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69:始まりのお祭。

 ルーフ村に集う人々。

 その数は千や二千、その程度では済まない。


 数万だ。

 壁の中には納まりきらず、壁の外まで溢れている。


 それは軍隊なんて無粋なものではない。

 その証拠に人々の顔は片っ端から笑顔。手にするのは槍でも剣でもなく酒瓶であったり、串焼きであったり、様々だ。


 また壁の外や中を問わず楽しめるように所狭しと並んだ商店、その数も千を越え、威勢のいい呼び込みの声が世界をさらに活気付けている。

 飾り付けられた町の中、馬鹿みたいに人々が騒いで回る光景。


 言葉にするなら、お祭だ。

 十三領同盟祭。


 トランベインの後に出来た新世界、その誕生を祝おうという祭り。

 参加資格は舞台となるルーフ村に住むものから、十三領地の果ての辺境に住むものまで、元王族も平民も関係なく勝手に集まり勝手に騒げだ。


 新たな時代の幕開けを祝うためのものなのだから、喜び勇んで楽しみ尽くしてもらわなければ困る。



「ふふ、人々の笑い声は寝る時でなければ良いものです。企画した甲斐があるというもの」



 集会所。

 自室の窓から外の馬鹿騒ぎを眺めて、ラトリナは心の底からの笑顔で楽しいと笑う。

 ルーフ村の冒険者ギルドや商店をはじめとして、リザイアの付き添いで向かった各地の組織なんかともこっそりと打ち合わせ、裏で手を回し準備を進めておいたのだ。


 ラトリナの隣りで色彩鮮やかな人々の列を見つめるリザイアは、妹に問う。



「もし今の時期までに同盟が纏まらなければどうするつもりだったんですか?」

「ふふ、その時はトランベイン滅亡記念祭とでも名づけてこれをやっていました。きっと必要ですから、こういう生きるうえでの楽しみは」



 世界は楽しい方がいい。

 抑圧された民衆の沈黙よりも、馬鹿みたいに騒ぐ群衆の笑い声の方が好ましい。



「お姉さまは真面目ですから、こういう企画は得意ではないでしょう?」

「お、お祭くらいなら私だって思いつきます!」

「闘技大会はなしですよ?」

「えっ!? ダメ!?」



 考えを看破されショックを受ける姉の姿にくすくす笑う。

 基本的にリザイアの性質は生真面目だ、人の模範として光を浴びるのが相応しいとラトリナは思う。


 ただ生真面目なだけでは楽しくない。

 楽しくなければ人はついて来ないんじゃないかともラトリナは考える。



「お姉さまが真面目な分、私は不真面目に人々と歩みますよ。楽しいことを考えて、みんなで楽しんで、世界を楽しく変えていきます」



 かつて自分が城の外の世界を見て、そこで楽しみを知り変わったように、この地を守りながらも楽しい世界にしていきたい。

 そのために色々と暗躍しよう、そんなラトリナの言葉に、リザイアは苦笑する。



「それでは私が表でちゃんとしないと、ですね」

「ええ。何の縁か姉妹二人がここにこうしているのです、互いで互いを補いましょう、お姉さま」



 そして、もう一人。

 ノックと共に、彼がこの場にやってくる。


 ラトリナが入室を許可すれば、扉の向こうにいたのは銀色の虫人。

 アルガントム。



「二人とも、他の領地のお偉いさんたちが呼んでいるぞ」



 彼とリザイアは目を合わせると互いに慌てて顔を逸らし、相変わらず面白いとラトリナは笑いつつ。



「アルガントム、この地を守る剣の役目は、あなたが飽きるまでお任せしますね」

「なんだ、いきなり。言われずとも飽きるまでやるさ、剣の役目は悪くない」



 楽しい世界を守るための力、と。

 彼は改めて言われ、考え、了承し、自らの頬をコンコンとつつく。


 その話をした上で、少し真面目な顔をしたリザイアが、ちょっと躊躇いつつ言葉にする。



「……それで、現在の国境付近に関してですが」

「ああ、あれか。任せろ」



 アルガントムの口部がカハァと開かれた。

 表情として例えるなら、獲物を見つけて喜ぶ獣の凶悪な笑顔だ。



「ごめんなさい、あなたもお祭に参加したかったはずなのに」

「気にするな、これが役目だ。それにどうせさっさとケリがつく、戻ってきてから適当に楽しむ」



 ちょっと面倒なことが起きていた。

 現在世界で最大の、争いの火種。


 アルガントムはそれをどうにかしなければならない。

 この楽しいお祭を中断させたくはない。それはアルガントム自身の意思でもある。


 ラトリナは、そんな銀色の顔をまっすぐ見据えて命令する。



「では、アルガントム。私の剣。あなたに命じます、無粋な連中を叩き潰せ、と」

「了解した、我が主」



 それからラトリナは、顔をほころばせて。



「それと早く帰還して、お姉さまと一緒にお祭を楽しむように」

「ごほぅ!?」

「ぶはっ!?」



 自らの剣と自らの姉を唐突なセリフで咳き込ませ、彼女は楽しそうに笑うのだ。

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