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04:ほどほどという言葉の意味をわかってない。

 同類と思っていた存在の裏切りに近い言葉に、トランベイン王は天使の存在も忘れ取り乱す。



「なぜだ! 金ならいくらでも手に入る!」



 一方で、アルガントムは背を向け、頭上を見上げた。

 ゼタ・アウルムを召喚した際に彼女があけた穴があり、そこからは空が見える。


 流れる雲を見て、これからどこへ向かうかと考える。

 恐らくだがここの人々にアルガントムを元の世界へ帰還させる技術はない。

 あるとすればアルガントムを脅威と感じた時点で土下座外交ではなく強制送還という手段に打って出るだろうから。

 少なくとも元の世界への帰還というカードがチラつかない時点で可能性はゼロであると思っている。


 まあ元の世界に余り未練はないのだが。

 家族との繋がりは生活するための資金的繋がりと、親子そろって割り切っていた。

 遊び相手のクソジジイこと祖父銀四郎も他界している。


 友人や彼女もいないのだから、とりあえず帰りたい理由もないし帰りたくない理由もないという半端な状態なのだ。

 とりあえずはこの世界というものを見てみるか――



「聞いているのかアルガントムッ!」



 やかましい声には聞いていないと答えたいところだが、このままだと延々と名を呼ばれ続けそうである。

 ゆえにアルガントムは振り返る。

 そしてわけがわからぬと騒ぎ立てる男に答えを返した。



「王様、あんたは一つ間違えているぞ。……俺は気に入らない喧嘩に手を貸すのは、金を貰ってもやる気がせん。ああ、銀貨一枚というもう貰ってしまった報酬を返せというなら返すぞ?」



 金が全ての行動原理かと問われれば、アルガントムは否と言う。

 重要ではあるが最重要ではないとアルガントムは思っている。

 では何が最重要なのかと聞かれれば――正直なところわからないのだが。

 少なくとも金のために戦争をするというトランベイン王は、自分とは何かが違う。


 明確な理由はない拒絶。

 それがトランベイン王を激怒させる。



「自分は根っからの悪人じゃないと! そんなくだらない主張がしたいのか! そのためにチャンスを捨てるのか!」



 答えは背中を向けるという、それ以上交わす言葉もないという態度だ。

 トランベイン王は、強大な力を持ちながら、そして自分と同じ欲を持つ同類でありながら、一つのくだらない理由で別の道を行こうとする相手の背中に憤怒と嫉妬の視線をぶつける。

 その力が我が物ならば――



「ゲイノルズ! そいつを捕らえろ!」

「なっ!?」



 突如として下された王命に、ゲイノルズは困惑し。



「逆らうならば相応の処分を覚悟せよ!」

「ッ……! はっ!」



 命令ならば仕方がない、断れば首を跳ねられる。

 ゆえにゲイノルズは剣を構えた。


 必殺を使うことは出来ない。

 携帯していた金貨が切れた、魔力切れだ。


 だからアルガントムと天使に対し、接近戦を挑まねばならない。

 一人でやっていられるか。



「全員、槍構えッ!」



 ゲイノルズの号令は、室内の騎士たち全員に向けて発せられたものだ。

 数で潰す。

 対天使における基本戦術である。

 騎士たちは最初は慌てて足並みを乱していたが、やがて王の言葉を思い出すのだ。

 逆らうならば相応の処分を。

 権力に対する恐怖が彼らを一つの軍として団結させる。

 

 陣形は横一列、槍が生えた壁のように。

 左手にした盾は隣に立つ仲間を庇うように構える。自分のことを守るのは逆の隣に立つ仲間。

 互いに互いをカバーする陣形のまま、アルガントムとその隣でふわふわと浮かぶ天使を包囲するよう、少しずつ陣形を丸めていく。


 その背後からゲイノルズが号令をかける。



「突けッ!」

「オォーッ!」



 訓練通りに、実戦通りに、全員が同時に槍を前方へと突き出した。

 無数の刃のいずれかが標的の肉体を突き貫く。

 矢や剣の反撃があれば盾が防ぐ。

 戦術としては、まさにお手本のような一撃だった。


 相手が常識の範疇に納まる相手ならば。


 天使に槍は通じなかった。

 無数の刃も弾き返す、その美術品のような美しい外観からは想像もできない耐久性。


 そちらは元より仕留められると誰も思っていない。

 天使を落とすにはもっと威力のある武器が必要だ。


 本命はその召喚者たる銀色だった。

 一見すれば銀色の甲虫のような外見であり、見るからにその体が硬質であると予想できる。そして何よりゲイノルズの必殺を防いだのだ。

 その殻は世界最上級の硬さを持つだろう。


 だがどんな鎧にも動くための隙間がある。

 アルガントムの体にもそれは存在していた。

 首、腰、足首といった間接部、銀色の中に走る黒い線。


 ほとんどの槍はその防御の弱点を的確に狙って突き出されている。

 虫人やインセクタと呼ばれる相手に相対した際、最も有効な戦術だ。


 それでも弾かれたのだ。


 弾き返された反動によろめきつつ、騎士たちは慌てて体勢を整え、追撃の構えを取る。

 その対応力はさすが王の直衛を務める者たち。

 だが誰もが焦っていたのだ。

 鎧の隙間すら硬い、そんな生物がありえるのかと。



「――マスター」



 いままではまるで脅威など存在していないかのように、アルガントムにただ追従していたゼタがゆっくりと振り向くと、その瞳には騎士たちの姿が映されている。

 ゼタは主に問う。



「敵対的行動を確認。脅威ではありませんが――殲滅を提案します」



 アルガントムは少し考え。



「ほどほどにやってよし」



 曖昧にその提案を受け付けた。

 ゼタの六枚の翼が広げられる。



「了解しました。ほどほどに殲滅します」



 始まったのは翼の発光現象。

 それは天使の武器の一つ、光の刃を発射するための予備動作。

 生半可な盾では防げない、時には城壁にすら穴を空ける破壊力を発揮する死の光だ。

 発射される前に大元たる天使を仕留めるか、あるいは射線上から待避するのが最善とされている。


 騎士たちの行動は防御態勢。

 盾は天使の持つ死の光を防げないが、威力を多少減衰させることはできる。

 掃射を受けても運が良ければ崩されることはない。

 そして何より背後に王がいるのだ、玉座の間は広いが、広範囲に吐き出される光の刃の射線から退避するには横幅が足りない。

 ゆえの、主君を守るためという意味も込めた防御。


 その中で一人だけ攻撃に転ずる者が居た。

 ゲイノルズ。

 トランベイン最強の剣は、国の宝たる剣を手に駆けた。

 騎士の一人の丸まった背中を踏み台に、跳躍。

 剣を上段に構え、翼を広げて無防備な状態のゼタに向けて振り下ろす。


 槍は天使に弾き返された。

 仕方がない、あれは人を相手取るための普通の武器なのだから。


 だがこの剣は違う、竜すら両断したという正真正銘の神剣だ。

 かつて戦場で天使に致命傷を食らわせたこともある、彼がある意味では自分の力量や王の権力以上に信頼し崇拝する、トランベインそのものなのだ。



「天使の一匹や二匹がどうしたァ――ッ!」



 咆哮と共に刃が縦に一閃する。

 光の刃の発射体勢に入った天使、その翼を操る本体は一時的に動かない。

 魔力を翼に集中させるための脱力状態。

 その隙こそが天使最大の弱点だ。

 ゆえに、天使すら切る最強の剣は確かに最高のタイミングで天使を攻撃した。


 だから、まさか光の刃の発射状態にある天使が両手の甲で剣を受け止めるなんて現実が待っているなどとは想像もできなかった。



「……は?」



 刃に亀裂が入った。

 竜をも両断し、天使の体でも容易く貫くはずの剣が、六本羽の天使の体に受け止められ逆に砕け散ったのだ。

 刀身を失った最強の剣で宙を切り裂きながら、ゲイノルズはふと思い出す。


 六本羽の天使。

 自分が今まで戦場で見てきた天使は、全て一対二本の二本羽ではなかっただろうか。


 死の間際に思うにしてはあまりにも致命的で、もはやどうでもいい疑問であった。


 発光が強くなる。

 光の粒子は濁流のようにその勢いを増していく。

 六の翼が放つ光は、刃などという生易しいものではない。



「レイストーム収束砲、照射」



 巨大な光の柱。


 ゲイノルズが消滅し、騎士たちが盾ごと飲み込まれ、王が何かを言い残すこともなく消え去り、トランベインの王城は玉座を含めた壁の一角を丸ごと失った。

 光の柱はそれらをかき消し、天高く昇っていく。

 無慈悲の一撃を打ち終えたゼタの体からは、微かな熱の香りが漂っていた。

 彼女は言う。



「ほどほどの、出力10%で殲滅を完了しました」



 様々なものが消失した風景を見て、アルガントムは思うのだ。

 ほどほどという言葉はどういう意味だったか、と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 廃課金アバターで異世界転移するという設定はとても面白い。 [一言] キャラクター設定やストーリー展開、文章があまりよくない。 そこを全体的に見直せれば面白く感じるかもしれない。
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