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11:アイツは少し気に入らない。

 その人物はどんな人。

 そう聞かれればある程度面識がある人物はだいたいこう答える。

 とにかくやたらに笑ってる、と。



「あっはっは、いやはや納品日を一日間違えちゃってね。どうしようかと慌ててたんだよ。いやはや危ない危ない。あっはっは」



 アルガントムたちがいまその人物の評価を聞かれたら、同じ答えを返すだろう。

 無駄に笑いすぎててその声で気圧されてしまう、そんな商人の名はシャトーという。

 感じのいい、ただしかなり笑い声がやかましい青年だ。



「えー、よろしくお願いしますね、シャトーさん。私がラトで後ろの二人がそれぞれアルとゼタ」

「こちらこそよろしくよろしく、あっはっは」



 ルーフ村の防壁の外、荷馬車の隣でシャトーとラトリナは握手を交わす。

 アルとゼタも軽くお辞儀。

 シャトーはよろしくよろしくとあいも変わらず笑っている。



「あっはっは、しかし若い人が来ると聞いて待っていたら本当にお若いね」

「ふふ、一応、実年齢よりは若く見られます」

「せっかくなので年齢を聞いてもお嬢さん?」

「ふふ、女性に年齢の話はタブーですよ商人さん」

「それもそうだ! あっはっは」



 のらりくらりと真実を口にしないよう会話を動かすラトリナ。

 シャトーもあっさり彼女の術中にはまっている。

 ミステリアスな女で行こうと思う、そう言っていた彼女の演技がいつまで続くかアルガントムは少し気になりはじめていた。

 無警戒に毒キノコにかじりつくような世間知らずっぷりをどこで披露してしまうのか。



(……いや、俺もその辺は気をつけておかないとならんか)



 正体を隠した異世界からの国王殺しは布をより厳重に体に巻きつかせつつ気合を入れる。



「さて、仕事内容は依頼どおりに荷物の積み下ろしだよ。ちょっと重いから時間がかか――」

「積み込み完了しました」

「早ッ!?」



 ゼタの仕事は迅速だった。

 大人四人がかりで持ち上げるような重さの物体を片手で持って荷馬車へさっと積み込む。

 白い布で防護された木箱や家具は、世間話が終わった時点ですでに輸送準備を完了していた。

 何か問題が、と確認するゼタに、シャトーは冷や汗を流しつつ問題なしと答える一方。



「あの、ラトさん? 彼女は何者だい?」

「ふふ、詮索は野暮と言うものですよ」



 シャトーはラトリナに問うてあっさりと流され釈然としないと苦笑する。



「……まあ、早く終わったならよしだな! あっはっは!」



 早速移動の準備をと馬の手綱は緩んでいないか等々シャトーが確認する中、ラトはふと気がついて彼に問う。



「そういえば私たち以外に護衛の冒険者の方を雇ったと聞いているのですけれど」

「ん? ああ、彼なら荷物を積み終わる頃までに準備を整えて来るって言ってたから」

「それは少し申し訳ないことをしてしまったかもしれませんね」

「あっはっは、確かにこんなに早く終わるとは思ってないだろうからね。まあもうちょっとすれば――」



 噂をすれば、というやつだろう。



「……手伝いに来たが、もう準備できたのか」

「あっとおかえり。早かったね」



 件の護衛の冒険者がやってくる。

 アルガントムほどではないが長身で、背中にはかなり大型の、もはや鈍器のような片刃の剣を背負った青年。

 その雰囲気はどこか刺々しく近寄りがたい。

 シャトーは馬の頭をさっと撫でつつ準備を中断し、彼とラトリナたちの間に立った。



「紹介しよう、彼が護衛のグリムだ。何度か手伝ってもらっているが腕利きだよ」

「……そうでもねえよ」



 シャトーの賞賛をそっけなく突っ返しそっぽを向く。

 その横顔に向かってラトリナは軽く微笑む。



「グリムさんですか。私は荷物運びをお手伝いさせていただくラト、そして後ろ二人がアルとゼタ。よろしくお願いしますね?」



 ラトリナが握手を求めて手を差し出す。

 しかしグリムは応じず、ふん、と鼻を鳴らした。



「俺の仕事はシャトーと荷物の護衛だ、お前らがどうなろうと知ったことじゃない。それだけ覚えとけ」



 吐き捨てるように言葉を押し付けると、馬車の状態に故障しそうな部品はないかと安全を確認し始める。



「おいおいグリム!? ……はっはっは、すまないね! 彼だいたいあんな調子でね」



 グリムの態度を笑いながら謝罪するのはシャトーだ。

 お気になさらず、とラトリナが微笑みを強くする。



「ふふ、せいぜい足手まといにならぬようこちらも頑張りますね」

「あっはっは、そう言ってくれると助かるよ。まあ魔物か何かが出ることもないと思うけどね」

「おいシャトー、馬車の車輪の止め具が少し緩んでいるぞ」



 グリムに呼ばれ、シャトーは慌てて彼の元へと向かう。

 傍から見ると、どちらが雇い主なのか、と首を傾げたくなる。

 ラトリナは聖母のように微笑みつつ。



「……ああもぞんざいに扱われるのも逆に新鮮ですね。ちょっとムカつきました」

「笑ったまま怒りを表現しないでくれるかおっかない」



 怒気がうすーくオーラとして立ち上っているラトリナの笑顔に対してはそう言ったが、一方でアルガントムも多少は思っている。

 いまのところ、アイツは少し気に食わない、と。

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