表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/5

序 夕刻

 西日が左手から差し込む。その眩しさに、クロウザー・ライドはバイザーの下で目を細めた。そして、素早く計器に目を走らせる。アナログメータがところ狭しと並んだコンソールを一瞥し、異常個所が無いか確かめる。コンソールは夕陽を受けて鮮やかなオレンジに染まっていた。計器はまだ僅かな機体の変動に反応している。そうはいっても、この機が墜落するのは時間の問題だと思った。先ほどのACM(空中戦)で何発か弾を食らっている。グスタフJE3型ジェットエンジンはいまだに頑張ってくれてはいたが、もう長いこと異常音を奏でていた。機体を通して感じ取れる振動はクロウザーをまさに全身から震え上がらせ、彼はずっと足元から崩れざるような緊張感と戦っていた。

 すでに息絶えた計器は無視し、彼はコンパスへと視線を移した。目的地など無い。自らの帰る場所は背後にあった。そして、そこはすでに壊滅しているはずだ。燃料計はランプが点滅し、力尽きるまであと三〇分と無いことを必死に訴えていた。

 クロウザーは水平飛行を続けた。時々僅かにぶれる機体を、祈るような思いでラダーと操縦幹を使って進路を元に戻す。そのたびに素直な反応を返す愛機に、クロウザーは心からの愛情を持って僅かに笑みを浮かべるのだった。

「そうか……まだ飛べるか?」

 答えてくれる相手はいない。でも、返事は確かに聞こえた気がした。

 ゆっくりと顔を上げ、夜の帳の降り始めた空を見上げる。そして、地平線を追いかけるようにして視線を左手に流した。地平線を光が走っている。死に行く寸前に輝きを増すようにして地平線に沈んでいく夕陽を見つめながら、クロウザーは後部座席へと声をかけた。

「セシル……夕陽が沈むぜ? 見えるか?」

 返事は無い。後部座席上部のキャノピーは弾を掠めたために全面に細かなヒビが広がっていた。酸素マスクをしていてもその隙間から染み込もうとする血の匂いがする。それでも、クロウザーは構わず話し続けた。

「なぁ、戦争が終わったら俺の故郷を見せてやるって言ったよな? 予定は変更して、今度連れて行ってやるよ……辺鄙な田舎町だから、見るところなんて無いが……オフクロの話はしたよな? 前に手紙にお前のことを書いたら、『彼女か』って煩いのなんの……」

 クロウザーの話し振りに、僅かに鼻をすする音が混ざる。彼は前を向くと、クッと顔を上げた。

「……オフクロに引き合わせて、誤解を解かなきゃな。お前は俺のもっとも信頼する整備士で、パートナーだって……戦争が終わったら……終わったはずなのに……」

 言葉が途切れ、嗚咽だけが漏れる。それを、ジェットエンジンの咆哮がそっと打ち消した。それが愛機の優しさのように感じ、クロウザーは愛機に抱かれて泣いた。

「……なんで、また人が死ななけりゃいけないんだ……?」

 クロウザーの空を思わせるブルーの瞳から涙がとめどなく溢れ、夕陽を含んで黄金色に爆ぜた。


まだ短い序文なのですが、読んでくださったみなさまに感謝の意を。


そう長い物語ではないのですが、この序文を入れて全5話に分割して掲載させていただきます。


続きもすぐに投稿いたしますので、どうかよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ