饗宴と共有
どうも皆さま、こんにちは。
わたくし、ナリアでございます。
『ハズレ』といわれた生産は我が道を行くが完結しましたので、こちらの投稿を本格的に再開していきたいと思います。
と、同時に。
新作の方を描き始めていますので、よろしければこちらも読んでくださると大変うれしく思います。
『魔物ですか? いいえ、テイマーです』
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「さて、始めようか」
夜の帳が降り、静寂が支配する村はずれ。
そこにてクヴィホと名乗る狐の獣人とレイは対面していた。
「……いったい何をじゃ」
「それは、今やるべきことをするだけさ」
そう告げて紡ぐ。
「──『この地に今、欲するは器。ありとあらゆるを煮込む鍋、かき混ぜるモノ。全ての利はぐつぐつと煮え立ち、不はすべて取り去ろう』」
「な、なんじゃこれは……魔力の量、質全てが規格外……! これが、【精霊帝】のチカラだとでもいうのか!?」
目の前になされる圧倒的な力はもはや偉業、御業の領域。
「『生あるものの娯楽にして命をつなぐ。ゆえに客人のワライゴエは其れを彩る一色とならん。さあ、ここに宴は開かれん』」
臨界に達した魔力が強く輝き、形を成してゆく。
それを前にして、クヴィホは何もできず──
「──『精霊帝魔法』【精霊の饗宴】!」
光は弾け、それらが姿を現す。
「──は、調理器具?」
「火の子はコンロに火を、水の子は鍋に水を! 土は釜、風はなんかいい感じに!」
『『『はーい!』』』
精霊たちの元気な声が響き渡り、各々が行動して行く。
「ほら、クヴィホもなに突っ立ってるの?」
「え……」
「みんなを呼んでこなきゃ。大勢で食べる方が楽しいでしょ?」
「え、いや、あの……シリアスは?」
「あれ、シリアルが食べたかった?」
「……もういい。呼んでくるとしよう」
かみ合わない会話に諦めたクヴィホは村の者へと声をかけに行く。
「あ、レイさんご飯作るんですか? 手伝います!」
「じゃ、そこの野菜をお願いね」
シリウナに役目を与えて自分も作業を始める。
「お味噌♪お味噌♪お味噌があるから〜♪味噌汁、味噌鍋、さば味噌煮〜♪」
この村に来てから手に入れた味噌を使って様々な料理を作り上げて行く。
「『錬成』、『錬成』、これにも『錬成』♪ っと。やっぱりいいなぁ『錬成』。煮込みもなんでも『錬成』で味を染み込ませられるから時短が出来る!」
楽しげに作り上げて行くレイの背後にいくつかの気配が生まれる。
「お母様、ただいま戻りました」
「ん、お店終わった。レイのご飯? 手伝えることある?」
「んー、イリスはゆっくりしてて。エーナは……ああ、報告もあるのかな? 『シスターズ』に頼んだ報告は後でまとめて聞くから、君もゆっくりしてるといい」
「分かった」
「我らが母の御心のままに」
休めと言わないとなかなか休もうとしない2人にそう告げる。
「集めてきたのじゃが──ものすごい光景じゃな」
様々な物が宙を舞って、踊るように出来上がって行く光景に感嘆するクヴィホ。
「ああ、もう少しで準備が終わるからもう少し待ってね──っと。はいはい、皆さんどうぞ。立食形式だからご自由にお食べ下さいなー!」
「──ん、美味しい」
号令に間を置くことも無くご飯に食いついたイリスを見て微笑むレイ。
そんな光景を見て、警戒していた獣人達もゆっくりとではあるが食べ始め──
「う、うまい……」
「こりゃすげぇや!」
その反応が後を押して次々に食事に手をつけ始めて笑顔が生まれる。
「──いい、ね」
そんな光景を眺めて、彼は静かに呟くのであった。
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「……待たせたかのう」
「いやいや、そんなに待ってないよ。永い時を待った君に比べたらね。お団子でも食べるかい?」
「そうじゃな。もらうとしよう」
しばらく静かに団子を食べながら空を眺める。
「のぅ、ひとつ聞きたいことがあるんじゃが……いいかの?」
「んー、まあ、答えられることなら」
緊張した面持ちの彼女に対し、のほほんとした様子で答える。
「……汝は、『外側』のモノか?」
「……まだ内側にいるよ」
少し溜め息を吐いてから苦笑して言う。
「君がそう考えたのも無理のないことだよ。僕は『鑑定』でも見れないだろうし『未来予知』や『世界の記録』を通じてもみることはできないだろうからね」
「……お主、どこまで知っておるのじゃ」
「さあ? 知っているともいえるし、知らないともいえる」
「一体どっちなんじゃ!? 童はバカ試合に来たのではない!」
要領を得ない言葉に、いら立ちを募らせるクヴィホ。
「僕らはまだ互いを知らなさすぎるんだよ。特に、君はね」
「なら、お主のことを教えてくれるとでもいうのか?」
「うん、そう言うこと。まずは前提としてこの世界の住人じゃあない。【勇者召喚】によって呼び出された者だ」
「【勇者召喚】、だとっ!? どういう事だ!」
クヴィホの怒声にも似た声が響く。
「いつだ! 【勇者召喚】が行われたのはいつだ! どこで!? いや、それより──【光】と【闇】の『秩序』が奪われた今、誰が【異界干渉】を行った!?」
「──さあ? でも、予測は付いてるんじゃない? それが直接じゃなくても、『面白そうだから』って理由で実行させそうなやつが」
「──【邪神】」
「そういうこと」
自分の知らないところで世界が動いていたことを知り、驚愕を隠せないクヴィホ。
「奴なら、『世界の記録』から見れなかったことも納得できる」
「だから僕らは情報のすり合わせが必要なんだ」
「そう、じゃの」
レイの言葉に少し落ち着いたクヴィホはその場に座り直す。
「さて、ゆっくり話し合おうじゃないか。夜食にきつねうどんはいかが?」
「貰おう!」
そうして二人は夜が開けるまで飲み食いし、語り合ったのであった。
「もう行くのかの?」
「うん、思っていたよりもこの世界には後がないみたいだしね」
語り合った翌日、彼らは村のハズレに居た。
「すまぬな。このことに関しては我は──」
「知ってるよ。君は『世界の意思』から生まれた。ならば、世界を壊しかねない行為を自らすることはできない。昨日話したでしょ?」
レイは知ってしまったのだ。
彼女もある意味で『理』と決別した存在だと言うことを。
──不要だと言われ望まぬ形で切り捨てられた存在だということを。
「レイさーん! 荷積み終わりましたよー!」
「うん、ありがとう。じゃ、お世話になりました」
「どっちかと言うと、コチラのが世話になったんじゃがな。我等(の話も聞いてくれたしな」
「……いえいえ、こちらこそ。知りたかったことも知れたしね」
いつもと変わらぬ様子で彼は話し続ける。
「それで、本当のシリウナも連れて行っていいのかな」
「信頼されとるんじゃろ。まあ、温情とかほかの感情があるだろうことは否定せぬがの」
「『感情』、か……『ヒト』の『感情』って言うのは美しいとも思うけど、大変なものでもあるよね」
「その言葉は──いや、無粋なことを言うのはやめておこう」
「そう? じゃあもう行くね」
そう言い残してレイは仲間達のところへと向かう。
「ほら、シリウナ。ちゃんと行ってきますしておきなよ」
「はい!おばあちゃーーん!行ってきまーーす!立派な狐になって帰ってきまーーす!」
その言葉を背に受けたクヴィホは振り向かずに手を振ることで見送る。
「さて、これからどうしよっかな?」
「あれ、何も考えていないんですか?」
「うん、大筋は考えてるんだけど……もう少し、『ノウト武具店』の営業でもして、時が来たら動く感じかな」
「……なんか夢みたいです。どうなるかわからない状態だったのに、また日常に戻れるなんて……」
「そうだね。一時かもしれないけど、この日常を謳歌するといいよ」
「──え?」
「エーナ、馬車を」
戸惑うシリウナをよそに、指示を出して馬車を進める。
「さて、光輝たちはどうするのかな?」
そんな期待を胸に抱きながら。