狂乱なれど会議は進む
「光輝、そろそろ【帝都】だ」
「わかってる」
どこか思い悩んだ口調で応える。
「……光輝」
「わかってる。うじうじ悩んでも仕方ないのは、わかってる」
腰に帯びた二振りの剣に触れる。
片方は、城にあった『聖剣』。
片方は、レイからもらった『魔剣』。
「どう接すればいいのか、わからないんだ」
「レイが望むようにでいいんじゃないか? 結局の所、俺達がレイのことを大切に思っていることには変わりない」
「そうだね。うん、ありがとう。とりあえず会って考えようと思う」
顔を上げる光輝。
その視線の先には各国の首脳が集まり行われる【代表者会議】の会場である帝都があった。
「何度観てもこの城砦は凄いですね……」
光輝は門の前で見上げながらそう呟く。
「現に今まであった戦争で落とされたことはなく、まさに不落要塞として有名ですね」
「ま、だからこそ『代表会議』の開催場所として選ばれたんだがな。……行くぞ。気は緩めるなよ」
現れた案内役の兵に連れられて奥へと進む。
「ここです。中には既に他の代表の方々がいらっしゃいますので、ご了承ください」
案内の兵が礼を尽くして言うと、扉の両脇に居る兵が扉を開く。
その中には既にいくらか人が集まっていた。
「よう、遅かったじゃないかアドルフ」
「……これは公の場だ。それに今は『王国』のものとして来ている。お前も『皇帝』になった今、昔とは違うんだぞ」
「それもそうか。じゃあ改めて、遠路はるばるお越しくださいました『王国』並びに『勇者』の御一行さん方よ。……これでいいか?」
「俺に聞くな。それよりも時間より早めに来たつもりなんだが……『王国』が最後か?」
「いや、『代表』が集まってから最後のメンバーが来る。……とりあえず所定位置で待ってろ」
その言葉に従って所定位置に立つ。
「私は国王様のためにお茶の準備をして参ります」
「……私は身内が居たので話してきます」
それぞれの理由で席を外す中、アドルフと光輝だけが残る。
(……こうして立っているだけで肌身に感じる。ここにいる人達は強い)
緊張感のある中、光輝はそんなことを感じていた。
(詳しい『ステータス』なんかを見てみたいところだけど……やったら確実にバレる。特にあそこの刀を持った人はヤバい。強者のオーラというか……次元が違う)
そんなことを思いながら見ていると、瞬きをしていないのにも関わらず、消えた。
「──久しぶりね、アドルフ。元気そうね」
後ろから聴こえた声に慌てて振り向くと先程まで見ていた人物がそこにいた。
「相変わらず速いですね。師匠」
「私が教えたわけじゃないでしょう。第一、私は刀以外振る気はないもの」
「例え『技』だけでも、戦闘訓練だけでもアナタは俺の師匠ですよ」
「そ、好きにすればいい。それで、そこの人は?」
「『勇者』だ」
その言葉の直後に目が合った。
「クッ……かハッ!?」
(なんだ、いまの……死んだ? いや、何が、どうなって……)
「……期待ハズレね。いや、普通と比べれば十分強いのでしょうけど……私の感覚も参ってるのかしら。それと、アドルフ。あなたも弱くなったわね。色々とレベルが下がってるわよ」
「……俺に関してはともかく、『勇者』と言えどまだこの世界に来て戦いを学び始めてからたった2年だ。伸びしろは俺よりもある。それで、だ。コイツに稽古を付けてやってくれないか?」
「彼に?」
「ああ。師匠は自分と『対等に戦える存在』を探していただろ? コウキなら──」
「ゴメンなさい。今はそんな余裕はないの。今は私が強くならないと」
「これ以上強くなってどうするつもりだ?」
「この前私、久々に負けたの。それも、完膚なきまでに、ね」
その言葉に、アドルフと光輝は戦慄した。
「師匠、それは──」
「そうよ、私の完全敗北」
【最強】と呼ばれた彼女は嬉しそうにそう言った。
「……ラグナ、そろそろ始まるわ。戻ってきて」
「そういう事だから、もう行くわ」
呼び戻された彼女はそのまま背を向けて去っていく。
「アドルフさん……今の人は……」
「彼女は、『冒険者組合』における『SSランク』にして【最強】と呼ばれる冒険者だ」
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「──定刻になった。各代表代理者は『転移水晶』を前に」
水晶が置かれ少しすると全てが同時に輝き始め、光に包まれるとそこに人影が現れる。
『エリヒド王国』、『国王』ルドルフ・エル・エリヒド
『獣王国』、『獣王』リオルド
『パラス帝国』、『皇帝』グレス・パラスエス
『精霊同盟国』、『盟主』カルエナ・スピリアル
『龍神国』、『国主』トシゾー
『光神教会』、『教主』シャネ
『冒険者組合』並びに『全組合代表』、エレーナ・スピリアル
そして──
『精霊王』、ウェルシュ
「以上の参加者が集まった事によって、『代表会議』をここに──」
「すみません、もう少々お待ちいただけますか」
開会の合図が上がろうとしたその時、ウェルシュが声を上げる。
「む、どうした【精霊王】」
「いえ、まだ私たちの代表がまだ到着しておりません」
「何を……私の精霊の長を務めていたのは【精霊王】たるウェルシュ様ではないですか」
『精霊同盟国』の【盟主】が問いかければ薄く笑みを浮かべて応える。
「今の私は彼の一従者でしかありません。それに──来ましたね」
【精霊王】が跪く。
すぐ側の空間が歪む。
一歩、それだけでいとも容易く姿が現れる。
華麗であった、荘厳であった、神秘的であった。
──誰も理解できなかった。
それが放つ気配は、誰の理解も及ばない。
「お待ちしておりました」
「ご苦労。さて、少し遅れてしまったか。自己紹介が必要そうだな」
ゆったりと歩き、その白銀の長髪を揺らしながら告げる。
「【無属性王位精霊】並びに【精霊帝】の名を冠する私の名は、『レイ』だ。此度は私の呼び掛けに応じてくれてありがたく思うよ」
「ば、馬鹿な……【無属性】、だと!?」
『精霊同盟国』の一人が声を荒らげる。
「『精霊』は、自然の要素が自我を得たモノのはずだ! 【無属性】は自然の要素では無い。現に、『ステータス』に【無属性】は表示されない!」
「されるよ。知らないのも無理は無いけどさ。君ならわかるんじゃないかな──【最強】さん」
その言葉にラグナへ視線が集まる。
「……わか、る。 ああ、わかる。直接、やりあったからこそ、感覚でわかる。なるほど、アレが──【無属性】か」
そこには震えがあった。恐れがあった。怯えがあった。
「……ラグナ?」
「エレーナ、問題は無い。何も、な」
その様子に首を傾げるが、今はそれどころの雰囲気ではない。
「知らないも何も、君たちは知らないことが多すぎる。今回の件然り、今この場に敵が居るってことも知らないのだから」
虚空に剣が現れ、飛んだ。
なんの予兆もなく、それは飛び──【国王】の頭部を穿いた。
「今一瞬、消え、た? 反応、できなかった」
「──国王!」
「……思ったより進行が早いな。計画を前倒しにするべきか? 」
「こちらの動きも早めておきますね」
狂乱する会議の中、レイとウェルシュだけが静かに言葉を交わす。
「いつまで騒いで──ああ、そっか。わからないのか。死んでないよ。位階が違うとこうにも苦労するものか」
剣が消える。
それと同時に国王が動き出す。
「むぅ、一体何が……」
「国王! 無事か!?」
「ああ。しかしなんだ、霧が晴れたようにスッキリとしている」
「国王、君は【精神支配】を受けていた。それも含めて色々と話があるから君たちを呼んだんだ」
会議は、【精霊帝】の支配下で進み始めるのであった。