繋がり
もう12月ですか……早いですね。
短めですが、どうぞ
「ふぅ、やっと落ち着いたね」
「ん、疲れた」
「全くですよ、もう……」
『アドヴェアス武闘大会』が終わってから数日、彼らは大忙しであった。
「まさかここまで宣伝の効果があるとは思ってもみなかったよ……」
「でも、売上は伸びましたし、いいことじゃないですか」
「それは間違いないね」
そう言って苦労を共に分かち合った三人は笑みを浮かべる。
「さて、じゃあ一苦労終えたってことで……今日の夕食は豪勢に行きますか!」
「ん、楽しみ」
「なにか食べたいものはある?」
「イリスさん次第で」
「じゃあ、お肉」
「おっけー、じゃあそうしよっか。なら──」
「あ、なら私が買出しに行きますよ」
レイが『買い物に行こう』と言おうとしたのを遮ってシリウナが言う。
「一応私は『奴隷』ですし、このくらいはさせてください」
「うーん、なら任せようかな。とりあえず予算はこんなもので……」
「ちょっ、多いですよ!金貨5枚何て……」
「気にしない、気にしない。もし疲れたらどこかで休憩してくれても構わないからさ」
「……わかりました。それでは、このお金で買える、めいっぱいの上物を選んで来ますので、楽しみにしててくださいね!」
そう言って走り去っていくシリウナを、二人で見送る。
「さて、予定が空いちゃったね……」
「……そう言えば、レイはこれからどうするの?」
「どうするって、なにが?」
「ここに定住はしないって言ってた。なら、『昇級試験』が終わったらどうするの?」
前のことを思い出しながら、イリスは首を傾げる。
「うーん、まだ考え中ではあるんだけど、『帝国』の領地を通って港町まで行ったあと、『魔大陸』の方にも行ってみようかと思ってるんだよね」
「『魔大陸』?」
「そ、若しかしたらイリスのこともわかるかもしれないしね」
「……ありがと」
「どういたしまして。とは言ってもまだ確定したわけじゃあないし、暫く後になるだろうけどね。それよりも、今日の夕飯をどうするかが先の方がいいかな?」
「ん、先のことより、今のこと。レイのご飯はおいしい」
そう言うイリスにレイは笑みを浮かべる。
「さて、じゃあ手によりをかけてやらないと──」
『『創造主様』、今よろしいですか?』
レイの言葉を遮るようにして、ヴァニラから『念話』が届く。
「?どうかした?」
「ああ、ヴァニラから連絡が入ったんだ。少し待っててね」
「ん、構わない」
『──で、何かあったの?』
『実は──』
ヴァニラからの連絡を聞いているレイの表情が、少しずつ険しくなっていく。
『『外側』からの干渉は?』
『今のところ見られませんが、見えないところでは判断できません』
『そうか、なら、僕がそちらに向かう。そのように伝えておいてくれるかな?』
『御意に』
「ん、おわった?」
感覚で会話が終わったのを察したイリスが、レイに話しかける。
「うん、それでなんだけどさ、ちょっと問題が発生したみたいなんだ。だから申し訳ないんだけど、『豪勢な夕食』は後日にしてもいいかな?」
「ん、わかった。シリには伝えておく。期間は?」
「数日かな。その間店は任せるけど、大丈夫?」
「ん、心配なし」
「じゃあ、頼んだよ」
そう言ってレイは【精霊門】を開いて通り抜ける。
「……シリ、まだかな」
消えて行く【門】を見ながらイリスは、少し寂しげに呟いた。
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「なかなかいいお肉が買えましたね……」
酒場の一席に座ったシリウナはそう言って脱力する。
「それにしても、『錬成師』でありながらあれほどの『武具』を作って、大成功を収めて、更には『Aランク昇級試験』まで控えてるって……もう常識知らずと言うよりは『常識ハズレ』ですね」
レイのことを見ていると忘れてしまいがちだが、この『世界』における『錬成師』は『ハズレ』とされている。
それなのにも関わらず、大成功を収めていることに今更ながら疑問を覚える。
「いったい、何ものなんでしょうか……」
「なあ、知ってるか?」
一人で呟いていると、近くの席から声が聞こえてきた。
「なんだよ」
「いや、この前あの『帝国』が『魔族』の襲撃にあって、たまたま居合わせた『勇者』一行と共に撃退したって話はしただろ?」
「ああ、嫌になるほど聞いたが……それで?」
「これはこの前聞いた話なんだがな。その『帝国』が戦争をおっ始めるらしいって噂なんだ」
「襲撃を受けたばかりだってのにか?まあ、そこら辺は国の思想とかがあるんだろうが……それで?相手は?」
「ああ。それなんだが──『獣人王国』だって噂だ」
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「ん、シリおかえり……そんな深刻な、顔してどう、したの?」
帰宅したシリウナに、イリスが心配そうに声をかける。
「そう、ですかね?とりあえず、レイさんはどこに?」
「レイは、用事ができたって。それで、豪勢な夕食はまた今度って」
「そう、ですか。それは……ちょうどよかったかも知れませんね。実は私も、私用ができてしまいまして……数日ほど帰って来れないかもしれないんです」
「ん、わかった。元々レイに、シリウナの好きにしていいって、言われてた」
「では、伝えておいて下さい」
そう伝え、店を出ていった。
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(本当に、レイさんがいなくて良かった。多分あの場にいたら、レイさんの優しさに縋っていた)
シリウナは一人、夜道を駆けながら思う。
(これでしばらくは、一人きり。そう言えばレイと会ってから、常に誰かといた気がする)
一人になった店の中で、イリスは思う。
『レイ』という繋がりで繋がっていた二人は──
「「──独りって、久しぶりな気がする」」
──揃って孤独感と寂しさを感じていた。