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優男  作者: 今西 克己
8/9

2000年奴隷

「マスター水。早くね」

 鬼木は不機嫌に奥の部屋へと進む。

「大将? どういうこと」

 やはり不機嫌である。

「あいつが動いたのじゃよ」

「知っているなら……」

「知らなんだ」

「たかが議員一人でしょう。それくらいしっかりリサーチしてください」

「うむ……」

 大将は渋い顔でワインを口に含む。

「美味しいですか。そんなもの」

「おいしいね。少し気が立ちすぎてはいないかね」

「いけませんか」

「いいや。ただ、お前らしくはない」

「ん……」

 鬼木は運ばれてきた水はグビグビと飲み干す。

少し機嫌が良くなった。水が彼にとっては一番の精神安定剤だ。

「また北御木様に遅れを取ったのですね」

「ああ」

「彼は誰まで救うのか基準がわかりません。政治家ならいままで消したことはあります」

「気に入ったのじゃろう」

「理由は」

「今は、まだ分からん」

「そのうち分かるのですか」

「それもわからない」

 大将は葉巻をくわえいつものように煙を蒸す。

「それで会合はどうだったかね」

「会合? 何ですか」

「わしにいつまでも隠し通せると思うのかね」

「いいえ、隠し通すつもりは最初からありません。しかし、戦力が整わずに言うのはただの愚か者です」

「お前らしいね」

「私にとって最後の仕事になるのかもしれないですからね」

「うむ……」

 それはいってくれるなという表情をする。

「すみません。つい熱くなっていまして……」

「いつもの冷静なお前をどこへ行ってしまったのかね」

「最近薄いんです。私の血」

「また発作を出したのか。見せ給え」

鬼木は言われたとおり自傷した傷跡を見せる。

大将は悟った。

「もうここまで来たのか」

「ええ、予定より早いです。それと息が整うまでに十分かかる様になりました」

「少し、ながいね」

「はい。私の父がなくなってちょうど20年……私の祖父がなくなったのは」

「その21年前」

「覚えてくださっているのですね」

「当然じゃ。不思議なめぐり合わせじゃのう」

「そうでしょうか。私は運命だと思っています」

「不吉な事を言うでない」

「私がなくなることは大将の頭のなかでは不幸なのですか」

「もちろん」

「良かったです」

「ほんとか?」

「こんなこと嘘をついて何が得があるのです。しかし時は流れ私は運命に準じないといけない」

「つらいなあ。わかっているからこそ余計辛い」

「所詮私は堅気になれません。むしろ今の生活がベストだと思っています」

「わしはお前に指示することしか今までできなかった。お前が組織を作る動きを知った時、何か重石がとれたようじゃった」

「正直に言うんですね。それは私の行動を支持するということですね」

「同じ(しじ)でも意味が変わるのう」

「あはは……少し面白いです」

「賛成する」

「それなら私はアルカリ性」

「紫陽花ではないのだから。どれくらいの予定なのかね」

「とりあえず5人」

「少なくないのかね」

「それはどうでしょう。私は多いくらいだと思っています。志を共にする人間は少ないほど作戦も成功する」

「わしへの不満が発端かね」

「いえ、違います。夢で見たのですね。私が革命に参加するという。その夢は一晩で1つの小説が書けるくらい内容が濃い夢です」

「お前がわしに気を使うとは意外じゃな」

「そうですか。私はいつも気を使っています。大将が気づいてくれないだけです。いつもマンションへ帰ったあとに泣いています」

「それは嘘」

「はい。うそです。しかしバレてもいい嘘です。人を傷つけない嘘はついてもいいと考えます」

「それは同感。わしに隠すことは土台無理じゃよ」

「それはわかっての行動です。だからこそ大将の負担も少なくなる」

「すまんのう。わしが頼りないばかりに」

「百代2000年……よく出来た仕組みです」

「ばあさんから聞いたのか」

「はい」

「わしの手間が1つ省けたかの。ばあさんにはお礼を言っておく」

「小さな頃は良かったです。最近、昔のことをよく思い出すのです。今思えば私は無邪気に遊んだ記憶はありません。いつも打算的に生きてきた。しかしそれは後悔することではありません。むしろ運命がそうだったのでしょう」

「今日のお前は感傷的じゃな。もしかして好きな女でもできたか。死が怖くなってきたのか」

「好きな人は前から変わっていません」

「皐月じゃな」

「はい。しかし大将は皐月ちゃんについて2つ私に隠していました」

「何のことかね」

「彼女は処女でしょう」

「…………」

「答えたのと同じです。彼女の血筋は何ですか。私はあらゆる方法で探ってみたがわからない」

「それは答えが出ているのと同じではないのかね」

「そうですが大将の口から聞きたい」

「娘じゃよ。お前の想像通り」

「やはりそうですか。しかし、どうして処女であることを隠していたのですか」

「それは、ばあさんから聞いていないのかね」

「教えてくれません」

「処女だと教えたらどうするつもりだ」

「もちろん全力で自分のものにします。大将には涙を流させる結果になるでしょうけどね」

「ばあさんは本当に言わなかったのかね」

「だから何だというのです。私と皐月ちゃんが結ばれてはいけないのですか」

「鬼木くん!!」

 思わぬ声に耳を疑った。皐月がすぐ後ろにいた。

「鬼木くん」

「何ですか」

「私の事好きなの?」

「好きだよ」

少しおどけていつもの様に言う。

「まじめに言って」

「それはできない」

 表情を引き締める。

「お父さん、ばらしちゃダメだって自分で言ったじゃない」

「遅かれ早かれ鬼木は気づいていたよ」

「私の気持ちも知っているでしょう」

「ダメだ」

「どうして」

「お前たちは結ばれてはいけないのだよ」

「何なのよ。私には恋多き女のフリさせて。多くのつまらない男たちとデートをさせて……私も鬼木くんが好きなのよ」

「…………」

「…………」

「…………」

 三者ともしばらく沈黙した。


「お前にはどんなわがままも聞いてきた。だが、鬼木と結ばれることだけは許されない。しかし、ばあさんは百代2000年の話をしてこれは言わなかったのかね」

 大将は焦れたようにまた、観念したように話し始めた。

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