これは──
先週は投稿できず申し訳ございません。
『・・・!』
「──クッ!」
──剣がハルバードの勢いに負け、後方に飛ばされる。
「レスト!」
「──『我が水は、金属を喰らう』【腐食水蛇】!」
レストが詠唱を終えると同時、緑色の水球が蛇を象り『霊導鎧』へと食らいつく。
【水】に【酸化】という『腐食』の概念を乗せ、食らいつき巻き付くという『蛇』を象らせたそれは、この世界における【魔法】の中でも高次元なものであった。
本来こと金属において有効的な【魔法】である。
──しかし、今回ばかりは相性が悪かった。
「──っ!?効いてない!?」
『霊導鎧・ミニマムゥ』。
その身体、その鎧はほぼ錆びないとされる『純鉄』である。
さらにそれだけではなく【無属性】という特異な【属性】が、その効果を減衰させる。
結果、『霊導鎧』を腐食させるには至らなかった。
「マジかっ!?コイツ、本当に鉄か?」
「少し苦手だけど──『【水】と【土】の精霊よ、我が魔力を糧とし敵を沈めよ』【泥土化】」
『霊導鎧』の足元が泥沼と化し、自重も相まって下半身まで一気に沈む。
「さて、剣戟も【魔法】も効かないとなると……どうしますか?」
「うむ……仕方ない。アレを使う。時間を稼いでくれ」
そう言うとアドルフは地面に剣を突き立て、瞑目する。
「あ、ちょっと……!はぁ、それしかないとは言っても勝手に決めて……ま、私はやることをやるだけなのよね。昔から」
(──文句言いながらも、何とかしてくれるからこそ信頼してるんだがな)
そんなことを思いながら、紡ぐ。
「──【制限一次解放】」
その瞬間、魔力が溢れ出る。
アドルフのカラダには紫色の鎖が巻き付き、その上から数多の【魔法陣】が展開されている。
──その鎖が、砕け散る。
(……レイの時には使う余裕すら無かったからな。使える今、使わずに後悔するくらいならば、使ってやるさ!)
──【弱体呪縛鎖】の【一次解放】を検出しました。
──【魔法剣】の隠し効果により、【呪縛】の【解呪】を施行……
(──ッ!?なんだ、こんなの初めてだぞ……【魔法剣】の効果だと?)
唐突に脳内に響き渡る声に戸惑うが、そんなアドルフに構わず、声は先へと進み続ける。
──【解呪】不可。
──【破壊】及び【無効化】も装備者への負担が多いと判断。軽減へと移行。
──【魔法剣】が【退魔剣】へ変化しました。
(──?なんだ……身体が、軽い……?)
「──アドルフ!コイツ……力、強すぎ、限界!」
悲鳴にも似た声に視線を向ければ、既に『霊導鎧』はその半身を地から引きずり出していた。
「──大丈夫だ。もう、撃てる。『限界突破』!」
カラダから、白いオーラが溢れ出る。
そのオーラは次第に、剣へと収束していく。
「──【崩穿禍】!」
引き絞った剣を突き出せば!渦巻いたオーラが放たれる。
それは『霊導鎧』を呑み込み、大樹へと突き刺さる。
「──やったか」
渦が消え、ズシンッという音とともに地面に落下したそれを見て呟く。
「そのようね。……それにしても今の、あなたの全盛期くらいの威力が出てなかった?」
「そうだな……説明は後回しだが、どうやらこの剣のおかげらしいな」
そう言い終えるとアドルフの周りに【魔法陣】が現れ、再び鎖が身体を締め上げる。
「……あれ?反動は大丈夫なの?」
鎖が不可視になると同時、疑問を覚えたレストが問いかける。
「……いつもなら動けなくなるはずなんだが、どうやら大丈夫のようだ」
「それも、その剣のおかげ?」
「……だろうな。それにしても、今の【崩穿禍】は山の一角くらいなら吹き飛ばせる威力があったはずなんだが……傷ひとつ無いな」
アドルフの言うように、当たったその場所を見ても目立った損傷は見当たらない。
「普通の木じゃなさそうね」
「そうだな。……それよりも、だ。そこそこ時間が経ってるのにも関わらずコレが止まらなかったってことは……コウキたちに何かあったか?何も無ければいいが、急いだ方が良さそうだな」
「そうね」
そう言って木へと視線を向け──
──目があった。
「──グッ!?」
「アドルフ!?」
咄嗟に盾を滑り込ませるが、そのハルバードに吹き飛ばされる。
それを成したのは──鉄色の、鎧。
「まさか、まだ動けたの……?いや、残骸はあそこにある。なら、に、二体目?」
レストが、震える声で零す。
アドルフが切り札を使ってやっと倒せたものが、もう一体いたのだ。
──それも、後衛の自分の前に、遮るものなく。
「う、あ……え、【風爆】!」
咄嗟に放った【魔法】も、その鎧が腕を振るえば掻き消される。
そのまま目の前まで歩み寄り、ハルバードを振り上げる。
それが振り下ろされればそこにあるのは、明確な死。
「ひっ……」
振り下ろされたソレに思わず悲鳴が漏れる。
「『──【栄光】を手に、【王国】を成し、そこにて我は【罪】の裁を執る。──果たしてそれに、正義はあるか』」
──しかしながら、それが振り下ろされることは無かった。
「──【審判】!」
緑の風が、鎧を吹き飛ばしたからだ。
「いやー、あの木ごと吹き飛ばす気で殴ったんだが、かったいなぁ……」
「──えっ?」
そこに居たのは──緑の装いの女性。
「……ドライ、アド?」
「んあ?……あー、髪色と事かな?こんな形だけど私だ。桜だ」
「「えっ!?」」
二人が驚くのも無理はない。
なぜなら、桜の髪色は綺麗な緑色になっていたのだから。
「というか、アドルフ!怪我は!?」
「咄嗟に盾を使ったおかげでなんとかな……って、それよりも、鎧が!」
「ああ、それなら気にしなくていい。もう終わってるから」
アドルフの警告にそう呟いた瞬間だった。
──立ち上がった鎧が、塵となって消し飛んだ。
「「……は?」」
「驚いてる暇はない!若しかしたら、光輝たちがヤバいかもしれないんだ!」
「なんだと……どういう事だ?」
「説明は移動しながらする!一刻を争うんだ!」
そう言って駆け出す桜を追って、二人も駆け出した。
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「──【精霊帝】が、正気じゃない可能性がある、だと?」
桜から聞いた話は、端的に言えばそういうことであった。
「どういうことでしょうか?襲撃を受けたということと関係があるのでしょうか?」
「ドライアドから聞いただけだから何とも言えないんだけど……ああ、うん。あるかも知れない。少なからず、それも契機の一つではあるのかな。それになにより──」
そこで言い淀んでしまうのは、理解できなかったからだろうか。
「──少しだけ、疲れちゃったんだって」
その言葉に疑問を投げかけようとするが、【転移】の光に包まれできなかった。
そして、それを聞く余裕など消え去ってしまった。
なぜなら──
──『勇者』である光輝を始め、先行した彼らは例外無く地に倒れ伏せていたのだから。