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ホムンクルスの錬金術師  作者: まつなが・K
第二章 爆轟のホムンクルス
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21話 魔法の仕組み

 昼が近くなるとエイマーも起きユディさんと談笑を始めていた。

 つもる話もあるだろうから、二人の会話が落ち着くまで俺は家の外で錬成に使えそうな物を探して時間をつぶすことにした。


 エイマーが起きるまで五時間ほどあったのだがその間に医者と治癒術師の女性がやってきてユディさんの最終診察を行ってもらった。

 俺は薬は作れても正しい診察が出来るわけじゃ無いから、こういうのはちゃんと本職の人の判断が必要だった。

 今回はたまたま俺の知識が及ぶ範囲で対処出来たけど、本当に病気だったら俺はどうしようも無かったと思う。

 診察の結果は良好で、数日薬を飲んで安静にしていたら全快するだろうとの事だった。

 治癒術師の女性が回復補助の魔法を掛けていってくれたからユディさんの調子は見た目にも良さそうだった。

 治癒術師の女性は医者のじいさんの孫だそうで、この周辺の村々を診察で回る爺さんに付いて、補助魔法の修行をしているそうだ。


 次の村へ向かう二人を見送ってから、そういえば俺は初めて魔法を見たことになるんだよなと思った。

 攻撃魔法の方ばかりが気になっていたけど、普通に生活するならこういった補助魔法の方が欲しいよなぁ。

 俺にも魔法って使えるのかな?


「しばらくは難しいんじゃないかなぁ」


「おうシャン、久しぶりに喋ったな」


「あの二人がいるところでは話せないもん」


 話さなかったとしても俺の頭の上にずっといたから、これまでの話も俺の考えも全部筒抜けなわけだけど。

 おっと、家の裏の草むらで使えそうな子ぶりのハーブを発見した。採取採取。


「別にあの二人だったら大丈夫だとおもうけどなぁ」


「だめだめ、隠し事をしているような人に私達の最大の秘密を見せるわけにはいかないでしょ」


 じゃあ二人が話したらばらしても良いのかな?と考えたらその時は別に良いそうだ。

 というかシャンも俺と同じく大きくなればこの問題って解決しないか?

 大きくなってしまえば見た目で人間かホムンクルスかなんて簡単には分からないのだから。

 おぉ!あの木の上にエイドベリィが生ってる。これも採取だ。


「私にあの痛そうなのをやれって?嫌だよ。それに私はこの小さな姿が気に入ってるんだ。大きくなったらハルにくっついてられないじゃ無いか。ハルは大きな私に四六時中ひっつかれても良いと言うのかい?」


 想像して一瞬悪くないなとも思ったが四六時中だと錬成の時は困ると思い直した。

 シャンはやっぱり私達はこの形がベストなんだよとない胸を張って言った。

 そして採取に気を取られちゃんと聞いていなかったことを髪を引っ張られて怒られた。

 あまり適当に聞いていたらそのうち円形に髪をむしられそうな強さで引っ張られたので、採取は中断して聞きに集中することにした。


「まぁそれは置いておくとして、しばらくは難しいっていつかは使えるってことか?」


「えっとね、魔法の使い方って知ってる?」


「魔法陣と詠唱と魔力と精霊の力を合わせて使うんだよな?」


「大まかにはね。でも厳密にはちょっと違う」


 シャンが説明した魔法の仕組みとはこうだ。魔法は精霊の力無しでは使えない。

 魔法陣は精霊の通り道、詠唱は精霊へ語りかけお願いするための言葉、魔力は精霊が力を貸すために渡す供物、全ては精霊の力を使うために必要な物なんだそうだ。

 魔法陣が狭かったり掛けていたりすると精霊は集まらず、詠唱がいい加減だと精霊に意思が通じず、魔力が足りないと制御が出来ず、どれか一つがかけると魔法は発動しない。

 だがその説明だと誰にでも練習次第では魔法を使えそうに聞こえた。


「精霊に魔力を渡すのってどうやると思う?」


「自分の魔力を外に出すんじゃないのか?」


「それだと魔力が拡散してしまって精霊は上手く魔力を受け取れないんだ」


「じゃあどうするんだよ」


「精霊を一時的に体内に取り込むんだよ。魔法陣はそのための通り道さ。錬金術だって素材に魔力を通すのに錬成陣を介するだろ?陣ってのはどんな分野でも力の通り道なんだ」


「なるほどねぇ。取り込み過ぎて逆に乗っ取られたりしないのか?」


「魔法で力を貸す精霊に強い意思はないから乗っ取られたりはないけど、やっぱり身体にとって異物を取り込むわけだから負担が大きくて使いすぎると精神を壊しちゃう人も中には居るみたいだね。休み休み使えば問題ないよ」


 魔法を使い慣れない人が無理して使ったり、使い慣れた人でも休まず魔法を行使し続けると危険という事だ。

 魔力以上に精神力が削られる術のようだ。


「魔法って精霊との相性に左右されるから、魔法を使えない人は精霊と上手く仲良く出来ない人が多いんだよ。ハルが、とういうか私もなんだけど、魔法をまだ使えないのは精霊達が上手くホムンクルスの身体に入れないからみたいなんだよね」


 シャンは腕を組み首を傾けて不思議だねと言った。

 ホムンクルスの身体に精霊が入れないのだとしたら、シャンはなぜ入れているのだろうか。あの時普通に入って行ったよな。


「そりゃあ私は山の守護精霊だもの。そこらにいる精霊とは格が違うのさ」


 どうやら精霊の中にも階級のようなものが存在するようだ。

 普段人間が魔法を使う時に触れあう精霊は下級の精霊で固有の役割は無く、シャンのような中級以上の精霊になると役割を持つようになるらしい。

 シャンなら山の守護のように。…シャンって結構すごい精霊だったんだな。


「ホムンクルスって作られた命だから、まだ世界に馴染み切ってないらしいんだ。だから力が弱い精霊だと入れなくて、魔法も使えない。世界に身体が馴染めば使えるようになると思うけどね。私の身体は私が直接入ってるから後もう少しで使えるようになるはず。そしたら私がハルを守ってあげるからね、安心してて」


「気持ちはありがたく受け取っておくよ。ま、俺も強くなるけどな。そしたら俺がシャンを守る」


「ふふっ楽しみにしておくね」


「俺が魔法を使える日は遠そうだなぁ…」


 俺はしばらくは錬金術の腕を上げることに専念しよう。

 ああっとあっちの木陰にバニッシュマッシュルームが見えた気がする!

 すぐに素材探しに夢中になった俺に、シャンが頭上で溜息をついた。


―――――


 両手いっぱいに集めた素材を持ってほくほく顔で家に戻ると、なんだか優しい香りがした。

 台所に行くとエイマーが大きな身体を丸めながら料理を作っていた。

 見た目からは想像がつかない丁寧な手つきで野菜を刻んで鍋(この場合は料理用の鍋)に入れて料理を作っている。

 どうやら野菜スープのようで、ユディさんの為の消化の良い昼食を作っていたのだろう。


「料理上手だな。いつも作っているのか?」


「冒険者をやっていたら野営で作るからな。種類は作れないが、味は保証するぜ。ハルユキの分もあるからな」


 ちゃんと全員分を作ってくれたようだが、そこにシャンはカウントされていない。

 エイマー達には人形と認識されているのだから当然だ。

 頭上で悔しげに髪を握りしめているのが分かった。話しておけば良かったのにな。


「できた、ユディの所で食べるから、皿を用意して持って来てくれないか?」


「わかった」


 俺は戸棚から人数分(一応シャンの分も)の皿とスプーンを持ってユディさんの部屋へ向かった。

 部屋の中では机替わりの木箱の上に鍋が置かれ、朝には無かった椅子が二つ用意されていた。

 ユディさんはベッドの上で上半身を起こして、笑って出迎えてくて、体調は順調に回復しているようだった。

 それぞれの皿にスープを入れ、軽い昼食を食べ始めた。

 一口飲んでその美味しさに感動した。これをエイマーが作ったという事にさらに感動だ。

 人は見た目じゃないんだな。ほんとうに。


「エイマー美味いよこれ。すごいな」


「そう褒められると照れるな。だが喜んでもらえたようで嬉しい」


「うふふ、エイマーは褒められるのに弱いのよねぇ。野菜の柔らかくて優しい味がとても美味しいわよ。ありがとうね」


「おう…」


 ユディさんに褒められてエイマーは照れてそっぽを向いた。

 褒められるのに弱いというより、ユディさんに弱いんだろうな。

 しばらく美味い美味いと食事を楽しんでいたら、我慢できなくなったのかシャンが呻き声を上げはじめた。

 心なしか髪を引っ張る力が強くなっている気がするし、今ぷちって一か二本抜けた気がするんだがやめてくれ。


「シャン…」


「もーーーー!!ハルばぁっかりずるい!私も食べたい!美味しい物食べたい!!」


「はいはい、分かったから髪を引っ張るなよ」


 俺が残っていた皿にスープを注いでやるとシャンは飛びついて食べ始めた。

 シャンは食い気がすごいんだよなぁ。

 俺はいつもの事とのんびりシャンを眺めていたが、二人は人形だと思っていた物が急に叫んで動きだし、さらには食事まで始めたのだから、目を点にして驚いていた。

 エイマーは視線で俺に説明を求め、ユディさんは食べるシャンを興味深げに眺めていた。


「えぇっと、説明が難しんだが錬金術で作られた小人と思ってくれ。大きさ以外は人と変わらないから、動くし喋るし考えるし食う。もちろん害なんて無い。名前はシャンだ。知ったら驚くと思ったから黙ってた。騒がれると困るんでこの事はあまり他で喋らないで欲しい。俺の大切な相棒なんだよ」


「あ、あぁ…わかった。安心しろ、俺は冒険者だ、約束は守る」


「そうね、人には秘密にしておきたいことの一つや二つあるわ。私も誰にも言わない」


「ありがとう、ほらシャンも」


「ありがとうね!あとこれ美味しいよ!」


 頬をリスのように膨らませて料理をほおばる姿は微笑ましいものだった。

 ユディさんはゆっくり一噛み一噛み身体を労わるように食べ、エイマーは一気に食べて一足先に食事を終え、俺はこの野菜スープのつくり方を考えながら食べた。

 穏やかな空気のまま昼食は終わり、一息ついてから話を切りだした。


「さて、俺達の秘密は期せずしてばれちゃったわけだが、お二人の事は聞いてもいいのかな?」


「面白い話ではないぞ?」


「ここまで関わっちゃったら気になる。それにこの後エイマーには約束の報酬で暫くは一緒に行動してもらう事になるし、そうなるとユディさんも一緒でしょ?知って良いなら知ってた方が行動しやすいかなって思うんだけど」


「まぁユディが話して良いと思うなら俺がどうこう言う内容ではないからな。ではどこから話そうか…」


そして二人のここに至るまでの過去の話が語り始めた。


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