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終:最強と最高はこれからも共にある。

 色んなデカブツが殴りあう怪獣大戦争だったのだ。

 戦場となったルーフ村はボロボロで、経済的な被害は見るからに洒落にならない。


 一方で、人的被害はほとんど出ていなかった。

 避難していた人々は勿論、戦闘に参加していた冒険者や衛兵にすら。


 夜明けも間近の薄暗がり、壁の外に傷ついた巨獣たちや大地に大の字で倒れるアルティメットヒュージバトルゴーレムの姿を眺めつつ、リザイアはシルキーからの報告を受け取る。



「――あとは避難先からの報告待ちとなりますが、問題ないかと思われます。我らが完全に勝利しました、リザイア様」

「わかりました。ありがとう、シルキーさん」

「いえ、リザイア様が中々に苦戦する顔を見せていただけたので十分です」



 サディスティックなセリフにリザイアは冷や汗を流し、ボロボロになったメイド服の女を見た。

 幽霊のクセになんだか血色がいい気がする。


 疲労したのでつっこむ気力もないのが悔しいところだ。

 ともかく、と。


 村の中、傷だらけになった人々と、七十二体の姿を見つつ、リザイアは宣言する。



「我らの勝利だ! ご苦労であった!」



 大歓声。

 それを浴びるのはリザイアであり、十二の領主。


 その影で、群集の中から十三人を見上げる二人。



「まったく。不本意な形ではあるが、ようやくクソジジイとの決着もつけられた」



 白金のインセクタ、キョウジ。



「一応はおじいさまの遺品だったのでしょう、『アルガントム』は。今更ですが、完全に粉砕して良かったのですか?」



 影の姫、ラトリナ。

 お姫さまの言葉に、キョウジは当然とばかりに頷いた。



「いつか倒すつもりでいたが、ジジイが死んで勝ち逃げされて、そのままこの世界に呼び出されたから――不本意ながら自分として使っていたんだ。それをようやく越えられた。見たかジジイめ地獄で泣いてろ」

「……父親嫌いだった私が言うのもどうかと思いますが、おじいさまは大切にした方が」

「いいんだ、金や権力を持つと本気で喧嘩できる相手もガキくらいしかいなくなるらしいからな。あのジジイ、俺が挑んでくるのも娯楽の一つと楽しんでやがった」



 それにつきあってやっていたのだから、なんだか掌の上で踊らされていた気がしないでもない。

 まあ、そのジジイ最強の遺品を倒せたのでよしとするかと、キョウジは息を吐く。


 さて、そちらはそれで決着として、キョウジはラトリナに言わなければならないことがあった。

 白金は彼女に向き直る。



「ラトリナ」

「なんですか、キョウジ」

「君に仕えるという契約、なかったことにしたい」



 その言葉を聞いて、ラトリナは笑う。



「偶然ですね、私も同じことを言うつもりだったんですよ」

「ふむ?」

「キョウジ、あなたはもう私の部下ではありません」



 意見の一致。

 かつての主従は、先に主の方が問うた。



「一応、理由を聞いても?」

「ああ。俺はもう君が契約を結んだ『アルガントム』じゃない。――実のところ、いまの俺は総合的に見てアレより弱い」



 七十二の配下の召喚アイテムを初め、様々なアイテムをキョウジというアバターは所持していない。

 八本の強大な攻撃魔法の杖も、武器への属性付与なども、アルガントムが持っていた力はその肉体と共にこの世界から消えうせた。


 キョウジが持つのはリジェネレイトの杖、セイヴァーの巻物、ドレッドノートの護符の三つだけ。

 そしてその力も、実質もう使用不能なのだ。



「持ち込めたMP……金貨が、二百万以下しかなくってな。使えて三回程度の魔法も、アルガントムとの戦いで全部使い切ってしまった」



 現実世界の貯金を全部MPにしてきたし、アイテムストレージの中身の一部も売り払ってなんとか用意した金の力。

 キョウジのアイテムストレージには、それがもうわずかにしか残っていない。


 スカラへのリジェネレイトと、対アルガントムで万全を期すためのセイヴァー、ドレッドノート。

 それで打ち止めだ。


 そしてこの世界の金貨はエンシェントのMPよりも魔力としての力が弱い、その情報から考えれば、一体魔法一回発動させるのにどれだけの量の金貨や宝石が必要になるか。

 現実的ではない。



「つまり、一兵士としてはアルガントムより強いが、戦力としてのこの身はだいぶ頼りない。これでは今まで通りに君の期待に答えられんだろう」



 ゆえに、契約の破棄を。

 そう口にして、アルガントムはラトリナに問う。



「そっちの理由は?」

「ふふ、単純に、あなたはもう『アルガントム』ではないから。私が契約したのは『アルガントム』とです、そしてあなたはキョウジ。もう私に縛られる必要はないでしょう?」



 力とかは関係なく、中身は同じでも、別人であると。

 それならば、もう契約は無効。


 署名の名前と本人名が一致しない契約書などに効力はないと、そういうことだ。

 もう契約なんて気にせずに、自由に生きて構わない。

 そんな意味の、ラトリナなりの気配りでもある。


 互いに意図を理解して、二人は頷きあい、宣誓する。



「俺はラトリナ・トランベインの部下ではない」

「私はアルガントムの主ではあったが、キョウジの主ではない」



 互いに同意した上で、次の言葉を紡ぐのだ。



「そして、羽間キョウジとして、俺はラトリナ・トランベインに仕えたい」

「そして、ラトリナ・トランベインは、改めてハザマ・キョウジを配下としたい」



 キョウジは考えたのだ、この世界での目的を。

 結局のところ、これと明言できるような目的など持ってはいない。


 きっとこれからもそうなのだろう。

 ならば、それが見つかるまでは誰かの剣として生きる方が幸せだ。


 いっそ死ぬまでそれでもいい、自分はそのくらいに適当なヤツであるとキョウジは自身を評価していた。

 勿論、気に入らないヤツに仕えるなど真っ平御免、気分よく楽しい方がいい。


 その点でラトリナという少女は十分合格なのだ。


 一方で、ラトリナも考えた、大好きな人々を守る方法を。

 色々と思いついたが、最良の手段は強い力を手にすることだ。


 大事な人々を守るため、気に入らないヤツを討つために。


 そして『アルガントム』すら倒した存在は、本人がどう言おうとそれに十分な力を持っている。


 ゆえに、キョウジは白と金の刺々しい手を、ラトリナは刺青で汚染された手を、互いに差し出して。



「よろしく頼む、我が主」

「よろしくお願いしますね、私の剣」



 古き世界が終わり、新たな時代に時計は進む、その瞬間。

 適当に、手に届く世界を守るために、二人は新たな契約を交わした。


 最強の剣は、最高の主と共にこれからも歩み続ける。

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