「私が、斬りました」
「へえ、覚醒したんだ。きっかけはクヴィホかな?」
「……」
表情を消して短剣を抜くシリウナにを見て理解しながらも、レイの言葉は止まらない。
「自分の祖母がやられてやっと気が付いたんだ?自分が何を成すべきだったのかを」
「……私が悪いt言いたいのですか?」
「少なくとも、君がもっと早く目覚めていれば、クヴィホは死なずに済んだことは間違いない」
「ッ!」
表情には出さないが、心の無知にこみ上げる感情のままに駆ける。
「レイさん、あなたはっ……!」
「残念だけど、事実だよ。そして、僕もこうならずに済んだ」
振るわれた短剣を虚空から取り出した剣で受け止め、告げられた言葉に動揺が走る。
「──え?」
その隙をついて持っていた剣を離し、振るわれたもう一振りの剣に、もう一つの短剣を反射的に振るう。
「キミの短剣を作ったのは僕だ。もう一本あることは知っている」
振るわれた短剣が剣を砕く。
砕いた勢いのままに短剣が迫り──レイの腕に触れる。
「キミは自身のチカラを認識しているはずだ。理によって調整された、自然の法則上生まれるはずのないチカラ。『違法』ともいえるソレ。理から排斥する力は【消去】」
「あ、あああああああああああああああああああ!!?」
「──残念ながらもう、手遅れだ」
気づいたときには手遅れだった。
クヴィホのチカラによって動かなくなっていた腕に短剣が触れていた。
言い換えよう。
理に縛り付けていた最後の枷が排斥され、【消去】された。
──エラーが発生しました。
──『理外』の行使を確認。
──システムに致命的なエラーが発生しました。
その宣言はこの世界にいるすべてのものに聞こえた。
──事前データよりシステムを復旧開始。
──個体名を検出できませんでした。
──仮名『』として識別。
「一体何が起きて……」
「やられた……レイちゃんはこれを狙っていたんだッ!」
「ど、どういうこと?」
「レイちゃんのチカラはいうなれば【無】。そしてシリウナちゃんのチカラが【消去】。そして『世界の記録』の多重獲得によって存在が曖昧になっているレイちゃんを世界につなぎとめていたのはシリウナのおばあちゃんの【呪術】だったんだ。それが消えた今、レイちゃんが理に縛られることはない」
レイの身体がぶれる。
ノイズが走り、不安定に揺らめく。
「多少前後したけど、大方シナリオ通りだ」
「はあ!」
確かめるように手を握るレイに斬りかかる光輝。
「言ったはずだよ、もう手遅れだって」
剣がレイをすり抜けた。
その光輝にレイが腕を振るい──それを刀が受け止めた。
「っ、なんだ、これは……」
「ラグナか。それに、刀が纏っている水は──」
「私と【龍神】のチカラです。永らく世界の記録に触れ続けた上に、私のつかさどる【水】と彼の【海】ならいくらあなたの攻撃とはいえ、受け止められます」
どこか冷や汗を流しながら言うウェルシュを見て、何かを理解する。
「そうか、ただ手を振るっただけのつもりだったけど……すでに位階が異なるせいか。それにしても、約束を守ってくれたんだね、二人とも」
「? 何を……」
「ごめん、もう行かなきゃ」
戸惑う彼らを他所に、レイは背を向ける。
「お願いだ。僕を忘れないでほしい」
レイの身体にノイズが走り、掻き消える。
「!? いったいどこに……ラグナさん!」
「……ダメだ。気配なんて感じられない。けど、この近くにはもういないと思う」
必死に探す面々だが、あたりにいる様子はない。
『……もうレイはここにはおらん』
そう言いながら祠から這出でるは、東洋の龍──【龍神】。
「【龍神】、先ほどは助かりました。助力に感謝を」
『気にするな。我らは同じくしてレイに……いや、主は覚えていないのか……否、思い出させなかったのか』
【龍神】がウェルシュに向ける感情には親しさがあり、ウェルシュが向ける感情はどこか距離がある。
そこからウェルシュには思い出させていないのだと判断し、他の面々を見る。
『そうか、貴様が【勇者】か……レイから話だけは聞いていたが、何とも『正義の味方』らしい在り方よ』
「……あなたは、何故僕を知って?」
『レイから聞いたことがあるだけだ。あの時すでに貴様は死んでいたしな。ふむ、理解できている者はほぼいないと見た。レイを追いながら昔話をしようではないか』
海が空に落ちる。
錯覚するほどの水量が天へと持ち上がる。
「これは……」
『真実が知りたくば一歩踏み出し、水に乗るがいい。無論我が知っていることに限るがな。貴様らにそれを知る覚悟があるか?』
「貴方は私たちの知らないレイさんを知っているのですね。どちらにせよ私に行かないという選択肢はありません」
何の気負いもなく、ウェルシュは一歩踏み出す。
「……【龍神】様。恐らく私にも関わることなのですよね?」
『答えが知りたくば来るがいい』
「もうそれが応えなきもするが……同行しよう。このまま何もできずに終わるのは癪だ」
どこか不機嫌そうに言いながら前に進む。
「一応聞くけど、この中にレイ君を助けたくないものはいるかい?」
「私は行くよ。行かないといけない。私のチカラは必要になると思うから」
「うんうん、というか私が居なかったら君たち『世界の記録』とか理解できないでしょ?」
勇者たちはそんなわけないと笑いながら前へ進む。
「シリウナさん。君はどうする?」
「私は……私のやるべきことをやるために、行く。だから、連れて行ってください」
そう言って前に進むシリウナ。
『では、行くとしよう』
海がうねり、彼らを運ぶ。
彼らに何かが欠けてしまっていることに、誰も気づかないまま──