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54/88

54:マジでという総意。

 南側に軍勢が展開。

 また樹海の中で動き回っていたトランベインの兵士が火を放とうと動き出した。


 散歩を終えて小屋に戻る途中、天使たちが持ってきた情報に、いよいよかとアルガントムはラトリナを肩に乗せてルーフ村へ向けて走った。

 なお放火犯たちはユグドラシルが串刺しにしたらしい。

 樹木であるがゆえに木々の敵には容赦がない。森の恵みに感謝を捧げ、実った果実を持っていくような謙虚な相手には寛容だが。


 さて、木々の隙間を低空飛行しながらアルガントムと併走する三体の天使。

 空から見た状況を報告してきたのはゼタだ。



「マスター、ルーフ村の周囲に武装した兵士。二千人程度かと」

「味方の可能性は?」

「壁の外にいた人々を捕縛し、武器で脅している者を味方と判断するならば味方です」

「わかった、敵だな。ナイン! レイディアントレギオンの使用を許可! ついでに適当に適任なヤツらも連れて行って構わん! 人々には犠牲を出すな! 敵のみやってよし!」

「了解しました! ご主人さま!」



 ナインは翼を羽ばたかせ、天高く上昇。

 樹海の上空から、そこに潜む者たちに声を飛ばす。



「ご主人さまの命令よ! 十二死徒、十霊獣、五魔剣、四精霊、私と共に『弱いもの』をいじめにいくぞ!」



 同時、気配。

 味方を巻き込まぬよう戦える小型の者たちが次々と樹海の中を動いた証拠。


 そちらは任せることにして、アルガントムは速度を上げる。

 樹海を出れば草原が、その先にはルーフ村の壁が見えた。


 周囲を囲む兵士、手には松明。

 フル武装の彼らは確かにお友達とは思えない。

 連中の誰かが疾走する銀色と二体の天使に気がついた。



「銀色のインセクタだ! 天使もいるぞ!」

「槍を構えろ! 迎え撃つ!」



 動揺が広がる前に、指揮官の命令に従い迎撃の態勢を整える。

 いつか玉座の間で見た王の護衛の兵士たち、アルガントムは彼らの姿を思い出す。



「槍衾、突っ込むにはラトリナ様が少々危ういかと」

「わかってる。オメガ! 踏み台を頼む!」

「喜んで」



 アルガントムの前に、そして敵兵を背後に、オメガは姿勢を低くし盾を構えた。

 道の先に待ち受ける彼女の姿勢は、ボールを待ち構えるバレー選手のそれを連想させる。


 受けた威力をそのまま跳ね返すその盾を。



「ふっ!」



 アルガントムは踏み台代わりにし、その勢いの反射で跳躍。

 そのままルーフ村の壁の上に着地、落下ダメージはほとんどない。


 オメガに命令を残す、ナインを手伝えと。

 彼女が頷き、手近な位置に布陣する敵へと襲い掛かったのを見届けた。


 防壁から軽々と飛び降り、建物の屋根の上を跳ねながら、目指す場所はリザイアのところ。

 恐らく冒険者ギルド、宿屋の一室。

 ゼタと共に村の中を駆け抜ける。


 到着、大地を軽く抉りつつ勢いを殺して停止、ラトリナを地面に降ろす。



「……少しお尻が痛いです」

「急ぎだからな、諦めろ」



 アルガントムはギルドの扉を開き、足を踏み入れる。

 瞬間、感じた。

 雰囲気が刺々しい、と。


 冒険者たちは武器片手。中にはグリム、そしてスカラの姿もある。

 その場の雰囲気にラトリナは少したじろぎ、一方でアルガントムは悠々と歩き、受付にいるカーティナに問う。

 彼女の表情は事務的な笑顔だ。



「リザイアはいるか」

「いえ、外に出てらっしゃるようでっす」

「そうか、邪魔したな」

「待ってくださいっす」



 呼び止められて、アルガントムは振り返る。

 カーティナが机の上に一枚の依頼書を置いた。


 その内容はこうだ。


 最重要依頼。

 依頼主は冒険者ギルド本部、及びトランベイン王国。

 討伐対象は銀色のインセクタ、アルガントム。及びその眷属。

 脅威度レベル5。

 総数七十三。

 地点はルーフ村周辺、謎の樹海と湖。

 報酬は貴族としての地位、トランベイン北部の領地、その他に望むものがあれば要交渉。


 アルガントムはカーティナと視線を交える。

 彼女の顔はやはり事務的だ。



「これは、つまりは俺の討伐依頼か」

「はい。またこの依頼の発行と同時に、アル、ラト、ゼタ、討伐対象の当該お三方は冒険者ギルドから除名されましたっす」



 冒険者ギルドはトランベイン王国の支援を受けている組織だ。

 ならば国家の敵は、ギルドの敵。

 アルガントムはその対応を当然かと納得する。


 ただ、少しだけ後ろを見る。

 悲しそうな顔をするラトリナ、もはや同じギルドの仲間ではないと、そう宣告されたのだ。

 昔の彼女ならそうですかと笑って流していたのだろうが、今の彼女はそれほど空虚なものではない。


 俯くラトリナの代わりに、アルガントムは振り返り、その場の者たちに問いかける。



「それで、君らはどうするんだ。いい話じゃないか、よくわからんが貴族なんてそう簡単になれるものでもないんだろう?」



 答えたのはグリムだ。

 重量のある片刃の剣を肩に担いで、アルガントムと真正面から睨みあう。



「そうだな、冒険者から貴族へ、なんて前例もない出世話だ。ついでに俺らは一応ギルドの冒険者、最重要の依頼なら、受ける義務もあるだろう。だが、それ以上に」



 グリムは手にした刃をアルガントムの首にぴたりと添えて、問う。



「答えろ。お前は国家を敵に回している。これから先、どうするつもりだ」

「国が敵なら戦うまでだ。セントクルスの時と変わらない。そして俺は勝つだろう」

「……ああ、勝つだろうな。だが、その勝利にルーフ村や周辺集落の人々の命は伴うのか?」



 アルガントムは喉を鳴らす。



「くくっ、ルーフ村の人々、周辺集落の人々の命? 数万以上の大軍を容易く葬る俺たちに、破壊と不幸をばら撒くバケモノにそんなの聞くまでもないだろう」



 一呼吸。

 アルガントムは、世界を震わすような大声で宣言する。



「当たり前だ守りきるッ! 死なせるつもりは毛ほどもないッ!」



 大音量に耳が痛いと、冒険者たちが耳を押さえて数秒。

 グリムはその答えを聞き、アルガントムの顔を睨みつけてから。



「……はっ。インセクタの表情なんてわからねえな」



 再び刃を肩に担ぐと、やれやれと頭をかいた。

 そしてこの場の冒険者たちに伝える。



「俺はこいつらの側につく。現国王とどっちがマシかなんて知らないが、こいつらを敵に回す方が間違いなく厄介だろうよ。貴族の地位くらいじゃ割に合わん」



 グリムの言葉に、他の冒険者たちの雰囲気も変わる。

 刺々しかった視線は、仲間に対するそれに。

 豪快に笑う男が、キザったらしく苦笑する男が、温和に笑う老人が、それぞれグリムと同様にアルガントムを仲間と認めた。


 その光景を観察していたカーティナが、ため息混じりに彼らに言う。



「あー、つまり皆さん王国を敵に回したら冒険者ギルド追い出されるっすよー? わかってますー?」



 わかってる、彼らは一様に頷いた。

 カーティナは再びため息。



「一応この場の皆さんって腕利きなんっすよー、大量脱退なんてされたら困るっす。こちとら商売あがったりん」



 まあ確かに実力のある冒険者が抜けて困るのはギルドであり、またそこに依頼を持ち込む人々だ。

 その点に関しては揃って申し訳ないと思うが。



「……では、ここらで冒険者ギルドルーフ村支部としての対応を発表するっすよー」



 一点、カーティナは気楽な笑顔で。



「我々はトランベイン王都のギルド本部から独立し、新たなギルドとして独自に活動を開始するっす」



 マジで。

 その場の誰もがあっさりとした宣言に呆然と立ち尽くす。

 いい反応だとカーティナは笑い、ついでに彼らに紹介する。



「そして新たなギルドの代表ですがーはいこちらの方!」



 そこにいるのは、ここの全員が見慣れた顔であり、同時にあんまり意識はしてなかった一人の女。

 カーティナと同じ窓口係り、カーティナの同僚、カーティナの幼馴染。

 彼女とは対照的にそれほど表情豊かではない彼女は、新代表と書かれたタスキをかけつつ、その場の人々に片手を上げて挨拶した。



「独立ギルドの新代表、元窓口係、ついでにそこの婚期を逃した童顔眼鏡と腐れ縁の――エルアズハだ。よろしく頼む」



 彼女が選ばれた理由には本人の仕事に対するひたむきな姿勢とか、厄介ごとは御免だと立場を譲った前支部長の後任がいなかったとか、まあ色々とあったのだが。

 基本的に影の薄かった彼女が表舞台に出てきてその場の全員が心を一つにする。

 やっぱり、マジかよ、と。


 そしてそんな空気を察して、その場にいたスカラが首を傾げて問いかける。



「……あら? なんだかアルガントムを囲んでボコる会みたいな集まりと思っていたんだけど違うの? 暇だし再戦しようと思っていたんだけど」



 見事なまでに空気の読めていなかった彼女に対しても、全員が意見を一致させた。

 マジかよ、と。


 まあ、つまりは、だ。

 アルガントムは全員に問う。



「君らは王国も組織もすてて、ラトリナの味方になってくれる、そういうことでいいんだな」



 苦笑しながら答えるのはグリムだ。



「そういうことだ。乗った船が泥舟じゃないと証明してくれよ」



 アルガントムが頷き、また花のように笑うラトリナは彼らの信頼を裏切るものかと意思と共に答える。



「任せてください。ラトリナ・トランベインとその配下、皆さんを守ってみせましょう」



 誰かが言った、いい返事だ、と。

 その一方で新ギルドの新代表、エルアズハが報告する。



「ところで、リザイアさんだが……どうもトラブルの渦中にいる。助けに行ってやってはくれないか」



 姉の窮地、助けぬ理由がどこにある。

 ラトリナは頷いて、アルガントムに命じるのだ。



「アルガントム、私と共にお姉さまに助力を」

「了解した。ゼタ、いけるな」

「はい、マスター」



 天使は頷いた。

 ならば、さて、いくか。

 これは大戦の前の、大事な前哨戦だ。

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