望む心は、人故か
ノってきた、筆が乗ってきたぞう!
ということで投稿します。書き溜めはありません。
ではではー
その斬撃は正確無比であった。
その攻撃は冷酷無常であった。
その斬りこみは苛烈であった。
(なのに、全く届かない……!?)
視界を覆う連撃も、狙い澄ました一撃も。
全てがただの鉄剣で打ち払われる。
「素晴らしい技量だ。途中から【空間属性】を付与して空間ごと断ちに来たのもいい判断だね」
一つ前のエキシビションが終わった時、ふと何かを感じて観客席を見渡した。
──己の眼を疑った。
これ程までの『空虚』が、この世界には存在するのかと。
その『空虚』がこちらに向けるのは、形だけの笑み、動きだけの手振り。
それが唯唯、恐ろしくて堪らなかった。
「うーん、僕には分からないな。何にそこまで恐怖を感じているの?」
……恐怖?
この、私が?
【最強】の二つ名で呼ばれ、己がチカラを振るわんが為に強者を求め続けたこの私が?
「なに、を──!」
「剣筋がブレたね。本人ですら気づかない根源的な恐怖か」
目の前のソレはゆっくりと最小限に剣を動かすだけ。
それだけで斬撃は逸れ、刀は他所を向く。
「うーん、足りないな。君の積み上げた高みはそんなものかな?」
──黙れ。
「斬撃ひとつ掠らず、空に向かって刀を振り続ける。それだけかな?」
──黙れ。
「ああ、足りない。僕達の領域には遠く及ばない」
「──黙れェ!」
斬撃が空を凪ぐ。
瞬間、空間が揺れた。
「想いの乗らない斬撃なんて、只の棒を振っているのと変わりはしない。それじゃあ、自ら限界を創ってしまう」
「お前に、何がわかる──」
なまじっか才能があったが故に、自分の努力は天才の一言で嘲笑われた。
なまじっか才能があったが故に、自分の限界を垣間見てしまった。
そんな私を、絶対的な存在であるお前如きに。
「──お前に何がわかる!?」
グチャグチャにかき混ぜられた感情が刀に籠り、振るわれる。
その斬撃に対して、目の前のソレは初めてしっかりと剣を振るった。
──その剣は空虚に感じた。
──しかしその中に、綿密に紡がれた何かがあった。
遠い遠いどこかから、果てしない久遠より。
重ねられてきたであろう、何かが。
「……どうしたの?」
「お前、何者だ?」
「『』」
「……は?」
「訊かれたから答えたんだけど、やっぱり理解できない、か」
何かを伝えたのはわかった。
しかし、何を伝えたかったのか、何を伝えようとしたのか。
どうやって伝えようとしたのかがさっぱり分からない。
「まあ、いいや。停滞という腐敗から抜け出した君だ。仕切り直してちゃんと戦おうか」
「──っ!?」
威圧も無い、動きも無い。
なのに、目の前の存在が戦う準備をし終えたことが直感的にわかった。
「【一閃】!」
「【一閃】」
踏み込み、斬り裂く。
容易く、払われる。
(ひとつでは、容易く払われる。なら、最大数の攻撃を持って沈める──!)
後のことなど、考えている余裕はない。
刀を鞘に収める。
「……諦めた訳じゃ、なさそうだね。そっか、来るか。なら、全力で来るといい」
姿勢を低く、柄に手をかける。
両手を広げるソレに向けて、駆ける。
空間を超えて、迫る。
「速い──」
「『一閃』」
全力で振り抜く。
躱されても止まらず、身体を回転させて繋げる。
「──『二閃』」
どちらも渾身の一撃だが、まだ終わらない。
「『此処に刻むは、果てに至る路──』」
だから、今まで積み上げて来た全てを此処に刻みつける。
「【三千世界】!」
(これは、凄いな)
隣接する亜空間に干渉し、折り重ね、斬りつける。
そしてその斬撃をさらに斬り裂くことで無数の斬撃を生み出す。
(なるほど、【最強】と言われるわけだ。理の中なら最強格だ)
手に二振り、剣を取る。
斬り裂かれた空間がズレる。
斬られた分だけ、ズレる。
ズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレてズレて。
崩れたステンドグラスのように、パーツを散らかしたパズルのように。
その世界の切れ目がレイに迫る──
「──『遍くは無に帰せ』」
迫るその『世界の切れ目』を斬り払う。
瞬間、斬った『切れ目』が消え、元に戻る。
(剣が一撃で崩壊する。ならば──)
「【接続:武器庫】! 【法則無効】」
虚空に剣が現れ、手に取り振るう。
迫る『世界の切れ目』が消え去る。
「──、────」
全てを次々に切り裂き、無効化して行く。
(数が多い、威力が高い。回転を上げるか)
思考が加速し、超越し、すべてが遅滞する。
その中でひとりだけ、法則を無視して進み続ける。
「【武器庫開放】」
虚空に武器がいくつもいくつも現れていく。
それを掴み取り、世界の切れ目に叩きつけていく。
斬って斬り斬り、舞うように。
回転し側転し、クルリクルリと回りながら一切合切を斬り捨てていく。
「──あー、これはまだ、僕が未熟だったってことかな」
その剣戟をすり抜けてきた『世界の切れ目』がレイに届く。
体勢を崩したレイに残りの斬撃が襲い掛かる。
切り裂かれた世界が軋み、世界の修正力によって世界が戻る。
反動で轟音、土煙があたりを覆う。
「やった、のか……?」
昇級試験ということを忘れるほどの激戦だった。
手加減をするなんて考えられないほどの相手だったのだ。
「いや、冷静になってみればやってしまってはいけなかったのでは……」
「──そんなことはないよ。君は間違っていない」
煙が晴れる。
というよりも、消え去る。
「いい攻撃だったよ。思わず、少しだけ本気を出しちゃったよ」
「直撃したはずだ。なのに、無傷、だと……?」
汚れひとつないその姿に、思わず後ずさる。
「今の攻撃に敬意を表して、一つの境地のその先を見せてあげる」
レイが虚空に手を伸ばし、掴む。
そこにはなにもない。
「『過程はもはや要らず、唯々そこには事象が残る』──【 閃】」
誰も、何が起きたのか理解できなかった。
【最強】が何かをして、土煙が起こり、その中から無傷のレイが現れた。
その後は全く分からなかった。
巨大な斬撃の痕に見える切れ目が、ラグナをかすめるように観客席の寸前まで伸びていた。
レイのもとから伸びて、観客席の壁まで広がっていた。
その圧倒的な力に、誰もが理解できずに圧倒されたのであった。
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「──こんなところまで何の用かな」
誰もいなくなった闘技場でレイは誰かに語り掛ける。
「全く、気づいていたなら普通に声をかけてくれればよかったのでは?」
「気づいていることにも気づいていて、何を言っているんだか」
返答は先ほど刻み付けた斬撃の先の観客席から。
「ふふ、まあいいじゃあないか」
「あらかじめ言っておくけれど、僕はあまり君のことが好きじゃないんだ、ナイ(・・)」
「つれないなあ。ま、そんなところも僕は嫌いじゃあない」
「御託はいらないよ。やることがあるんだから、速めに済ませたいんだけど?」
どこか楽しそうな黒ローブの男『ナイ』に感情の見えない声でレイが話を促す。
「せっかちだなあ、もう。あまりじらすと消されそうだ。本題に入ろう」
ふざけた雰囲気は何処へやら、真剣な声音で告げる。
「お前、このままだと存在が持たないよ。このままだと確実に消えてなくなるぞ」
「そんなこと、識ってるよ。昔から、ね」
「おや、知っていたのかい? どこからかは知らないが……」
「それでも、やらないといけないことがあるんだ」
「なら、ここでやるかい?」
「それも、悪くない」
黒いローブの端が陽炎のように揺らめく。
レイの周囲が僅かに揺らぎ──
「ああ、やめやめ。どうせここで倒してもロクな結果にならないでしょ」
「ふふ、さてどうだろうね?」
「こっちからも要件があったんだ。君は僕に借りがある。そうだよね?」
「ん? それは全部清算したはず──ああ、今回で一つあったね。火はいい思い出がなかったから、つい借りにしちゃったんだっけ?」
「ああ、だから君に頼みたい。誰もが満足する、最高の結末を──」
「聞かせてみなよ話は其れからだ。その最低な結末を──」
【最強】さんは強いのですよ!