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ホムンクルスの錬金術師  作者: まつなが・K
第一章 黎明のホムンクルス
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05話 ビッグになりたい

――あぁ…でっかくなりてぇなぁ…――


 切実にそう思った。


 小さいなりに頑張って生活に適応してきたつもりだったが、事ある毎にテロル婆に手を借りないといけない事が多くて申し訳がない。


 部屋を移動するにも段差が急な所は持ち上げて貰わないといけないし、物を食べる時も細かく分けてもらっている。

 排泄なんて、人用の便所は穴がでかすぎて落ちてしまうから専用の場所を用意してくれたのだが、恥ずかしくていつも家の外まで出て用を足している次第だ。

 本当ならここまでしてもらう必要はないのだが、テロル婆が楽しそうに世話をしてくれるものだから、必要ないとは言えない。


 人工生命体(ホムンクルス)という事で、人間の身体とは違う点が多くある。

 食事は出来る、呼吸もできる、でも必ずしも必要ではない。数日間食べなくても呼吸をしなくても、俺は死なない。

 食事や呼吸をすることが自然な行為だと思うからしているだけで、人工生命体の身体に必須ではないのだ。


 あと、この間気付いた事なのだが、俺の身体には血が流れていない。

 テロル婆に頼まれた薬草の仕分けの際、刃物のように鋭い葉を瓶に詰めようとして誤って腕を切ってしまったのだ。

 咄嗟に腕を抑えて止血しようとしたのだが、一向に血が出てこない。痛みはあるしかなり深く切ったはずなのだが、赤い液体は流れなかった。

 不思議に思って手を外してみたら、切った断面は平らで血管のようなものは一切見当たらなかった。


 後からテロル婆に聞くと、俺の身体は人型を成してはいるが、半固形体に膜が張っているようなもので、人体とは全く違うのだと。

 ならばなぜ痛みや触感があるのかと聞けば、俺の体の形を保つためには魔力が必要で、体中に魔力を通すための魔力導脈が張り巡らされていて、その魔力を通して俺は様々な情報を知覚できるのだ。


 魔力とか、またファンタジーな単語が出てきたものだ。

 魔力と聞くと魔法を使うために必要な物と言う印象だったが、この世界で―現代日本とは違うという意味でこの世界と呼ぶ。俺はまだここがどういった世界だか明確に把握していない―魔力は万物に宿る生命力を指すのだと言う。


 人の身体にはもちろん、植物や水、空や大地、無機物有機物問わず、どんなものにも少なからず魔力は備わっている。

 魔力は個体それぞれに違う波動と属性を持っており、一つとして同じものは無い。


 人は己に宿る魔力を行使して、生活における様々な問題を解決する。魔力を使えば火を起こす魔法が使える、農村地であれば土を操って農作をするのだという。

 といっても魔力を魔法として使えるのは長年練習した者のみで、すべての人間が魔力を持っていても、魔法を生業にしている人間は割と少ないらしい。


 ふむ、という事は攻撃魔法ってあまり無いのだろうか。


「そうねぇ、攻撃魔法はもちろんあるよ。使える人は皆軍に所属するか、冒険者として組合(ギルド)に居るわね。ハルちゃんは攻撃魔法を使いたいのかい?」


「いや、魔法があるなら一度は使ってみたいというか…だって外には魔物が沢山いるんでしょ?使えた方が便利だ」


 そう、この世界には魔物がいる。魔物は魔力超過多に陥った動植物が変異した姿だ。

 魔力を持つ者はその姿を維持するため常に微力ながら魔力を使っている。

 使った魔力は食事や睡眠によって回復するが、その際体調が悪かったり怪我をしていると身体の回復のために必要以上に魔力を回復しようと脳が働き、魔力過多に陥ることがある。

 魔力過多になるとひどい熱といったような風邪の症状が出る。その風邪を放置していると身体を回復させるために更に魔力を生み出し、魔力超過多に陥ってしまう。

 こうなると姿を維持する事が困難になり魔物に変質してしまうのだ。

 人であれば超過多になる前に薬を服用してら回復させることが出来るが、動植物はそうはいかない。

 だから魔物と呼ばれる者達は動物の姿や植物の姿に似ている事がほとんどなのだそうだ。


 全部本で読んだ知識で、俺は未だ家から遠くに離れたことが無いため魔物に出会ったことは無いが、あったら小さい俺などひと飲みにされてしまうだろう。


 ああ、やっぱり早めに大きくなりたい。


「ねぇテロル婆、俺大きくなりたいんだけど、出来る?」


「大きくってどれくらいだい?」


「テロル婆くらい。ってか成人男性と同じくらい。俺、人になりたい」


 俺がそう言うとテロル婆は困った様に眉を下げた。

 あれ?俺は何か無茶を言ってしまったのだろうか。


「やっぱり小さい姿は嫌かい?」


「嫌ではないけど、不便なんだ。だって人と同じ姿じゃないと錬金術ができない。窯とか鍋とか混ぜることもできないじゃないか」


「そう…」


テロル婆は俺の話を聞くと更に眉を下げて、まるで泣く寸前のように悲しそうな顔をした。

 どうしてそんな顔をするんだ。ただ大きくなりたいと言っただけじゃないか。俺はそんな顔をさせたいわけじゃないのに、やめてくれよ。

 テロル婆は俺の足元に手を寄せ、俺を手の平の上に乗せて顔と同じ高さに持ち上げた。


「ごめんねぇ…本当はあなたを人として生み出したかったの…でも私の技術だと人型で姿を保つにはその大きさが限界で…今は大きくしてあげられないんだよ」


 テロル婆は申し訳なさそうに眉を下げた。間近で見ると、テロル婆の顔にはたくさんの皺が刻まれていて、俺が思っている以上に年を取っていた。


 あぁ…俺はこんな婆さんにずっと頼り切っていたのか。

 甘えるのは当然とばかりに、俺はテロル婆に全てをゆだねていた。

 これじゃあ前と変わらないじゃなか。俺は今何のためにテロル婆から錬金術を学ぼうとしているんだ。

 俺が錬金術を学んで、テロル婆に頼らなくても良いくらいに極めて、自分自身の力で欲しいものを手に入れたらいいじゃないか。

 ここには願いを叶えるための術がちゃんとあるのだから。


 「大丈夫だ。俺は俺の力で望むものを手に入れてみせる。いつかテロル婆よりもすごい錬金術師になって大きくなるよ。だからそんな悲しい顔をしないでよ。そんで俺にテロル婆が知ってる全てを教えてくれ。しばらくはテロル婆に頼りきりになっちゃうけど、そこは許して欲しいかな」


「ふふっ…一体何を言っているのかねこの子は。子が親を頼るのは当然じゃないか。いいよ、私の知っている全てをハルちゃんに教えてあげる。でも簡単には追い抜かさせないから、覚悟して勉強しなさい」


 テロル婆はそう言って、俺に文字や歴史・文化の勉強に加えて、錬金術について学ぶ事を許してくれた。



 この日から俺はテロル婆の書斎に入り込んでは錬金術関連の本を読み漁り、手当たり次第に知識を求めた。

 テロル婆が錬成を行う際には近くで見学させてもらって、手順を覚え、分量の微細をメモを取って覚えていった。

 ただ見ていた頃に想像していたより、実際に扱おうとして観察すると、非常に細かい気配りや計算が必要な事を知った。


 テロル婆に追いついて追い越すにはまだまだ時間がかかりそうだ。


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