それは単なる終わりでなく
テンポ上げていきたいです
とりあえず完結まで駆け抜けたい……!
「【権能】……『世界の記録』によれば世界より許可された権利だったね。本来なら『技能』を高めた末に世界が認定するものだけだが、君は違う。そうだよね?」
「【アルターエゴ】起動。『愛欲の獣』」
九つある尾の内、一つが輝く。
「残念だけど、僕に精神支配は効かないよ。それより、防ぐべきだと思うよ──【掃射】」
虚空の剣が一斉に放たれる。
「くっ──【アルターエゴ】、『暴力の獣』!」
先ほどとは異なる尾が輝き、いくつもの灯が剣を迎え撃ち、爆ぜる。
「さすがだね。これくらいは防ぐか」
「【権能】は世界に干渉する権限ぞ……! それを、【権能】を用いずに互角だと……!?」
予想通りといったレイの反応に対して、彼女は信じられないといった反応だ。
【権能】とは言わば理に手を掛けたチカラだ。
だからこそ、【権能】を用いずに正面からぶつかりあっているレイが信じられないのだ。
「理に認められていた能力如き出そんな自信を持たれてもって感じだけど……まあ、仕方ないか。理に縛られている存在に言っても仕方がない──いや、君ならこの意味が理解できるかな? 【世界の意思の分裂体】さん」
「お前、どこまで知っておる!? それは妾しか知らぬはず。それに……」
「『世界の記録』からも抹消されてるって? ああ、だから知ってるんだ。僕の眼は見えないものなら見えるんだ」
白銀に染まった眼を指しながら、どこか寂し気に影を落とす。
「だから、僕にはどうすればいいかが見えている。そのためにも君の持つ『端末』が必要なんだ」
「なら、お前は『世界の記録』で何を成す!?」
「このふざけた世界を終わらせる。行き詰ったこの世界に終わりをもたらす」
「そんな理由で、世界を渡せるか……! 【炬火】!」
全てを焼き尽くすような業火がレイを呑み込む。
しかし、無傷。
その身に纏う衣服も、髪の先を炙ることさえできなかった。
「何が、今……魔力すら、感じなかった……」
「全て無駄なんだよ。君の行動も……そして僕の努力も無駄になる。それでいい、そうするべきなんだ」
「何を言って……」
「違和感を覚えなかった? 元は君の一部だった『世界の意思』が何の反応を示さないことに。世界の防衛機構たる『世界の機構』が動いていないことに」
「それは……」
「世界もわかってるんだ。もう、僕は止まらないってことにね」
「!?」
それが示すところはつまり、世界がレイを止めることを諦めたということだ。
「なるほど、なら妾にも止められないと。そう言いたいのじゃな?」
「うん、だから──」
「それでも! 妾は諦められぬ! 愛しき孫の生きるこの世界を失うわけにはいかぬのだ!!」
クヴィホの身体にノイズが走る。
「『世界の記録』【空】の権限を全行使──【アルターエゴ】『執念の獣』を同調──」
紫のオーラが揺れる。
ノイズを走らせながら佇む彼女は何処からどう見ても平常でない。
「この世界にはっ! 私の存在を懸け、存続させる価値があるッ!!」
「僕も同じだ。だからこそ僕も、なけなしの存在を懸けている」
対するレイは凪のように穏やかな状態で見据える。
「おいで、君の感じている理不尽、僕にぶつけるといい。押し通した方がその意思を通せる。簡単でしょ?」
「はああああああああああ!」
灯が爆ぜ、可視化された悍ましい呪いが、肥大した九つの尾が、ありとあらゆる災害じみたチカラがふりそそぐ。
そのすべてをその腕で打ち払い、ことごとくを無効化していく。
「なんじゃ、お前は……一体、何になったというのだ……」
「キミが生み出した成功作……『識理有無』のその先にあるもの。君が【邪神】を追い出すために『獣人』という種族を生み出して作り上げた最高傑作品──」
「シリウナ、をそうやって、呼ぶな……!」
息も絶え絶えに憤る。
「わかってる。ああ、そっか。君は変わったんだね。復讐を考えるだけの獣から、他者を愛しむ人間に」
「──、───」
膝から崩れ落ちるクヴィホに歩み寄り、語りかける。
「僕達は進む方向が逆だっただけなんだね。人から化生に、化生から人に。人から理へ、理から人へ。失った者と得た者と」
ノイズが走り、そのカラダが灰に染まる。
それはまるで、動かぬ石のように。
「さようなら、人に至った理の化生さん。次に目覚めた時には平穏に──おや?」
【空】の端末を奪おうとして、伸ばした腕が灰に染まる。
「動かない……ああ、『殺生石』って事か」
『殺生石』──それは日本における玉藻前が正体を見破られ、討伐された時に変化したもので『生き物を殺す』という伝説の石である。
「……まだ若干、理に属していたのが仇となったか。この腕はこのままで行こう。君の無念と一緒にね」
そのまま手を翳し、浮き上がってきた光を握る。
──『世界の記録』の干渉権限【空】を取得しました。
──現在の干渉権限は【地(一部)】【空】です。
「さて、残るは【海】と魔大陸にある【地】の欠片か」
レイは再び歩み始める。
──その姿にノイズを混じらせながら。
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「一体、なにが……」
無残な姿になった村を見て呆然と呟くシリウナ。
レイを追いかけて馬車でやってきたのは勇者パーティーとシリウナ、リーシャにウェルシュだ。
「……間に合いませんでしたか」
「そうだ、おばあちゃん!」
「私は消火に回って話を聞きます! ほかの面々はシリウナさんを!」
駆けこんでいったシリウナは、ほどなくしてそれを見つけた。
「おばあ、ちゃん……」
石になってなお、強大な力を感じさせる石がその被害の中心にあった。
「これは……」
「おばあちゃんです。多分、この感じだとかなり頑張ってレイさんと戦ったんだと思います」
「そのようですね。消火後に聞いて回ったら災害のような戦いだったそうです」
「簡単にやられたわけないですよ……おばあちゃんは、本当に強かったんですから……」
一筋涙を流し──彼女は決意する。
「レイさんは止めます。たとえ、どんな手を使ってでも」
そう告げるシリウナの表情はまるで『暗殺者』のようだった。
そして、その中で渦巻いた怒りや悲しみ、愛おしさや尊敬といったありとあらゆる感情が彼女という存在を一つ押し上げた。
「リーシャさん、教えてください。あなたは世界を防衛する『機構』の一員だといっていました。なら、おばあちゃんはこの世界においてどんな存在だったのです?」
「シリウナ様、何かを知っていたのですか?」
「何も。でも、今になってわかったんです。おばあちゃんは何か大きなもののために戦ってたんだって」
感情が引き金となり、彼女は『最高傑作』としての目を覚ます。
【精霊帝】レイがシリウナのその先と言ったというのは、言い換えればシリウナはレイの領域に届く可能性があるということだ。
「彼女はこの世界の『意思』が分裂した存在。この世界の存続のために自分の身を削った存在でした」
「そう、なら私がその意思を引き継ぐ。だけど、きかせて。世界を滅ぼすって言ったレイに対して『機構』が動かないのは何故?」
その問いかけにリーシャは少し悩み、その末に答える。
「レイ様の行動がこの世界を滅ぼすとともに救う最後の手段だと認めてしまっているからなのです」
「ならやっぱり、悪意があるわけじゃないんですね」
「白瀬様の言うように、そうではあるのですが……シリウナ様のおばあ様──クヴィホ様以上にレイ様は自身の存在を削っていらっしゃるのです。【無】に還すチカラしかり、『世界の記録』しかり」
「……【無】を生み出す矛盾したチカラに、存在情報を含む世界の記録。全てがその存在をあやふやにするというなら、レイちゃんはどれほどの……」
そこまで言ってふと疑問に思う。
「まって、それならレイちゃんの精神は後どれくらい持つの?」
「……【地】【空】の干渉権限を得た今、持って三日──うまく適応できなければ一日と持たないでしょう」