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ホムンクルスの錬金術師  作者: まつなが・K
第一章 黎明のホムンクルス
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07話 エリクシールを作ろう

そろそろ設定とかまとめたいなぁ…

 はじめて錬金術を使ってからというもの、テロル婆の監視下で様々な物を作っている。


 各種回復薬から毒薬爆薬…薬と名のつく物ならなんでも作った。

 もやはテロルの知っている薬は全てマスターしてしまったかもしれない。


 そんな訳で今日は薬の中でも最高峰に位置するエリクシールを作ろうと思う。

 エリクシールの名前を聞いた時、これぞゲームの王道!エリクシール万歳!とテンションが上がって、これまでのどの回復薬より力を入れて学んだ。

 本来ならエリクシールを作るには丸三日はかかる物なのだが、計算式を短縮化しまくって一日で完成するように改良した。前世での勉強が役に立った瞬間だ。

 この短縮化にテロル婆は驚いて褒めまくってくれた。さすが私の愛しい子だと。


 ふへへ、もっと褒めてくれてもいいんだよ?


 これに調子付いた俺はもっと短縮できないかと日夜研究を重ねている。

 エリクシールの材料は六種の魔晶石と聖霊水、ヘルメス樹の葉と実、最後に夢幻粉だ。どれも希少な材料だがテロル婆の家には全部揃っている。

 昔各地を渡り歩いていた頃に手に入れたといっていたが本当だろうか?夢幻粉なんて第二種危険薬物扱いで一般的には手に入れられない品だったはずなんだが…

 

『夢幻粉とは、夢幻虫花の蜜を粉末状に加工したものである。

 夢幻虫花は黄色から緑のグラデーションになる色をしており、筒状の花弁と楕円の葉を持つ。中央の雄しべから甘い香りを放ち寄ってきた生き物を捉えて捕食する食虫植物である。

 全長50cmほどで、時に人にも危害を加えるため群生地は立ち入り禁止区域となることもある程。その危険度とは裏腹に花弁根元から分泌される蜜は非常に甘く栄養価もあることから人気が高い。

 粉末状にすることで長期保存が可能。

 ―植物大図鑑第8分類より―』


 …とまぁ手に入れるのは割と危険が伴うのだ。

 テロル婆が昔どんなことをしていたのか気になるが、聞いても笑って誤魔化すだけで教えてくれなかった…気になるぞ…!


 火水風土光闇と全六種の魔晶石は砂状になるまでごりごりと砕く。

 粉状まで小さくしてしまうと魔晶石に溜められた魔力が消えてしまうので砂粒程度の大きさが最適なのだ。

 反対に実は原型が無くなるまで細かくすり潰す。

 葉は葉脈に沿って切り込みを入れ、軽く火で炙っておく。

 聖霊水はテロル婆が作り置きしている物を使わせてもらう。


 下準備が終わったら鍋を火にかけ、聖霊水を入れ七十℃まで温める。

 実を粉末状にした物を玉にならないよう丁寧に混ぜ合わせる。次に夢幻粉を同じように混ぜ、魔晶石を投入する。

 魔晶石はしばらく熱すると魔力が溶け出し、液体となって行く。その際各魔晶石が持っている色が混ざり合い綺麗な虹色になる。

 最後にヘルメス樹の葉を沈めて半日煮込むと完成だ。


 エリクシールは完成すると真っ黒な液体となるので、虹色の状態を見れるのは最初だけと言うのが勿体ない。いつか虹色のままのエリクシールを作りたいものだ。

 だって黒色ってまずそうだし。いくら効果は抜群でも飲みたくない。


 完成した時用に俺の身長よりちょっと小さ目の瓶を一つ用意しておく。

 マグカップ大の鍋で作り出すことが出来るのは一回分だけだ。

 今は練習だからいいのだが、今後錬金術で身を立てて行こうと思うのならもう少し量を作り出せるようになりたい。

 そのためには今より大きい鍋を使えるようになるか、錬成速度を上げて回数をこなすかだが…大きくなれれば一発で解決するんだがなぁ…

 

 錬金術の腕も上がったことだし、自分でホムンクルスについて勉強するのもありかな。


 煮込み時間は暇になるし丁度いいかと、鍋の中の状態が安定した事を見て、テロル婆の書斎にこもってさっそくホムンクルスについて調べることにした。

 テロル婆の書斎は家の地下にあり、内容は錬金術関連か魔法関連の本ばかりだ。割合的には七対三くらいか。

 魔力を使用して術を行使するという点から魔法と錬金術は同時に語られるほど、似た点の多い技術なのだ。

 簡単に言うと、魔法は魔法陣と詠唱を使って己の魔力と各属性の精霊の力を変換して現象を起こす技術で、錬金術は錬成陣と術式を使って己の魔力と素材の魔力を変換して物質を作る技術だ。

 要は精霊の力を借りるか素材の力を借りるかの点が大きく異なる。


 端から本棚を確認して、一番奥の棚に人工生命体(ホムンクルス)関連の書籍が集められていた。

 『無機物に命を宿す』

 『肉体と魂の結合理論』

 『記憶の置換と移植』

 『人型の魔力導』等々

 人工生命体を作るために必要な知識を手当たり次第に集めたと思われる本の並びだった。


 その中で一角だけ本がくたびれている場所がある。

 何度も何度も読んで捲ってをくり返したと思われるそれらに共通していたのは、人体錬成に関連した本だという事だった。


 ―あぁやはり…そうなのか―


 …心のどこかで解ってはいたんだ、テロル婆が何のために人工生命体を作ったのかという事は。


 くたびれた本達の中から一際ぼろぼろになった本に手を添える。

 『愛しい人を再び我が手に』―錬金術師が書いた人体錬成に寄せる希望と執念の自筆の研究書だった。

 その研究書を少し捲って見てみたが、何度も論理を立て、実験し、失敗と考察を繰り返した履歴が延々と書かれていた。

 最後の方は字が震え、本人がまともな状態ではなかった事が窺えた。それでも研究を止めなかったのはそれほどに人体錬成に執着していた証拠だろう。

 最後の研究は結果が書かれておらず、成功したのか途中で志半ばで倒れたのか。

 著者の名はアランザル=リッツカート。かつて初めて人工生命体を生み出し、ホムンクルスと名付けた、人工生命の第一人者だった。


 テロル婆は誰か愛しい人に再び会いたかったから、人工生命体(ホムンクルス)をいや人体錬成を研究していたんだ。

 ホムンクルスは、俺は研究の段階で生まれた過程でしかなかったんだな。

 俺の知る限りこれまで人体錬成は一度も成功した例は無い。

 それでも研究をしたという事は、それだけ会いたい人が居たと言う事に他ならない。


 悲しくは、ない。テロル婆がこれまで俺に注いでくれた愛情は本物だと知っているから。

 ただ少し寂しかった。俺ではテロル婆にとって本物の愛しい人には成れないから。

 テロル婆が会いたかったのが親か伴侶か子か孫か友人なのか誰なのか、俺には知る由もないが、それが俺ではない事は確かだった。


 ホムンクルスについて勉強しに来たつもりだったが、そんな気分ではなくなってしまった。

 テロル婆にとって俺とは一体何なのだろう。目的の物でもないのに、なぜこんなに世話を焼いてくれるのだろうか。

 もしかしたら俺は迷惑な存在なのかもしれない。下手に意思など持ってしまったから容易に処理が出来なくて持て余しているだけなのかもしれない。


 作り出されてから一年以上も経つと言うのにテロル婆にちゃんと俺を作った本当の理由を聞いた事が無かった。

 たぶん怖かったのだ。実は俺が偶然できただけの生き物で、本当は不必要な物だと言われる事が。

 小さな体で放り出されれば、生きていけない事実に。

 ただ子供が無意識に生きるために母にすがるように、俺はテロル婆にすがっていただけだと気付く事に。


 ―もう、大丈夫だ―


 俺は十分に錬金術を学んだ。今なら一人で外に放り出されても、なんとかやっていける…と思う。

 ちゃんとテロル婆に聞いてみよう。俺がこの世に作られた理由を。俺がこの世に生まれた意味を。


 ―そしてちゃんと、俺は俺自身の力で生きていこう―


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