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05

夜、仕事から帰ってきて家でくつろいでいると、電話が鳴った。


ディスプレイには彼の名前。


練習の前日には必ず彼から電話がかかってくる様になっていた。


電話をとるだけなのにドキドキわくわくする。

いい加減、いい歳なのに恥ずかしい位に。


こんな気持ちになるのは久しぶり。


「もしもし?」


「あ、朱音さん?今、いい?」


機械を通すと少し低くなるその声。

普段と違うそれにも少し鼓動が早くなる。


「うん!練習の事だよね?」


「そう。明日も時間通りでいい?仕事は大丈夫?」


「私はOKだよ。賢君こそ、研究忙しいんじゃない?」


「僕は大丈夫だよ。論文もちゃんとやってるし!」


テンポのよい軽い軽い会話。

練習の時間を重ねる毎に打ち解けていった私達はお互いの話をする様になっていた。

自分の仕事の事や、彼の研究の事。

歌の練習からも分かる様に、研究も熱心に取り組んでるみたい。

そんな彼の真面目さも、素敵だなぁと思う。



でも、正直、恋愛から遠ざかりすぎてて怖い…


会話を楽しみながらも、そんな事を不安に思う。


しかも、賢君はカッコいいから…


ずっと気になっている事があった。


「毎日こんな風に私と電話してていいの?彼女怒っちゃうんじゃない?」


そして、とうとう核心に迫る。

まだ、引き返せるところにいるから、自分で予防線を張るために。

何気なく質問したけれども、電話を握る手は震えていた。


「大丈夫だよ?僕、彼女なんていないし」


ところが、返ってきたのは意外な答え。


「えっ!?そうなの!?」


驚きながらもその言葉に安心する。


「朱音さんこそどうなの?

 綺麗だから周りの男が放っておかないでしょ?」


「そんな事ないよ!出会いも全然ないし…」


「そうなんだ。へぇ~」


電話越しの彼の声はなんだか楽しそうだった。




「では、初めに先日ご指摘をいただいた件ですが…」


今日もまたKコーポレーションでプレゼンをする。

糸田君と二人で作成した渾身の資料で臨んだ。


「すごい…前回よりも数値がより細かく、わかりやすい」


相手先の方々も、資料に目を通して満足してくれている。

プレゼンは順調に進み、最後の質疑応答も終わった。


「では、これで予定通り、ビルの工事の発注を進めさせていただきます」


自信を持って部長を見つめる。

完璧だと思った。

初めて彼を負かせたと、そんな事を思っていた。


しかし、次の一言で全てが覆る。


「待って。もう一度、ビルのデザイン自体を見直してほしい」


「えっ…!?」


耳を疑った。

このプロジェクトはもう1年以上も前から始まっていて、

ビルのデザインはもう半年前には決まり全てが手配済みだったのに。

信じられない事をこの人は言い始めたのだ。


「部長、それは今更無理ですよ!もう全て手配済みですし…!」


「いや、私はそうは思わない」


彼の秘書の伊藤さんがフォローに入るけれど、全く折れる気配はない。


「北山部長、本気ですか!?」


あまりの事に私も大声で問い詰めてしまう。


「ふざけないでください!半年前にあれだけ議論を重ねて決めたものを直前で変更なんて無理です!」


こればかりは頭に来たから我慢できなくて、喰ってかかる。


「ふざけてなんかいない!あの無機質な近未来的なデザインよりも、自然を取り入れたデザインに変更した方が絶対に来客数は伸びる!」


彼も珍しく声を荒げている。


「君こそ、すでに決まってるからと言って、よりよい方に対応できないなんてやる気がないんじゃないか!?」


「そんな…私は…」


あまりの言われ様に返す言葉を失う。

結局、ひとまず工事を延期してデザインを再び見直す事になってしまった。

依頼主からの要望であれば、仕方のない事。

私はもちろん、会社に戻ってから課長達に事の次第を報告し、また仕事に追われた。


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