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ホムンクルスの錬金術師  作者: まつなが・K
第三章 鋼星のホムンクルス
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31話 都市マルティノー

第三章開始です。よろしくお願いします。


 ・南都市マルティノー

 魔物の活動が活発な南の地において、交通流通の中心地として大きく発展を遂げた都市。

 周囲を囲む砦によって魔物の侵攻の脅威を防ぎ、都市自体も一種要塞のような堅牢な造りとなっている。

 都市の構造は全体的に円の形をとり、中心に行く程高くなるようにできている。そのため階段や坂が多く、平坦な道はほぼ無いと行ってもいい。

 都市人口の半分程度は冒険者や旅商人、観光客で、この都市の定住者は残りの半分、さらに都市設立当初の古くから定住している者は創立者一族を含むごく僅かしか居ない。

 流通の中心地だけあって、マルティノーは商業都市と言える。

 この都市で手に入らない物は無いと言われるほど多種多様の品が集まり、周囲の街や村・首都にも向けて商売を行う。品揃えを求めるならばマルティノー、質を求めるならば首都であろう。

 今日も何処かで人と物が幾多の出会いを繰り返している商業都市マルティノー、一度訪れてみてはいかかだろうか?

 (ジョーラ・ログ旅行記・各国主要都市の章より抜粋)



 マルティノーの正門前で過去に呼んだ旅行記の内容を思い出していた。

 都市は中心になるほど高いとは言っていたが、日本の高層ビルにも引けを取らない程の高さを持つ巨大な建物が都市の中心にそびえ立っていた。

 この世界の文明からするとあの高さの建築物は作れないと思うのだが…建築技術は非常に高いのだなと感心していたら、あれは魔法によって維持されているのだとこっそりシャンが教えてくれた。


 作り始めた当初はあそこまで高くする予定ではなかったが、土魔法で石や砂を固定して、魔法の及ぶ最大範囲でどこまで作れるかと試したらあの高さまで作れてしまったのだとか。

 今ではマルティノーを象徴する建物として観光の目玉となっている。


 そして高さに目が行きがちだが、この都市は横にも広い。円形の街のはずなのだが正門前に立つと街の端が見えず、湾曲した壁が横にずっと続いているような光景しか見る事が出来ない。

 都市を囲う壁は砦と同程度の高さがあり登って中に入る事は出来そうにない。ついでにその様な不法侵入者には壁の上部から魔法が飛んでくる事だろう。

 もちろん俺達は通常通り正門から入る為、入門手続きを行う列にしっかり並んでいた。


「やっぱり時間かかるかな?」


「そうねぇ。大きな都市だし、入りたい人も多くて、審査も厳しいでしょうから必然的に時間はかかるでしょうね」


 まだまだ中に入るには時間が掛かりそうだと肩を落とした。

 大人しく並んでいる俺達の横を大きな馬車が…地竜が引いているから竜車か、大きな竜車が通り過ぎて行った。竜車は全部で五台続き、竜車の前後には十人ほどの人がそれぞれ付いて歩いていた。

 その竜車の一団は列には並ばず、直接審査官と交渉して幾つかのやり取りをした後直ぐに門の向こうに入って行った。


「あれは?」


「どこかの大商隊だろう。都市と契約しているような商隊はああやって証明書さえ見せれば審査なしで通る事が出来るんだ。まぁよっぽど領主に気に入られなければ証明書などもらえんがな」


 という事はあの大商隊は領主からよっぽどの信頼を受けているという事なのだろう。

 羨ましがった所ですぐに都市に入れるわけじゃないのだから俺達はおとなしく順番が来るのを待った。


 体感にして三時間程待っただろうか。ようやく俺達の前の二人組の審査が終わり、俺達の番がやってきた。

 待っている間に何組かが審査官に連れられてどこかへ消えたが、近くに取調室でもあるのだろうと深く考えない事にした。


 ―俺はこれまで悪い事なんてしていないから、大丈夫…のはず。


「お待たせしました。それでは審査をさせて頂きます。貴方達は三人で一チームで問題ありませんね?」


「ああ、そうだ」


シャンは例の如く動かず人形のふりをしているので数えず、俺・エイマー・ユディさんで三人一チームとなる。

 ここで一チームかと確認されたのは、連帯責任を問うためだ。チーム内の一人に問題があった場合、他の人間にも疑いがあるとしてまとめて取り調べる事を確認しているのだ。

 また都市に入った後でも誰かが問題行動を起こせばこれも連帯責任として他のメンバーも責任を問われる事になる。

 俺としてはエイマーやユディさんと別チームとしてもらっても良かったのだが、エイマーは俺もチームの一人として数えていた。


「では、身元の確認をさせてください。何か証明出来る物はお持ちですか?」


 流石は大都市の審査官といった感じで、俺達の担当の審査官は至極丁寧な対応をしてくれている。

 こういう所では意地の悪い対応をされるイメージが付いていたのだが、それは前世で読んだ話の中だけの物だったらしい。

 エイマーとユディさんはそれぞれの冒険者カードを見せ、俺は砦の責任者から貰った封筒を手渡した。


 審査官は冒険者カードを後ろに設置された何かの機械にかざし、表示された内容を確認してエイマー達に返した。

 あの機械はカードが本物である事を確認するためと、カード表面に表示されていない内部の記録を読み取る物だとエイマーが教えてくれた。

 ギルドにも同じ機械があり、そこでランクの書き換えや依頼の受諾や達成の記録をカード内部に書き込んだりするらしい。


 後は俺の審査だけだ。

 審査官は俺が差し出した封筒の蝋を丁寧にはがし、中の証明書を見て驚いたように眉を上げ、ゆっくりと大きく目を開けた。


「なんと!貴方が砦を救って下さった薬師様ですか!」


「へ?様…?俺の事知ってるんですか?」


「ええ、もちろん!砦での出来事は大きな噂になってますよ。旅の薬師が原因不明の流行り病を治して砦の危機を救ったと。マルティノーでも病が広がるんじゃないかと日々不安な気持ちで過ごしていましたからね。原因不明、治療法も不明で頭を抱えていた時に現れた凄腕の薬師様!砦の病が治まり始めた事で薬師様の噂がマルティノーでも広がってます!」


「うわぁ…そんなことになってるんだ…」


「砦に家族や親友が居る者も多かったですから、家族や親友を救ってくれた薬師様に感謝をする者が大勢います。俺もその一人です!弟を救って下さってありがとうございました」


 審査官は晴れやかな笑顔で俺の手を掴み、上下に強く振った。

 あの病に罹った者の中に審査官の弟が居たらしい。俺が直接看病に当たったわけじゃないので、誰かまでは分からないが。


 ―しかしもう都市にまで話が伝わっているのか…


 予想以上の大事になっていたのだと知り、俺は憂鬱な気分になっていた。

 俺としてはただ単に俺に出来る範囲で薬を作っていただけで、砦の危機など考えていなかったのだから、あまり持ち上げられても困るのだ。

 そして俺は薬師でもなければ様付されるような立場の者じゃない。俺はあくまでも自分の為に錬金術を追及する錬金術師なのだ。


 という事をこの審査官に言ったところでどうにもならないので、黙ってされるがままになっておく。

 都市に入れたらしばらく大人しくしておこう。人の噂もなんとやらだ。大人しくしていたら噂話も落ち着くだろう。


「それで、俺はマルティノーに入っても良いんでしょうか?」


「もちろんです。こうして砦の責任者の証明書もありますし、何より噂の薬師様ですからね」


「ど、どうも…」


 審査官の中で俺は随分と神聖視されているようで、居心地が悪かった。

 敢えて否定するような事柄でも無い為黙っているが、俺の表情は引きつるのを抑えるために無表情になっていたと思う。


「ハルユキは噂されるのは嫌なのか?」


「噂というか目立つのが苦手なんだよ。これまで特に秀でた所の無い人生を送ってきたからさ」


「それだけの技術がありながら秀でた所が無いなんて、おかしな事を言うのね」


「錬金術を身に着けたのは最近だからな。錬金術を学んだのだって自分の為だし、こう…実力以上に持ち上げられるとどうしていいか分からん」


 エイマーが何かを言いたそうにしていたが、俺は審査官の案内に従い人が通れるだけの高さに開いた正門をくぐって中に入った。


 中に入ると外からでは見えなかった予想以上の綺麗な景色に胸が高鳴った。

 きっちりと整備された大通りと活気にあふれる街並みに息を飲んで、楽しげに着飾って街を行く人々を唖然と見渡した。


「すげぇー」


「ハルユキは大きな都市は初めてか。だったら驚くだろうな。マルティノーは首都に次ぐ大都市だからな」


「そんなでかいのか。なら欲しい物何でも揃うかな」


 まず何を揃えよう。家から持ってきたのは簡易の錬金道具だから、自分用の錬金道具を探さないといけない。

 お金はどれくらい必要だろうか。流石に大金貨全部使う程の物はないだろうけど、出来れば安くていいものが欲しいな。

 いやでも何よりも手に入れなきゃならないのは魔晶石だ。どこに行けば手に入るだろう…?


 そうやって脳内で買い物リストを作っていると、エイマーに後ろ頭を叩かれた。


「初めての大都市ではしゃぐのは分かるが、まずしなきゃならないのは宿の確保だ」


 指摘されてはっと空を見ると、夕暮れ時になっており、空は赤く色付いていた。

 煌めく大都市に心を躍らせて優先順位を見失っていた事に恥ずかしくなった。これでは完全にお登りさんだ。


「悪い。宿を探しに行こう」


「ま、明日からゆっくり見て回ればいいさ。確か宿が集まっているのは東の方だったかな」


数度来たことがあるらしいエイマーの案内について、俺達は夕日に照らされて赤く染まる街中を歩いた。


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