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09:その組織は適当に回っている。

 ルーフ村。

 トランベインとセントクルスの国境から少し南下した位置にある村。

 ただ村というには少々違和感があると、この場所を訪れた誰もが思うだろう。


 まず村を囲う防壁。

 王都のそれほど立派なものではないが、石材と木材を組み合わせて構築されたそれは頑丈だ。華々しさには欠けるが。

 防壁の中は立派な町並みがあり、人の生活によって生まれる灯りや煙が淡々と存在し、その灯りに誘われるように旅人や商人が集まっている。


 村というよりは砦だ。


 二カ国の戦争がこの地に火の粉を飛ばしてくることはそう珍しくはない。

 兵士の駐屯地として使われたり、あるいは主君を失って暴走した敗残兵が盗賊となって襲い掛かってきたり。


 そんな土地で生きるのは大変だ。

 だから村を捨てるという選択もあったのだろうが、何世代も前の村人たちはその道を選ばずこの地で生きると決断した。

 土地への愛着と言えばそうだし、見知らぬ地で生きる自信がなかったといえばそれも真実。一言で語れるほど単純ではない。


 とにかく情勢に流されやすい不安定な土地で生きると決めたから、それにあわせて村は堅牢に発展した。

 壁を築き、ある程度の篭城はできるくらいに物資を溜め込み、いざという時は戦力として雇われようという流浪の腕自慢が集まってきて、それと一緒に商人も、と。

 そして気がついたら村ほどの規模だった場所は、砦と呼ばれるようなそれになってしまっていた。


 しかしルーフ砦といかにも軍事施設ですよというような大層な名前をつけるのもどうか、では新たな名前に変えては、いやいやルーフの名に愛着が。

 結局意見は纏まらず呼び名が変わることもない。

 だからかつて田舎だったその地は、大規模に発展した今でもルーフ村なのだ。


 さて、それなりに大規模な村ともなれば、色々なものが活動拠点を作りたいと集まってくる。

 冒険者ギルドもルーフ村を一つの拠点と認めた組織だ。


 カーティナ。

 昔からルーフ村に住んでいた一族の娘。

 眼鏡をかけた彼女の悩みは、周囲に成人したばかりに見えると言われるような童顔だ。

 これでも結婚を真剣に考え、それどころかちょっと焦り始める年齢なのだが、童顔がどうにも悪く作用するのかなかなかいい話が見つからない。大人っぽくならねば。


 そんな結婚相手募集中できれば高収入玉の輿狙いの彼女の現在の職場は、冒険者ギルドルーフ村支部である。

 主な仕事は窓口業務。

 ギルドに所属したいという者がいれば手続きし、仕事を探すものがいれば相談に乗る。


 忙しい時は忙しい仕事なのだが、その日はどうにも暇だった。

 そういう時もよくある仕事ではあるし、慣れてもいるが。



「……暇ッ! っすねー」



 目の前にはテーブルを囲んで仕事の前の打ち合わせをしている冒険者、あるいは昼間っから酔っ払ってる飲んだくれ。

 ギルドの建物の半分ほどは冒険者たちの交流の場ともなる酒場であるし、二階は宿屋。

 ルーフ村の壁の中は土地の有効利用のために詰められるところは詰めるというのが基本なのだが、それはともかく。



「こう、目の前で酒を飲まれるとウチらもご同伴したくならないっすかー?」



 流し込むように酒を飲む大男の姿を見ながら、机に突っ伏すカーティナは軽い調子でぼやきながらため息。

 隣にいる同僚にして幼馴染の女は無愛想に返してくる。



「働け」

「働きたくても仕事がないんすよー? 書類仕事はだいたい片付きましたしー、相談に来る誰かもいませんしー。っつーわけで飲みませんか」

「業務時間中に飲むな」



 ド正論だ。

 返す言葉もない。

 それでもと、他にやることもないのでカーティナはお喋りを継続する。



「ちょっとくらい酔っててもなんとかなりますってー、ほらウチお酒に強いタイプっすから多少飲んでも窓口業務に支障はないっす」

「極限まで果実ジュースで割った酒の一口で丸一日酔い続けこの場所で寝ていた女の話を知っているか?」

「知ってるに決まってるじゃないっすかー。……私のことですいずれ伝説に刻まれますよ恐らく? 称えろ」



 どうだすごいだろう、と言わんばかりにキメ顔で不敵に笑うカーティナ。

 同僚は、そんな彼女の頭頂部に拳骨をふらせた。いい感じに頭の中が空っぽそうな音がする。



「痛ッー!」

「阿呆な同僚に毎日付き合った我慢強い女のことが伝説に刻まれる日もそう遠くないだろう」

「我慢強い女が暴力に訴えねーっすよ!? あ、ごめんなさい反省しましたもう一発とばかりに拳をチラつかせるのはやめましょう。暴力反対」



 そんな感じでそこそこ騒がしく時が流れていたのだ。

 ソレが来るまでは。


 カーティナは気づく、どうも周囲がざわついていると。

 その理由は何かと視線を巡らせて……それを視界に納めれば、カーティナにだって理解できた。


 異様である。

 ギルドの入り口から堂々と入ってきた連中。


 まず目を引くのは、恐らく男。

 背の高さや体型から判断してそうであると感じた。

 断言できない理由は服装だ。


 全身に、それこそ隙間なくぐるぐると巻かれ、余りは袖となって指先や足元まで徹底的に隠す布、布、布。

 そのほとんどは土の色だ、その辺で拾ったか長旅で汚れたのかは判断できない。

 ただなんとなく普通の人間とは違うシルエットをしている。

 鎧の上から布を巻いているような。あるいは何らかの亜人のソレか。


 一人目からしておかしな格好をしているが、次の女も中々にちぐはぐだ。

 服装だけならば地味な村娘である。その辺をいくらでも歩いているだろう。

 ただその女は、村娘にしては奇怪なまでに美しすぎた。


 細い体の線、真っ白い清浄の肌。

 どう見ても日の下で日々汗を流す労働者のソレではない。どちらかといえば上級貴族の箱入り娘といった容姿だ。

 そんな女が安物の布で縫われた村娘の服を着ているのだから見るものを混乱させる。

 彼女のやたら無機質な無表情もその妙な雰囲気を後押しする。


 そしてその二人を引き連れるように歩く三人目。

 どう見ても子供。童顔とかではなく、身長も顔も十代前半のソレ。

 衣服は前者二人と同様の安っぽいものだ。その辺の廃屋から拝借したようなボロボロのカーテンをマントのように羽織っている。


 が、そこから露出した白い肌は、奇妙な黒の模様で汚染されていた。

 細い足も腕も、顔に至るまで。

 本来なら可愛らしいはずであろう外見を痛々しいまでに刺青で汚されている。

 そんな体で、しかし少女はにっこりと薄く微笑んでいるのだ。聖母か、あるいは人形のように。



(どう考えても普通じゃないっすよねー……)



 とは思うものの、カーティナはあまり恐怖を感じていない。

 冒険者ギルドというのは実に多種多様なモノが集まってくる。

 明らかな農民や元兵士は当然のように、ちょっと珍しいモノで魔法使い。

 酷い時は明らかに危険な薬で頭をやられていそうな廃人間近のソレなんかも。


 奇人変人どんと来い、カーティナがこの仕事をやっていて身に着けたある意味でのスキルである。

 隣で少し不安そうにしている同僚の代わり、カーティナは三人組の中、恐らくリーダーであろう幼い少女と目を合わせた。

 彼女はにこりと微笑みを強くすると、カーティナの方へ歩いてくる。後ろの二人も共に。


 大人向けの高さのカウンターの向こうから、少女は少し背伸びをしてカーティナを見上げていた。



「ふふ、ここが冒険者ギルドというものだと聞いてきたのですけれど」

「ええ、そうっすよー。ご用件はなんっすかー?」



 カーティナは笑顔で対応する。

 その口調はよく同僚にどうにかならないかと言われる礼儀もなにもあったもんじゃないソレだ。

 一応直そうとしてはみたがどうにも昔からのクセは中々矯正できず、冒険者たちや上司もいっそ個性でいいんじゃないかと面倒くさくなって匙を投げたもはや呪いレベルの言語センス。

 初対面の相手は馬鹿にされたと怒ることもあるが、幼い少女は特に気にした雰囲気はない。



「ここにくれば仕事があるそうですね。それが目的です」

「新規に冒険者になるのをご希望っすねー。了解っすー」



 カーティナは机の下から書類をぱたぱたと手際よく取り出す。

 一応は三枚。



「三名様でよろしいっすかー?」

「ええ。私と、後ろの二人で」

「はいはいーっと、お名前はー?」

「私がラトと申します。後ろの大男がアル、女がゼタ」

「はいはいラトさんアルさんゼタさんーっと」



 カーティナは書類にすらすらと文字を書き込んでいく。

 ラト、外見的特長は全身の黒い刺青、登録時の外見年齢は十代前半、等々。

 それなりに個人を特定できる情報だ、ただこの辺はわりと適当である。

 ゼタに関しては美少女、ムカつくくらい綺麗とカーティナの個人的主観が八割ほど書き綴られているくらいに。


 身分や名前を偽って登録するものは多数いて、登録した後でまた名前や外見を変えて別人になりすます者もまたいたりする。

 例えば冒険者としての顔と犯罪者としての顔を両方使い分けるような、そういう類の。

 あるいは外見を偽る魔法を使って他の冒険者になりすましたりとか。


 冒険者ギルドという組織は、その辺の対策がかなり適当である。

 まず冒険者ギルドに所属している者が数千人いるという状態でしかも日々増える、上位の名の知れた者ならともかく末端のモノまでいちいち細かく調べるのは労力の無駄。

 下の方でセコいことを考える連中はだいたい早い段階で依頼中に死んだりとか行方不明になって勝手にふるい落とされていく。


 そして残った実力者は望まずとも名が知られていく。

 名や外見が知られればその人柄も広まっていくだろう。

 例えば誠実だとか、豪快だとか、狡猾だとか。

 長く生きればそれだけ多くの人々に記憶される。


 そうなれば実力者は周囲の目に縛られ下手な行動には出られない。

 もし犯罪でも起こそうものならギルド直々に細かい調査を行ったうえで捕縛命令が出るだろう。

 無論その調査は慎重なものとなる、ギルドとしても実力者を無闇に失いたくはない。

 そして調査の結果、なりすました何者かが実力者の名を語って悪事を働いていたと判明したならば、そいつが悲惨なことになるだけだ。


 あとはまあ噂だが、冒険者の評判を貶めるような真似をすると、上から相応の実力を持った暗殺者が派遣されて始末される、とか。

 真実かはともかく、実際に裏で悪事を働いていたような余りよろしくない冒険者がなぜか不幸な事故で死ぬことが不自然なまでに多い。


 ゆえに死にたくないなら実力を磨き、冒険者の評判を貶めぬよう相応に行動すべし、というのが暗黙のルールである。

 暗黙のルールだけで組織が綺麗に維持できるかはともかく、少なくとも現在のところは冒険者ギルドを傾けるような大問題が起きたことはない。


 もし先々にそんなことが起きたとしたら?

 発足時点で適当な組織であり、トランベイン王国の後ろ盾を得て多少はマシになったとはいえやっぱり適当な組織である。

 なるようになるのだろうというのが多くの冒険者の認識だ。

 計画的な人生設計を持つならそもそも冒険者なんて不安定な職にはつかない、とは誰の言葉だったか。


 冒険者という生き方にあわせるように、冒険者ギルドという組織は適当に適当を重ねて回っているのだ。

 その末端たるカーティナも、彼女が文字を刻む書類も、やっぱりそれなりに適当である。

 ただそれでも最低限、顔くらいは確認しておくべきかとカーティナは布でグルグル巻きの男に言う。



「すいませんアルさんー、その布とって顔を見せてもらってもー?」



 アルの答えは沈黙だ。

 なにもせず、ただそこに立つ。

 そのあり方が無言で拒絶を意味していた。


 彼に代わり答えを返したのはラトである。



「彼の体は見ないほうがいいと思いますよ」

「なぜっすかー?」

「彼は以前は兵士だったのですが……戦いの最中で酷い傷を負いまして。その姿たるや醜く焼け爛れ、元が何者であったかすら判別できぬほど。ゆえにあの格好で自らを隠しているのです」

「あー、それはお気の毒と言うか……わかったっすー」



 カーティナは書類に書き込む。

 アル、大男、全身に重度の損傷。

 嘘か真かは、彼が生き延びて活躍すればいつか誰かが暴くだろう。

 三枚の書類にカーティナ自身のサインを書き込んで、登録は完了だ。



「はいおつかれさまこれにてオッケーっすよー、冒険者ギルドにようこそお三方」



 答えるのはやはりラトだ。



「はい、これからよろしくお願いいたします。ふふ」

「こちらこそっすー。さて早速ですが色々とご説明いたしますかー」



 カーティナは、まずはと人差し指をくるくると回しながら頭の中で言葉を組み立てていく。



「そうっすねー、とりあえず仕事の請け方について。冒険者ギルドには一般人から貴族の方まで幅広い依頼が払える報酬の記載と共に持ち込まれるっすー。あっちの掲示板に張り出されるので受けたい依頼があれば私みたいな窓口係に持って来てくださいー」

「わかりました。報酬や報告などは?」

「報酬は依頼人さんから直接受け取ってくださいー、報告はまあ成功か失敗かくらいでいいっすよー。冒険者さんが報告に来なくても失敗したら依頼人さんが直接苦情を言いに来ますしー」



 カーティナの顔が少し嫌なことを思い出したかのような表情に変わった。

 ラトはくすくす笑う。



「苦労されているみたいですね?」

「あはは、顔すら知らない冒険者さんの不手際で文句を言われたりするんでそりゃーもう。哀れに思ったらまあ全てするするとことが運ぶよう行動してやってほしいっすー」

「ええ、努力します。ところでお願いしたいことがあるのですが……」

「はいはいー?」

「実を言うと私たち、自分たちの実力も正確に測れぬような未熟者でして。そんな未熟者でもできるような仕事を見繕っていただければ、と」



 カーティナはその言葉に少し感心した。

 冒険者というのは大体が自信家だ。

 村一番の力持ちとか、名家で昔から剣の訓練をしてきたとか、その自信を支えるものもあるし、それゆえに冒険者という道を選ぶのだろう。


 が、その自信や評価が実際の実力に見合ったものかは別問題。

 村一番の力持ちだった、簡単な魔物退治程度はこなしてみせようと意気揚々と出て行って二度と帰ってこない新人は数え切れないほど存在する。

 ギルドに持ち込まれる依頼の性質上、魔物退治という依頼は一般人や貴族のどら息子に毛の生えた程度の実力ではどうにもならないものがほとんどだ。

 だって簡単な魔物退治なら現地の村人が自分たちで片付けているのだから。


 となると魔物退治という依頼は冒険者になりたての時期にやるものではないとなるわけだが、どうにも強い魔物を倒して名を上げてこそ冒険者という認識の人々はその辺に気がつかないらしい。

 その点でラトという少女は、冒険者としては慎重である。

 冒険者として登録するやいなや何も考えず魔物を倒させろ、と言ってこない時点で長生きするタイプだ。

 ギルドの受付の女なんて傍から見れば一般人の延長線、実際のところは新人冒険者よりもずっと依頼などを見る目はある専門家に相談するところも実にわかっている。


 そしてカーティナは頼られるのは嫌いじゃない。

 昔は近所の子供に世話好きのお姉さんと懐かれていたのだ。

 世話をしていた子供連中の方が先に結婚した時のあの複雑な気持ちたるや。

 


「……年下の世話する前に自分の相手候補くらいは見つけておくべきっすよねー?」

「はい?」

「すいませんこっちの話っす。えっと、そうっすね。未熟者でも出来る依頼っすか」



 眼鏡を光らせつつ、まずはどの程度に未熟者なのかを確かめねば、と。



「えーっと、お三方は魔法は使えますか?」

「いいえ、残念ながら」

「ありゃ。ラトさんはその類の人かと思ったのですけれど」



 全身の刺青は魔法的な何かで使うのかとカーティナは予想していた。

 ラトは目元の刺青をなぞりつつ、くすくす笑う。



「これは……そうですね、この年齢で旅をしていると何かと悪い人に狙われたりもするものですから」

「ああ威嚇用ってヤツっすかー」



 外見が幼くとも、見るからに魔法を使いそうな相手。

 武術と違って魔法の威力は外見では判断しにくいものである。

 セントクルスにはそれこそ子供の見た目で兵士数十人を吹っ飛ばすような魔法使いもいるらしい。

 だからラトのそれっぽい見た目は、賊に襲うのを踏みとどまらせる程度の効果はあるのだ。



「ちっちゃいのに賢いっすねー」

「ふふ、それはどうも。そういうわけで見た目だけ、魔法は使えないのです」

「はいはい了解っす。一級でも魔法が使えれば多少は仕事の幅も増えるんですがー……と、なると腕っ節っすね」

「腕っ節ですか」

「単純に力持ちなら荷物運びとかのお手伝いがありますからー。えーっと、とりあえずそっちにあるテーブル」



 カーティナが指差す先、そこには四人ほどが机を囲んで食事できる程度の大きさの木製のそれがある。

 男二人でようやく持ち上げて移動させられる、というくらいの重量のそれだ。



「あれをちょっと持ち上げてみてもらっていいっすかー?」

「わかりました。……アル、出来ますね?」



 大男の首が縦に振られた。

 無言でテーブルに近づき、まずは両手でその重さを確かめている。

 ギルドの中は酒場の連中含めて静まり返り、誰もがその様子をじっと観察していた。

 アルは、左手をテーブルから離して、そして右手で端を掴むと。



「……ぬ」



 微かな掛け声と共に、そのテーブルを片手で持ち上げた。

 おぉ、と周囲から驚きの声が漏れる。

 カーティナもその声の主の一人だ。



「片手とはやるっすねー」

「彼は先ほど申した通り、元兵士ですから」

「なるほどなるほど恐れ入ったっす」

「そしてゼタは彼と同じくらいの力があると思っていただけ――」



 ラトの言葉が中断したのは、周囲の歓声にかき消されたからだ。

 何事かとそれが向けられた先を見ると。



「――訂正しますと、ゼタにはちょっとおかしなくらいの力があると思って頂ければ」



 ラトの視線の先、アルが片手で持ち上げたテーブルと同じものを三段重ねにし、片手の掌だけでバランスを取ってその場に立つゼタの姿があった。

 周囲の歓声や、呆然とするカーティナや、少し困ったような表情のラトや、何を無駄に目立っているんだと頭を抱えるアル、といった全ての状況を認識し、ゼタは首を傾げる。



「あの、私は何か間違えたでしょうか?」



 カーティナは、首を振って停止していた頭を再稼動させる。



「あー、いえ、問題ないっすよはい。早くテーブル降ろして降ろして」



 もし倒れたら危ないから、と。

 ゼタがお皿を並べるように元の位置へとテーブルを戻す一方で、カーティナはラトに言う。



「なんかお二方がすごいのはわかったっす。それでラトさんは」

「あの二人を従わせている、という事実からお察し頂ければと」

「わかりましたですよー、力仕事は問題なし、と。となれば、いまある依頼だとー……」



 カーティナは考える。

 三人の実力に相応しく、駆け出し冒険者でもできそうな依頼は、と。

 机の下から書類を取り出す。



「これとかどうっすかね? 隣町まで商人さんの荷物運びのお手伝い。仕事内容は荷物の積み下ろしっすね」

「隣町、ということは外を歩くわけですか。魔物や賊の出る可能性は?」

「安全策を取る方なので道順もそれなりに吟味されるでしょうから、遭遇する可能性は低いかとー。荷物番とは別に護衛の冒険者さんも雇うそうっすから」

「危険度は低く、万が一の場合も想定されている、と」

「その通りっす。荷物の重量ですがだいたいは――」



 カーティナとラトは、細かな点を一つ一つ確認していく。

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