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ホムンクルスの錬金術師  作者: まつなが・K
第二章 爆轟のホムンクルス
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24話 大爆発

■9日2時頃:言葉の表現方法を一部修正しました。内容に変化はありません。

 村を出るとき、村の人薬を売ってくれと頼まれた。

 医者でも治す事が出来なかった病を俺の作った薬が治したと噂が村中に広がったらしい。今日俺たちが村を離れると聞き付けた人たちが家の前に集まっていた。

 医者が常にいるわけじゃないから薬はいくらでも欲しいんだそうだ。

 滞在中にそれなりの量を作ったから売っても支障はないだろう。


 俺達が使う分を分けた物を村の人に見せて、ひとつひとつ効能を説明していく。

 説明途中で怪我をしていた子供に薬を使い、実際の効果を確かめてもらうと薬は飛ぶように売れて行った。実際に見て触ってという体験が出来た事が薬への信頼につながったようだ。

 実演販売と言うのはこの世界では珍しいらしく、エイマー達にも俺のやり方は珍しがられた。俺としては効能を誤魔化していないという証明のために行っただけの事なのだが。


 俺は正確な値段がわからなかったから売値はエイマーに聞いて決めた。

 傷薬と風邪薬を中心に銀貨三枚ほどが売れた。都市へ行ったら一週間は良い宿で生活出来る値段と聞いた。

 半分以上趣味で作っていた薬が三万円で売れたのだから良い商売だと思う。人間の身体を手に入れたら薬師として生活するのも有りかな。



 今日は馬車が運行している日では無いらしく、次は三日後との事だったので徒歩で移動することになった。

 徒歩で三日だったので待つよりは歩いて経験を積んだ方が良いと全員の意見が一致した。俺はエイマーから旅の知識と戦闘技術を教わり、ユディさんは寝込んでいた間に鈍った感覚を取り戻す為にという目的の違いはあるけれど。


 午前の移動中は戦闘の仕方をよく見ておけと言われ、二人が魔物と戦う姿を少し離れて見学していた。

 二人とも前衛職ではあるがエイマーが壁役でユディさんが遊撃手の様だった。二人の連携は流石と言える物で少しの掛け声でお互いの意思を確認し的確に的にダメージを与え数を削っていった。


 経験も実績もエイマーの方が上のため経験が浅いユディさんのフォローをしていたが、ユディさんはそれが悔しいようでフォローされるたびむくれていた。それにエイマーが苦笑するのが一連の流れとなっていた。

 俺から見るとユディさんもはんぱなく強く見えるんだけどな。この中では俺が最弱ということだ。シャンは村にいる間に下級の魔法を使えるようになったらしいからな。

 最弱…かぁ…ちょっとへこむな。


 太陽が真上に来た頃、昼食のため木陰になるところで休憩とった。

 普通はここで調理となるが今回は村で作ってきた物があるのでそれを食べた。硬いパンに野菜とハムを挟んだだけのサンドイッチだったが量があったので腹は十分に膨れた。

 膨れた腹をさすっているとエイマーが俺の肩を叩いた。


「さて、じゃあ腹ごなしに戦い方を教えてやる」


「俺は戦い方って言うより、敵から身を護るための護身術程度で良いんだけど…戦闘は極力避けて逃げる方向で行きたい」


「ぬるいな。一度先頭になれば魔物はどこまでも追ってくるぞ。逃げるのは戦って倒すより難しい」


 そう言われて俺は初めて対峙した犬型の魔物の事を思い出した。

 確かにあいつはしつこくどこまでも追ってきた。犬の習性と俺が怒らせたからだと思っていたのだが、魔物本来の習性だったらしい。


「って事は戦闘になったら必ず倒さないとならないのか…」


「倒すか無力化するか、だな。麻痺や睡眠状態にすれば一先ず追ってこなくなる」


「なるほど…(じゃあ爆弾意外にも状態異常系の薬物を作らないとなぁ腕が鳴るぞ!)」


「ハルユキ、何か危ないことを考えていないか?悪い顔になっているぞ」


「なに、大したことじゃないさ」


 頭の中で作る物のリストに麻痺薬と睡眠薬の項目を書き加えた。これはマルティノーに着いたら忙しくなりそうだ。


「じゃあとりあえずハルユキがどの程度のものか確かめたいから、適当に掛かって来い」


 掛かって来いと言われても、どうしていいのかわからずなかなか動けない。

 エイマーが早くしろと言うのでとりあえず全力でエイマーの腹を殴ってみた。

 エイマーの身体は俺が全力で殴ってもびくともせず、逆に俺の手が痛くなってしまった。


「いてぇ…」


「力はまぁまぁあるな。これなら鍛えれば弱い魔物ならすぐに倒せるようになるだろうよ」


「うーん戦いにならなければそれが一番なんだけどなぁ…」


「ぬるいと言っているだろう。こうして旅をするなら戦闘はつきものだ。じゃあ守りの方はどうかな…おら!」


「うわぁあ!」


 ぼけっとしていたらエイマーがいきなり殴りかかってきた。

 俺は咄嗟に避けたのだが、エイマーは少し意外な顔をした後すぐに二回三回と殴りかかってきたため、もろに腕と腹に拳をくらってしまった。

 当然エイマーの無駄なく筋肉が着いた腕から繰り出される一撃は重く強く、ひ弱な俺は面白いほど吹っ飛んで近くの草むらまで転がって埋もれた。


「エイマーやりすぎじゃない?」


「む、手加減を間違えたか…」


 のんきな会話が聞こえてきて、転がっているのに心配してもらえないのが少し虚しかった。

 むくりと起き上がり服に付いた草を払い落とす。動くと殴られた個所が痛んだ。


「すまんなハルユキ。力がそこそこあったもんだから、多少の攻撃でも耐えられると思って加減を間違えた」


「いいよ、痛いだけだし」


「ふむ、大した怪我は無いようだから、吹っ飛んだのはハルユキが軽かっただけか。身体の方もそれなりに頑丈じゃないか。鍛えがいがあるな」


「いや、そんな目を輝かせないで…」


「俺は人を鍛えるのは割と好きでな、ハルユキも強く………頭を下げろ!」


 エイマーに頭を掴まれて地面にたたきつけられた。

 土が柔らかくて怪我には至らなかったが、新たな扱きかとエイマーを見るとなにやら険しい目つきで向こうの木陰の方を見ていた。ユディさんも同じように伏せて向こうを睨んでいる。

 なんだろうと思って同じように見ると何か大きな山のような物がもぞもぞと動いていた。


「何…?」


「ホーンドロックピッグだ…なんでこんなところに居やがる…!」


「え、豚?」


「んな可愛いもんじゃない…普段は岩山に居て、巨角で岩を砕いて岩陰に居る虫や動物を食うんだ。力も強いんだが、岩で包まれた身体には生半可な攻撃は通らない。つまり半端なく強い。見つかったら厄介だ…俺達じゃ倒せない…」


 俺は驚いた。強いと思っていたエイマー達が勝てない相手が目の前にいる事も、エイマー達がそれを素直に認めた事も。

 旅をするなら冷静に状況を判断する事も必要なのだろう。本心では無かったとしても。

 エイマーは悔しいのか俺の頭を押さえつける手に力が籠っていた。


 ホーンドロックピッグと呼ばれる魔物は何かを探しているのかずっと周囲をふごふごと嗅いで歩き回っている。

 俺達は相手がこちらに気付かず去ってくれる事を願ったのだが、豚は鼻が良いのだろう、俺達の臭いにを嗅ぎ分けたようだ。

 視線が合ってエイマー達が舌打ちをした。豚はこちらに向かって走りかかってきた。先ほど教えられたように戦闘になれば逃げられず倒すか無力化するしかない。

 つまり…


「戦うしかねぇってか!」


「ハルユキは後ろに下がってな!俺は気を使ってやる余裕が無いから死ぬ気で逃げろ!ここにいたら巻き添えで死ぬぞ!」


「エイマー…!」


「ハルユキ下がって!ほらシャンも一緒に!」


「私は少しなら魔法が使えるから援護するよ」


「じゃあシャンはハルユキを守ってあげて」


 ユディさんもエイマーに続いて敵と戦闘に入った。

 ホーンドロックピッグはやはり強いのか二人は攻撃をしているものの相手にダメージは通っていないようだった。


 俺はどうすればいい?下がってろって?何もしないでいられるか…!


 確かに俺は直接の戦闘ではまだ役に立たないかもしれない。だがこういう時のために対処法は用意してきているんだ。

 急いで腰に付けたポーチから小型の爆弾を数個取り出した。今回はちゃんと仕掛け込みで作ってきているので後は火をつけて投げるだけだ。

 俺は魔晶石の欠片に魔力を送って火を熾し、爆弾に着火した。火が特性の爆薬に着く前に投げなければ。


「二人とも下がって!!危ないぞ!おらあぁあ!!」


 二人は俺の指示が分からないながらも、咄嗟に後ろに下がった。

 俺の投げた爆薬が豚の頭に当たり三回の爆発が起こった。爆炎が豚の頭に燃え移り身に纏う岩を熱して、熱さで豚が鳴き喚いている。

 煙が消えると豚の頭から岩がはがれ内側の皮膚が見えていた。角は片方が根元から折れ、もう片方も炭のように黒く焼けていた。

 しかし致命傷には至らなかったらしく豚は怒りをあらわに俺を標的として睨んでいた。


 あれで駄目となると、もう一段危険な物を使わないと駄目か…


「ハルユキ何をしている!手を出すな!お前では…」


「エイマー達でも駄目なんだろうが!なら一か八かでも俺の爆弾で倒す!大丈夫何とか出来るさ」


 エイマー達は俺を必死で止めようとしてくれているが、もう遅い。

 ホーンドロックピッグは二人など眼中になく俺だけを標的としているのだから。

 もう一段上の破壊力の爆弾はあるが、あれはまだ安全に使えない上に威力が把握できていない。いざという時の切り札として安全無視で高威力の物を作ったのだ。

 ここで使えば俺だけじゃなく二人まで巻き込んでしまう。場所を変えなければ。


「シャン、魔法で相手を挑発して俺を追うように誘導できるか?」


「やってみる」


 シャンの返事を聞いて、俺は杖を掴んで走り出した。

 豚の走るスピードは速く俺一人だと追いつかれていたが、シャンが上手い事足止めと妨害をくり返して俺に追いつかないぎりぎりの速度で豚を誘導してくれていた。

 俺は走りながら杖に魔晶石をはめ込んでいく。

 今回はこれを使って火を熾す予定だ。手に持って爆弾に火をつけると投げる前に爆発してしまう可能性もあるからな。


 よし、かなりの距離が取れたのでそろそろとどめを刺そうと思う。


「シャン、豚を転ばせられるか?」


「うん、土魔法で落とし穴を作るよ」


 シャンが詠唱すると魔方陣から光が広がり、豚の足元に深さ一メートル程の穴が開いた。

 豚はそのまま前足を穴にとられ大きな音を立てて転がった。

 すぐに体勢を立て直そうとしていたので、その前にこいつをぶち込む!


 俺は十センチほどの球体を手に持ち、杖の先にはめ込んだ魔晶石に魔力を送って火を灯した。火は魔晶石自身の魔力を使って大きな炎となり勢いよく燃え盛る。

 俺は野球のスイングの要領で球体を宙に投げ、落ちてきたところを豚目掛けて打ち抜いた。


 炎が球体状の爆弾に燃え移り、外装を燃やし尽くして豚に着弾すると、当たり辺り一体を震わせる轟音を響かせながら爆発した。

 高温の熱が頬を焼き、暴風で立てずしゃがみこみ、辺りの草や木や石が放射状に吹き飛んでいく。煙が炎と共に立ち昇り、上空で雲のように漂う。


 爆発の影響が収まったころそっと顔を上げると、豚は丸焦げになり、地面は半円状に抉れ、半径十メートル以内には草一本残っていなかった。


 ………


 ………………おふぅ…


 ………


 ………や…やっちまったたぁぁあ!!!


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