屋敷にて会話
京都の山奥にはカーナビには掲載されてない、正確に言えば乗せると会社自体が消される豪邸がある。
「南御木もまだまだ子供じゃ」
上機嫌に老人が笑っている。
「私へのお褒めの言葉はないのですか」
「うむ、よくやったぞな」
「ありがたきお言葉」
太地にあった優男が片膝を着いて老人にかしこまっている。
「いよいよ動き出したのか」
「北御木様にしては遅い対応と思っておりました」
「なあに、これは余裕というものじゃ」
「さすがでございます」
「しかし佐志まで来るとわしも動かねばなるまいて」
「そのとおりでございます」
「しかしお主の推薦した太地という男も調べてみると面白い経歴じゃのう。そこまでして政治家になりたいのか」
「夢は人それぞれではございませんか」
「それはお主が言われたことではないか」
「そうですが心に響きました」
「人間は心なくして人間でなし、ということじゃな」
「いかにも」
「そんなに政治家が良いかの」
「誰しも一度は夢見る職業ではございませんか」
「所詮、顔なんじゃがな。人の思惑に動かされるロボットとおんなじじゃ」
「……」
「不満かの?」
「いいえ、北御木様の仰る通りです」
「誰しも子供の頃は無邪気じゃの」
「ええ」
「そして世間を知って夢から醒める」
「醒めない夢ならいいですね」
「所詮夢は夢にすぎない現実の打ちのめされる」
「私は夢の中に居る気分です」
「そうか……」
「闇貴族というのは面白い」
「わしがもし普通の家庭に生まれたらどうなっていたのかのう」
「北御木様がそんなことを言うのは珍しいです」
「運命とは不思議なものじゃ」
北御木は虚空を見つめた。
「それで次はどうされるつもりですか」
「相手の出方次第じゃ」
「私は先手を打つべきと思います」
「ほう、好戦的じゃな」
「今頃お気づきですか」
「知っていた」
「やはり」
「鬼木は厄介じゃの。あの能力は対処ができない」
「しかし欠点があります」
「寿命の問題じゃろうが、あの男が生に執着しているとは思えない」
「だからこそ怖いのです。最近あの能力を頻繁に使っている」
北御木はウィスキーを口に運ぶ。
「お主も飲むか」
「はい」
男はウィスキーを飲む。
「熱いですね」
「この感触がいいのじゃよ」
「御意」
「鬼木は水しか飲まない。奴がこれを飲んだらどうなるだろう」
「私が知っている限りは暴走するということです」
「それは知っておる。その暴走がどこへ向かうのかということじゃ」
「ああ、それは秩序の破壊でしょう。もしかすれば神となるかもしれない」
「それならどうして鬼木は南御木に付いているのかの。わしのところへ来ればいいのじゃて」
「スリルでしょう。自分が不利な方が好きなのでしょう」
「理解できんね」
「私はわかります。駆け引きは金には変えられない」
ウィスキーの氷が溶けてしまった。
「時間ですねそれでは私はこれで失礼させていただきます」
「会合かね」
「はい」
男は屋敷を後にした




