歩みを進めるは誰が為に
どうも皆様、ナリアです。
我が道の完結が目前なので、こちらもボチボチ再開していきますよーってことで。
今日は我が道も投稿するのでお楽しみに。
それではー、どうぞー!
「ババ様!」
「ッ!?ほかの者も続け!」
「「「ウォォオオオオオオオ!!」」」
全軍に号令をかける。かけざるを得なかった。
唐突に現れた『同族』が【魔法】に撃たれたことによって若い衆が先走ってしまったのだ。
『獣人』は一部を除いて仲間意識の強い『種族』だ。
だからこそ、特に堪え性の無い若い衆は抑えきれなかったのだろう。
しかし、彼女が呆けてしまったのはそれがあまりにも予想外だったからだ。
(アレは、シリウナか……? いや、しかし我の『予知』には欠片も気配すらなかったのにか? ──まさか、『外なるモノ』か?)
自分が思い浮かべたモノに顔を顰める。
(……いや、ヤツはここ数百年は目立った行動を起こしていない。なら、何が……)
思考を巡らせていた、その時だった。
シリウナが腕を振るった瞬間、迫っていた魔法が消失したのだ。
──全身の毛が、逆立った。
「そんな馬鹿な……いくらなんでも早すぎる!」
思わず悲鳴じみた声をあげる。
それが目覚めるのはまだまだ先のことで、こんな場所で行使されれば何が起こるかわからないチカラ。
──そしてそもそも、そのチカラを目覚めさせるつもりなど無かったのだ。。
もう、止められない──
そんなことを思ったときだった。
『──剣を引け』
『本能』が足を止めた。止めさせた。
見回せば、全員が足を止めている。
(なんだ、これは……一体、何が──)
『うん、いい子たちだ』
天から降り注ぐ声に見上げれば翼を背負った白きものが浮いていた。
「……、『精霊』、か?」
疑問を覚えたのはそれがあまりにもつかみどころのない存在だったからだ。
「訳が分からない……あれは、あり得るはずのないものじゃ……」
どこか恐れを孕んだ声に震えが走っていた。
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「やあ、シリウナ」
「レイ、さん……?」
「まったく、UMAでも見たかのような顔してさ」
舞い降りたレイを、信じられないものを見たかのような表情でみるシリウナ。
そこにレイが突っ込んでしまうのも無理はない。
「どう、して……」
「どうしても何も……うちの店員が糧の事情で困ってるんだ。多少気を使っても問題ない。でしょ?」
なんでもないことのように、いつもの笑顔で言い放つ。
「そんなに僕は頼りないかな?」
「そんなこと、ないですけど……」
レイがシリウナに触れ、一瞬で汚れや疲労といったものをなかったことにする。
「ありがとうございます……」
「さて、ここからがめんどうなんだよねー」
あっけらかんと言い放つ。
「あの、もしかしてですけど……何も考えないでここまで来たんですか?」
「……てへ」
「ちょっ、かわいく照れてる場合じゃないですよ!? レイさんが負ける気はしないですけど、面倒に巻き込まれるかも──」
「あ、それは大丈夫。そのくらいは遥か昔に決めて、覚悟していたことだから」
「?」
どこか違和感を感じる言い回しにシリウナは首を傾げるが、その真意を読み取ることはできない。。
「ああ、一つ聞きたいことがあった。君は何処でその話を聞いた?」
「えっと、街にいた商人に……」
「今回の戦はほとんど両国が下準備もそこそこに、電撃帝に行われたものなんだ。それを、その商人はどうやって知ったのだろうね?」
その問いかけに「そういえば……」と首を傾げるシリウナだが、彼女に答えを求めた問いではなかった。
「さて、そう言うことなら唯々力でねじ伏せるのはなしだね──『無眼』」
「っつ!?」
突然のチカラの行使に思わず悲鳴を上げそうになる。
「──指揮官はこれとこれか。君の好きにはさせないよ。【門接続】【開錠】」
白く輝く門が出現し、開く。
「『おいで』」
強制する力の込められたその言葉に二人の人影が現れる。
「さ、自己紹介を」
「【パラス帝国皇帝】、『グレス・パラスエス』だ」
「【獣王国・族長代表】、『クヴィホ』じゃ」
「お、おばあちゃん!?」
その片割れが、まさかのシリウナのおばあちゃんであった。
「ああ、成程。先にやることがありそうだから、少しの間自由に話してていいよー」
「おお、シリウナ。元気そうで何よりじゃが……この存在、何者なんじゃ?」
「うんうん、感動の再会だね。じゃあ、こっちも話すことはなそうか」
その再会を見届けて、一言残してその場から離れ、グレスへと向き直る。
「さて、話をしよっか。【魔王の魔剣】『ロヴェリグロシアイム』くん?」
「御見事です。まさか、気が付かれているとは……」
「僕の眼には見えないはずのものほどよく映るからね」
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【魔王の魔剣】『ロヴェリグロシアイム』
保有性質:『覇道』【魔道】【自我】
かつて【魔王】が使っていた魔剣。
ソリが合わない所有者の精神を蝕むことがある。
認めた所有者に対しては『覇道』へと導き、妨げる一切合切を斬り伏せる。
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レイの視界にはそんな情報が写っていた。
「『鑑定系技能』……いや、何か違う?まあ、今それはいい。貴方のような強者に、伝える事が二つある。聞いてくれないだろうか?」
「うん、できることならね」
「ありがたい。一つは主からの伝言だ。『もしお前が余より強いならば、殺してでも止めてくれ』」
「……で、二つ目は?」
「二つ目は伝えることというか、俺の願いだな。もし貴方が圧倒的強者であるなら──主を、助けてやって欲しい」
グレスの身体を借りた【魔剣】『ロヴェリグロシアイム』はそう言った。
「へえ、どうして【魔剣】である君がそう願う? ああ、それと僕に敬語はいらないよ。進行は止めてあるから、ゆっくりと話すといい」
「そうか……? いや、こいつといると楽しかったんだ。それを勝手に踏みにじられるのが許せない。ただ、それだけだ」
「そっか、大切なんだね。ならその願い、かなえてあげよう!」
どこか楽しげな様子でグレスへと歩みより、触れる。
「──『お前はいらない』」
何処までも感情を感じさせない声で紡いだ。
──それだけで、ことは終わっていた。
「さて、やあ、調子はどう?」
脱力し崩れ落ちたグレスへと声をかけながらポーションの瓶を手渡す。
「……ああ、生きている、な。ったく、ロヴェのやつ。無茶なことを他人に願いやがって……」
「いいんじゃない?それだけ君は愛されていたってことなんだから」
「……そう、かもな」
『……ふん』
「素直じゃないねえ」
どこか楽し気に──されどどこか寂し気に、レイはその様子を眺めていた。
「さて、【皇帝】さんはどうする? 君を支配していた悪い虫は消し去ったわけだけど?」
「……これ以上戦争を続ける気はねえ。この世界の覇者になるってのも悪くはなんだろうが……お前さんと敵になる可能性があるならそこまでの価値はない」
「そっか。じゃあ、この場は僕が取り持ってあげよう!」
銀の翼を羽ばたかせ、空に舞いては言を紡ぐ。
『──ここにある憎しみは、とあるものによって生み出されたものだ』
荘厳に、静謐に。
『君たちはそのものが用意した盤上で踊る道化でしかない』
感情を逆なでるような言い方だが、そこの言葉に嘲りの感情はこもっていない。
『──それでいいのかい?』
人の感情を動かす様は悪魔のように。
されどかける言葉は救いをもたらす神の如く。
『その盤から逃れ、自分たちの物語を紡ぎたいと願うなら、僕が手を引いてあげよう』
心が動き始めている者もいるが──まだ足りない。
『信じられないものもいるだろうし、まず初めに──この戦争を終わらせることから始めよう』
地が揺れ、樹が伸び、【皇帝】グレスとクヴィホが持ち上げられる。
『復讐を望む者もいるかも知れない。しかしそれは、そこに関わらなかった者たちへ向けるべきものではない──ここにただの殺し合いを終わりにするというのなら、この場を僕が預かろう』
そしてレイは決定的な一言を口にする。
『【無属性王位精霊】、【精霊帝】レイの名において、ここに終戦を宣言しよう』
和解の握手が結ばれる。
瞬間、あたりに花が咲き誇り、一面が花畑になる。
「「「おおおおおおおおおおお!?」」」
『さあ、帰るがいい。君たちを待つ者がいるとことへ!』
「【帝国軍】、帰るぞ!」
「【獣王軍】も帰還するのじゃ! 不満のあるものは戻ってから聞こう!」
目の前の軌跡のごとき光景に感化された彼らは帰るべき場所へと帰ってゆく。
──只人から見ればそう映ったことだろう。
「手伝ってくれてありがとね、ドライアド」
「構わないわ。リソースを分けてくれた上に好きに草花を咲かせていいって言うんだもの」
和解がなされた大樹に降り立ったレイはそこにいた彼女に語り掛けた。
「──今回は助かった。まさか、【精霊帝】とは……」
「ああ、それは気にしなくていいよ。今回のことは僕にとっても意味のある事だったしね。ソレよりもしっかりと『獣王国』には謝罪と賠償を。ここから先の人同士のやり取りにはかかわるつもりはないからね」
「わかっている。今回の礼は個人的にもしたいと考えている。ぜひ【帝国】に顔を出してくれると嬉しい」
「わかった。今度遊びに行くよ」
そんな会話をして、グレスは帰ってゆく。
「……お主、何者なんじゃ?」
「ああ、狐さん……『クヴィホ』を名乗ってるんだってね。逆二聞こうか……君は何者かな?」
問いに問いを返しながら、レイは笑みを向ける。
その瞳に興味の色すら無く、答えの知っている問いを唯々形式として聞いているかのよう。
「何が、見えているのじゃ……」
「君にすら見えていないものを」
怯えるクヴィホに、虚無的気味な笑みを浮かべるレイ。
「まあ、僕も色々と話したいこともあるし、君もシリウナと話したいよね? ってことで、君たちの国に同行したいと思うんだけど……いいかな?」
「断れるわけなかろう。わかった、早馬で伝令を送ろう」
「ほら、シリウナも行ってくるといい。僕はイリスにも伝えなきゃだし後でまた、ゆっくり話そう」
「わかりました。ありがとうございました」
礼を言って去ってゆくシリウナを見送って、人りになったレイは小さく息を吐く。
「よかったの【精霊帝】さん? あんなことをしちゃっても」
「あんなことって言うのは……彼らから戦意を『なかったことにした』ことかな?」
何事もないことのように言うレイに首を傾げるドライアド。
「あなた、人の心に直接干渉するの嫌いじゃなかった?」
「そうだけど、僕はもう決めたんだ。大切なものを守るためなら、禁忌だって犯して見せるってね」
「……そう。人のルールに縛られないって言う意味なら精霊らしくなってきたんじゃない?」
イリスに『魔道具』で連絡を取り始めたレイを見て、ドライアドは小さく呟くのであった。