『√null』
すみません、BADENDにしたい病が出てしまって構想をねりねりねりねりと……
私は圧倒的ハッピーエンドが書きたい、ハズなのに……!
「……!」
「はっ!」
光を湛えた剣と、それを反射する剣がぶつかり合う。
「まさか、きみの口から『否定』なんて言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「僕も、そう思うよ……!」
言葉を交わしながら、剣を交わしながら。
ぶつけ合うのは、互いの意思。
「邪神擬きの『精神汚染』を自分で抜け出したのかい?」
「生憎だけど、僕一人のチカラじゃない。君のおかげさ。──それでも、自分で選び取った選択肢だ!」
「それが、僕を『否定』することか……!」
「君に全てを背負わせるくらいなら、僕が全てを『否定』する!」
光に迫らんとする光輝の剣戟を、コマ送りのような動きで捌き続ける。
「それが君の『正義』なのか!?」
「わからない。たとえこれが『正義』でなくとも、君のためなら曲げるさ……!」
互いに弾かれるように距離を取り、指揮棒のように剣を掲げる。
「──【武器庫】展開、『付与』【過剰分解】」
「──『光剣生成』【連続複製】、【極光付与】。『我が光は絶えず、遍くを塗りつぶす』」
レイは空中に数多の鉄剣を顕現させ、光輝は光の剣を無数に生成し並べる。
「──【一斉射出】!」
「──【一斉掃射】!」
剣が射出され、ぶつかり合う。
(くっ、一つ一つの剣が重く、強い……このままじゃあ……!)
『大丈夫、僕が手伝うよ。──『君の光に際限は無く、昏き彼方も照らせよう』』
脳内にその声が聞こえた瞬間、光輝の光の剣が更なる輝きを持って鉄の剣を押し返す。
「ああ、本当にこれだから君って奴は……! 『其は誰も知らない、僕達全ての軌跡にして晴らすべき責務。世の理の外より、我が元へ招来す』【原初ノ無属精霊王】!」
空が裂ける。
鈍色のモヤとしか表現出来ないソレが覗き込み、光が二つ灯る。
それは目を開いたようで──
「ムゥ、消して」
『……』
モヤを腕のように伸ばし、薙ぎ払う。
それだけで全ての剣が消え去った。
「な、にが……」
『危なかったね。僕がいなかったら終わっていたところだ』
理解出来たものはここにはいなかった。
剣の中に宿る、彼を除いて。
『しかし、『ムゥ』か。まずいな。もし本気でムゥを動かしたら分霊の僕じゃ太刀打ちできない』
「あれば一体、なんなんだ?」
『僕らの積み重ねによって生み出された、【理外】の存在でありながら、【存在しない存在】にして【無属性王位精霊】。僕たちの創り出した最終兵器さ』
【精霊帝】に至った存在が作り上げた最終兵器といえば、どれだけ規格外のものなのか容易に想像できるだろう。
「……どうすればいい?」
『【概念攻撃】は僕がどうにかする。君は僕を、目の前の僕に突き刺せばいい。できるかい?』
「──やって見せるさ!」
『縮地』で空間を超え、空中に【光剣】を生成しながら空を駆ける。
「【武器庫】!」
「【光剣掃射】!」
『──加護を』
出現した鉄剣を、加護を受けた光剣が撃ち払う。
「なんで僕の剣が撃ち負けて──」
「──レイ! 君は僕が救う! 何が何でも!」
『君は君の思うがままに、その道を行くといい』
光の聖剣と淡く輝く魔剣を連続して振るう。
レイも鉄剣を振るうが、一度打ち合うだけで砕かれ、使い物にならなくなる。
「く、おおおおおおおおおおお!」
「はあああああああああああ!」
振るう、振るう。
黒い魔剣と白い聖剣が振るわれるたびにレイの振るう鉄剣が砕かれ、きらきらと宙に舞う。
「ああああああああああああああ!」
「おおおおおおおおおおお! 救って見せる! 僕が救いたいものを、全て!」
ぶつかり合うのは剣でありながら、互いの意思。
そして砕かれ続けているのは、言わずもがな。
「僕はここで、止まれない! ここで止まれば何も救えない、全てを失う! だから──!!」
レイの瞳から光が消える。
焦点が消失し、映る景色が消え、何もかもが失われる。
「【精霊帝】たる私、『』の名のもとに命じます。【無属性王位精霊】『』よ、無へと還しなさい」
『──光輝! 逃げて!』
剣に宿る分霊のレイが叫ぶ。
「え──!?」
周囲から光が消える。
闇さえもその姿を現さず、どこか鈍色に感じる景色が自分を包んでいた。
『……こう、き! まだ僕が、耐えられるうちに、何とかして、ここから逃げて。このままだと、なかったことになる!』
悲鳴じみたその言葉に、光輝は何も返せない。
理解を超えた感覚に、思考が回らなくなり始めていたのだ。
只の人間でしかない光輝に、これをどうにかしろという方が酷であろう。
『不味い。このままだと本当に──!』
その時だった。
「──ああ、俺の盾はこの時のためだったんだな」
この異常の場において、聞こえるはずのない声が聞こえた。
『隆静、何をして──』
「レイの声か。わかるんだ、今わかった。この盾が俺のために用意された理由がこのためだったんだ」
そうして浮かべるのはどこかニヒル気味な笑み。
『まさか、僕はこの時のために君にその盾を──!?』
「レイ、お前が気にすることはない。これは俺が、俺たちが回避できたはずの結末なんだ」
「りゅう、せい……?」
「ごめんな、光輝。後は任せたぞ」
光輝の言葉に笑みを浮かべ──前を見据える。
「力を貸してくれレイ。『我が献身を持って、すべての災禍を一身に肩代わりしよう。我が名は隆静! 守るべきもののためにこの盾はある!』」
少し小さめだった盾が滲み、虹のような輝きを放つ。
「じゃあな、光輝。頼んだぞ、本当に──」
その輝きに、あたりが包まれる──
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「っ……いったい、なにが?」
ふらりとよろめいた光輝が思わず呟く。
「今、僕は……まさか、まさかまさかまさかまさか……!」
突然取り乱し、頭を抱えてうずくまるレイ。
「うそだ……ここまでやってきたのに。ここまでどの回よりも綿密に……なのに……!?」
「レイ? 突然なにが……」
「まさか、僕が殺したのか……? 誰、を?」
慌ててあたりを見渡すレイ。
「シスターズ、【王位精霊】たち、鈴、白瀬さん、桜先生、光輝──」
ひとりひとり確認して──たった一人、足りないことに気が付いた。
「……隆静? 彼は、どこに。殺した、僕が……?」
「光輝くん! 一体何があったの!?」
「何が何だか、僕にも……」
異常に気づいた彩が駆け寄り問いかけるが、身のある答えは得られない。
「それより、そっちは?」
「みんななぜか戦うのを辞めて、レイちゃんの方を凝視してるから、その間にこっちに来たの。この感じ多分、何かとてつもないことが起きた気がする」
「鈴さん、その何かって……」
「それがわからないから、異常なんです。桜先生、誰の理解も及ばない話だからこそ、ヤバイ」
そう告げる鈴だけがことの重大さに一番気が付いている。
「【精霊王】の名を持って全【王位精霊】に告げます! そこにある【精霊帝】を全力を持って滅しなさい!!」
まとめ役であるウェルシュが叫び、命を受けた【王位精霊】たちがレイに襲い掛かる。
「させません! 長女エーナが【シスターズ】に告げます! 我らが母を全力で守りなさい!」
滅そうとする【王位精霊】とそれを阻む【シスターズ】。
その姿は互いに全身全霊だった。
「邪魔を、しないでください! このままであることを、レイさん本人が望むとでも思っているのですか!?」
「許されなくても、それでも……! 母さんはもう、後がないんです! たとえ罵られようと、捨てられようと……世界が滅びようと、私は守ります!」
ぶつかり合い、災害のごときチカラが荒れ狂う。
突然起こった仲間割れに、困惑する勇者パーティーの面々。
「いったい何が? レイ──レイ?」
「ちがう、僕はそんなつもりじゃ……なんで、ここまで大きなミスはなかった。限界ももう少し先のはずだ。侵蝕ふだって──まさか、ヤツの仕業か!? 僕の限界を間違った認識にすり替えられてた……?」
この異常の中心にいるレイに問いかけるが、帰ってくるのは理解できないひとりごとだけ。
「──、────!」
天を見上げて叫ぶレイ。
しかしその慟哭は誰にもおとつぃて伝わらない。
「──離れなさい、『勇者』!」
何処からか、誰ともわからない声が聞こえた気がした。
「──え?」
咄嗟に飛び退いたが、あたりを見回しても声の主は見当たらない。
視界に入るのは三人の【王位精霊】と三人の【シスターズ】だけ。
「どきなさい、何もかも手遅れになる前に──!」
「だから退けない──やむ負えないか!」
長女エーナが大きくウェルシュをはじき飛ばし──勇者パーティーへと迫る。
「絶対に、我らが母を救ってください。頼みましたよ」
「え?」
ドンッ、と衝撃と共に四人が突き飛ばされた。
慌ててあたりを見渡すが、どこにも突き飛ばした張本人はいない。
あるのは静寂と、立ち上がろうとするウェルシュの姿だけ。
「こうなったら、もう進むしかないのですね」
立ち上がったウェルシュが光輝たちに歩み寄り、告げる。
「少しその魔剣に触れさせてください」
『──ありがとう。名も知らない精霊さん。状況は?』
「終焉シナリオ『√null』に入り始めてます。深度は【3】です」
『じゃあだめか。世界はおしまい。深度【5】までなら何とかなったんだけどね』
一見気軽に感じられる会話だが、語られるは世界の終焉という絶望的なもの。
「どうにかできないのかい!?」
『僕たちだけじゃ無理だけど──まだ希望はある。他の人にも一度、僕に触れてもらっていいかな。それで言葉が伝わる』
剣に触れた面々が突然聞こえてきたレイの言葉に驚くが、驚きは続く。
「お前ら、無事か!?」
「アドルフさん!? 赤坂に由香子たち! それに、レイのパーティーの……」
「ん、イリス」
「シリウナです。これは……」
駆け付けたシリウナがレイを見て、思わず頭を押さえる。
「ごめんなさい、私じゃ多分チカラになれません。それどころか、事態を悪化させかねないかと」
「ん、わかってる。私の【全魔眼】なら、識別できる。後は……レイ、そこにいるんでしょう?」
『さすがイリス。さて、後は君がこの剣をあそこの僕に突き刺すだけだ。やるかい?』
「──僕は言ったはずだよ。君を絶対助けるって」
『なら頼むよ。世界を、僕を救ってほしい』
その言葉を聞きながら、一歩前に出る。
「ん、私が手伝う。あなたはただひたすらレイに向かって走って。目の前にでたら、突き刺せばいい」
『頼んだよ二人とも。世界の命運は君たちに託された』
『魔王』と『勇者』の共同戦線、その相手は『精霊帝』。
ここに世界の存続をかけた戦いが、始まった──