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囚人と、パーツと  作者: トネリコ
一章 始まりの一週間
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第三話

 三話の前半面を考え、残酷描写タグを追加しました。

 …、しかし、眼球が浮いている時点でグr………。

 

 まるで天使の羽根の様に、それでいて過ぎる程の狭量さで、白以外を拒絶するこの地獄。僅か一週間で私はボロボロになった。

 いや、一週間は頑張った方じゃないか?なんて、そう思ったりもするけど。


 

 取り押さえられた私は、無理矢理この部屋に連れて行かれた。何処かの部屋に連れられ、人に囲まれ、瞬きするとこの部屋だった。あまりの日本では有り得ない現象に呆けた私だが、さっさと私を放り出して身を翻す男達に、訳も分からず取り縋った。取り縋られた相手は悲鳴を上げるが、私も必死で、死に物狂いで縋り付く。ここで置いて行かれては堪らないと、溺れた者が藁を掴む様に。しかし、パニックの様になった相手が振り回した腕――それが私を殴打した。大の男の躊躇の無い一撃に、目の前で火花が散る。それでも、離すと死んでしまうのではという恐怖でしがみついていた私に、男は何度も何度も何度も両手を組んだ握り拳を振り下ろした。そして仲間の男達に引き摺り離され、感情が怒りへと変化したのか、男達によってたかって、それはもう笑える程にボールの様に蹴り飛ばされまくった。

 そして、暫くしてピクリともしなくなった私に流石にマズイと思ったのか、そそくさと行きと同じように掻き消えて去って行く男達。彼等を止める気力も体力も残っていなかった私は、それを横たわったままぼんやり霞んだ意識と視界で眺めていた。

 息と共にヒューヒュー鳴る喉も、馬鹿みたく血が止まらない鼻や口も、引き抜かれた髪も、髪を除いて、そんなに気に入ったんですか?と笑いたくなるほど重点的に狙われ、腫れあがり過ぎて開かない目も――――どこもかしこもにある熱と痛みで朦朧としながら、動かない体で尽きることなく流れる涙を、瞬きを忘れたように流して意識を失った。



 それが、たぶん初日の記憶





















 腕を振るう。すると、一拍置いて的が爆ぜた。


「っ、…はぁ」


 一息つき、顎に伝った汗を拭う。動かないとはいえ魔術の発動には魔力と精神力を使う。それは体力とは違うが、同じ様に使えば使う程疲れるものだ。この修練場に篭って二時間。さすがに疲れが溜まっていた。

 肌に張り付くシャツを不快に思っていると、澄んだ音と共に的が復活した。そして、その背後の黒焦げた部分も修復される。空間を管理する雇われ門番に話を通すと借りれるこの施設。此処の様にただ的と幾ら壊してもいい部屋だけのものや、大人数で使用出来るもの等、その種類や用途は様々である。大抵の場合は待ち時間なく借りれるのも楽でいい。最早耳慣れた現象だが、器用なものだと的に目をやると、その近くの空間が揺らいだ。少しして短い赤毛がチラと見える。瞬間、思わず腕を振るって魔術を放っていた。


「うおっ! ちょ、なんでやねん!」


 なんか煩いのが叫び声を上げて飛び退くが、放った炎球は赤毛を逸れカーブを描いて的に着弾する。魔術自体は的を燃やしただけで掻き消えたので、赤毛をそれを避けてひょいひょいと此方に近づいて来た。


「ふい~、流石にアレは焦るって」


 へらへらと此方に近づく赤毛に舌打ちを返すと、「ひでぇ」と嘘泣きまで始める。髪色も相まって鬱陶しい。だが、無視して次の魔術を練ろうとすると、チラチラと視線を投げて寄越される。


「…爆ぜろ」


 音声によるイメージ補助付きの魔術行使。普段は面倒なので無詠唱だが、鬱陶しい視線を無視して放つ。


「無視とか泣けるわ~」


 しかし放った炎球は、赤毛の行使した水流に呑まれて相殺された。


「…」

「あ、今赤毛なんだから水使うなよって思った? そういう偏見はお兄さん感心せんなぁ」


 うんうん頷く赤毛――ラドを半眼で見るが、時間が勿体無いだけだと気付き、溜め息を吐いて相手をすることにする。


「…何の用だ。次的の近くに出たら吹っ飛ばすぞ」

「ん~? いやぁ、いっつも書物室に篭ってるお前さんが、珍しく修練場を借りたって聞いてな。んじゃいっちょ手合わせしようと思ってな!」


 にひっと笑っている所、申し訳ないとは微塵も思わないが答えは一つである。


「却下だ」

「ええー」


 ケチケチすんなよぅと気持ち悪く拗ねているこの男、こんなんでも俺と同じ近衛魔導騎士団の一員であり、実力でしか入れない少数精鋭の中でも次期副隊長候補である。


「お前とやっても転がされるだけだしな」

「またまたぁ~、確かに剣術や体術は断然俺のが上だけど、魔術戦闘においては悔しいけどお前のが上じゃんかよ」


 笑顔で俺の肩を叩くラド。客観的に自身の能力を把握し、弱点は受け入れ、向上心もある。大会で王子に見初められるという珍しい入隊方法同士で親近感が湧いたのだろうとはいえ、俺に対しても分け隔て無く関わってくる点から見ても、こいつは上に登る奴なんだろうと思った。…、まぁだからと言って態度は変えんが。


「その魔力が少ない状態だ」

「まあまあまあまあ。危機的状況で訓練してこそ伸びるもんよ。ほれほれ、やろうぜぃ!」

「…はぁ、任務がある」

「ん?」


 任務、と呟くと、昨日の女の姿が脳裏に浮かんだ。


 昨日は眠れただろうか?


 ふつりと接続が切れる間際の顔を思い出すと、何故か愉快な心地になる。


「…お前、なんか変わったな」


「?」


 聞き取れなかった呟きを追いラドに視線を向けると、まるで信じられないものでも目の当たりにした様に目を見開いている。何となくその顔に苛立ったので、気怠げに脱いでいた隊服を拾い一人先に出ることにした。


「ちょ、ちょい待ち! まぁ任務ならしゃーねぇから、許してやる代わりに連れてけ」

「…」


 面倒である。だが、無視すると後々余計面倒になると分かっている。


「さんきゅー」

「はぁ、下手くそ…、後で本転送してやるからそれでも読んでろ……次からは知らん」


 そう言うと、ラドはニマニマと笑い始めた。気持ち悪いので捨てていこうか一瞬天秤が傾く。そんなこと思っているとは思いも寄らないのか、ラドは呑気にふんふんと鼻唄を歌っている。


「お前ってほんと解りづらいっつーか、面白いよな。まぁ、せめて的の近くに出ないよう有り難く練習させてもらうよ」


 無言の俺を都合よく解釈したのか、明るく笑う。だが、一転してこちらに向き直った時、ラドは先程までの雰囲気を一変させた。


 静かで低い声音。


「アシル、お前はもっと他人と関われ。そりゃ、その眼の色を気にする奴等も居る。だが、そんな奴等ばっかじゃないってのも分かるだろ? 踏み込むようだが、お前は態と壁張ってねぇか?」


 軽薄な雰囲気を取り払った真摯な眼差しと態度。


 こいつは、本当に気遣って言っているのだろう。


 黒が嫌悪され純粋な白が崇拝される人の世界で、灰の眼を持ち生きてきた年月から人間不信になっている人間の男―――そう、ラドは思っている。それは、そう思わせているのだから当たり前だ。だが、現実は大分異なっている。それこそ、ほとんどが虚偽と言える程に。それでも―――――


「お前は将来良い隊長になれるだろうよ」


 小さく零せば、ラドは今度こそ零れ落ちそうな程に目を見開いた。それは、珍しく褒めたからだろうか、それとも想像していた反応と違ったからだろうか。どれにしろ、言うべき事は言ったとラドに背を向け、いい加減止めていた術を行使する。




 例え、ほぼ全てが偽りだとしても。目を合わせ、ただ身を気遣って吐かれた言葉―――嘘まみれの俺が思うのは烏滸がましいかもしれないが、唯一の友だと思っている相手からの言葉は、自身の空虚な胸中を、暖かなもので満たしていったのだ。
























 見張り室の椅子に座り、ぼんやり宙を眺める。自業自得だが、何時にも増して身体が鉛の様だ。朝の時間、普段はラドの言う通り、殿下の護衛任務でも無い限りは書物室に居た。


 それが何故修練などという自分とは無縁のことをやり始めようと思ったのか…


 自分でも分からずに居たが、ふと、昨日のことを思い返して納得した。自分でも意外だが、自尊心を傷付けられた事をまだ引きずっていたようだ。


 まぁ、確かに俺達の種族はそんなもんだしな…


 疑問が解消すると腹が空いた。この状態は以前に比べると格段に燃費が悪いが、それでも他の人間と比べるとマシな方だ。

 腕を振り、空間に仕舞っていた乾燥パンを取り出す。同族にはグルメな者も居たが、俺は栄養になれば何でもいい方だ。昨日、いや二日ぶりの食事となるパサパサしたパンを犬歯で噛み千切っていく。ラドもグルメな様で、先程食事に誘われた時に「見たい」と言うので態々空間を開いてパンをやったのだが、「有り得ない!」と突き返されてしまった。

 我が儘な奴だとのっそり二つ目を取り出して口に放り込む。

 この任務の前は、ほぼ自訓練時間として割り当てられてる分を、知識を蓄えると称して書物室に篭もり身体を動かさないようにしていた。その場合魔力も体力も日常使用の範囲内なので、二三日に一食程度で事足りる。だが、寝れて、しかも王子様のお守りも外れれるといえども、魔力消費の増加に因る倦怠感と、一日一食になるのは面倒臭い。


 …、今言っても仕方ない、か


 溜め息と共に魔術を編む。白の牢獄への侵入は、繊細な空間魔術に加えそこに組み込まれている魔術と素材が理由で難易度が跳ね上がる。前任者達が監視用の感覚器官を一つしか使えなかったのも、それが理由だろう。自身の一部という身近で強固なイメージと繋がりを持つものでも、一つあの部屋に置くだけで時間と共に貪欲に魔力を持ってかれる。


 …二つだと二倍というわけだが……


 怠いからと一つに減らしては本末転倒である。


 編んだ魔術が完成し、三度目となる白の部屋の姿が右目に映った。

 そして、ぼやけた視界が見開いた黒い瞳と焦点があった瞬間――――


 

「すいまっっせぇーーんん!! どうかお情けであの時の悪口は聞き逃してくださいませぇーー!!!」



 というくぐもった叫びを右耳が捉えた。

 それはそれは反応出来ない程の見事なスライディング土下座だった。







 「おーい、飯まだだろ? 持ち帰りだけでも一緒にどうだ?」

 「…いや、もう持ってる」

 「へ? ああ! 旨いもん仕舞ってんのか。便利で羨ましいな。……、んで? どんなもん普段食ってんだ?」

 「…寄るな」

 「細かい事は気にすんなって! 腹減ってんだ、美味そうなら少し分けてくれよ」

 「…はぁ。――ん」

 「………。いや違うだろ」


 以下続く


 トネコメ「仲良しか」

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