早く帰りたい・・・
――― 校門にて ―――
ここは日本でも有数のエリート校「益野葉中学校」全国で選び抜かれたエリートのみが入学を許される超エリート校だ
無駄なデザインのないただ胸に学校の紋章だけが縫い付けられている青をベースにした制服を着た生徒たちがきびきびと校門を通過して行っている中、髪の毛が天然パーマでぼさぼさになっており、だるそうに今さっき起きて来ましたとでも言いたそうなそんな青年が校門を通過した。
彼の横を通りすがる者たちはこそこそと軽蔑の目を向け通りすがっていく。それもそうであろう、こんなエリート校にこんなダメ男が登校していたらそういう風にみるであろう、俺なら見ると思う
「おはよう枯海、いつも通りだね」
「お、なんだ沖衣か、あれ?成井とは一緒じゃないのか」
ダメ男の名を枯海と呼んだ青少年、「瀬迦 沖衣」はダメ男の幼馴染でダメ男と対照的に綺麗な青色の髪に笑った顔がダメ男には眩しすぎた。
「うぐぅ・・・どこかでダメ男と連発された気が・・・」
校門に手をつき前のめりになる。
「え?そんな事無いんじゃないか?だってみんなニコニコしてるし」
そう言い、視線を向けた先には目をハートマークにさせて胸の前に手をかざしている女子が棒立ちになっていた。
「あれはニコニコって言わないんだがな・・・」
沖衣が気付かないような小さい声で俺はそうぼやいた。
ダメ男がそろそろかわいそうに思えてきたのでダメ男の紹介をしよう。
ダメ男こと「幡多 枯海」は親に無理やり姉と同じ学校にぶち込まれた、というわけだ。俺はそろそろ引っ込むとしよう。
枯海は胸をさすって首を傾げた。
「・・・なんかいきなり胸の奥がすっきりしたんだが・・・」
「枯海、体の調子が悪いんじゃないのか?っというかそんなに『ここ』に入るのが嫌だったのか?」
実際枯海は先ほどまでの胸のもやもやの倍くらいここに入るのが嫌なのだが・・・
深いため息を漏らし、彼らは再び足を進める。
「お~い!!枯海!沖衣!待ってくれ!」
同じ色の制服を着た赤髪の男が後ろから全力疾走で走ってくる。
キキィィィィィ!!と勢い良く止まった。
「おはようさん成井、朝からおつかれさん、ってか時速40キロで道路を走ってくるってどうなんだよ」
「交通ルールは守ってるぜ?」
「まず人が道路を走っている時点で交通ルールとか言うな」
まぁ、気にすんな!と元気よく俺の背中をたたいた。痛いんだからな、普通の人だったら血吐いてもいいくらいの強さなんだからな?
いまさら怒る気にもならず、何より怒るのがめんどくさいだけなのだが、コイツ「隼阿賀 成井」はいつもこんな感じだ。というかもう慣れた
幼馴染3人そろった所でさっさと教室へと向かった。
――― 14HRにて ―――
教室の中は案外すっきりしており、まだ登校してきていない生徒がほとんどだ。
入学して、2、3か月立つが早く教室に入る者、遅刻ギリギリの時間に登校してくる者がいる。
俺らはその中で早く教室に入る者に属する。この2,3か月である女子生徒から「私生活がだらけてるんなら学校にくらい早く来なさい!!」と怒られたため来ないわけにはいかなくなった。
そしてその女子生徒は必ず枯海より早く教室の自分の席に座り、読書をしている。
その女子生徒に声をかけてから席に着くのが日課になっている。初めの頃、来たは良いが声をかけずに沖衣達としゃべっていたら、耳を真っ赤にして怒鳴りかけてきた。
「おはよう、志賀さん」
おれが話しかけた事にきずき、本を閉じ、頭の後ろに結んだ少し茶色い髪の毛をふわっと揺らし振り向いた。
「おはよう、枯海君、今日もいつもどおりね」
にこやかに沖衣と同じ事を言い放った。
彼女、「志賀 清香」は、このクラスの学級委員長である。
最近じゃ、沖衣や成井とつるんでいる時間より、コイツとしゃべっている時間の方が長いかもしれない。
「大体、何でいつもいつも学校に来るたびに挨拶しなければならないんだ?」
「それはその・・・説教とかしか、あんたと話す機会がないし話題もないし・・・」
後半はぼそぼそとつぶやいただけなので、全然枯海には聞こえなかったのだが、いきなり顔を真っ赤にして何いわせてるのよ!と言っていきなり持っていた本でおもいっきり頭をひっぱたかれた。
俺がなにしたよ・・・
そんな感じで枯海の朝は過ぎて行った。
――― 購買部にて ―――
この学校では、暴力を許される場所、時間がある。
それはこのエリート校ならではの発想で、いじめはいけないもの、という発想はここでは効かない。
いじめられるような力の無い者がこの学校にいる事がおかしい、という扱いを受けてしまうのだ。
そして、この購買部は昼休みの昼食を売り出す時間だけ「バトル」が許される。
枯海もその昼食目当てに購買部に来ているのだが
「昼飯のためにめんどくさい事をするつもりはない」
そう言って、先輩方や同じ1年が、バトルをしているところを安全区域で眺め、収まるのを待っていた。
時々、「焼きそばパンの生け贄になれ!!」や「コロッケパンのために死ね!!」など挙句の果てには「燃え尽きたぜ・・・」などと言って勝手に真っ白になっている者までいる。
楽しそうにやってるね~と、あくまでも第3者目線でバトルが収まるのを待った。
――― 14HRにて ―――
教室の隅に机を寄せて持参してきた弁当や、登校中にコンビニで買ったパンなどを並べて昼食をとっているグループが居た。
「にしても、お前も好きだよな~コッペパン」
「うるせぇ、でもな、今日はカレーパンがあったぞ」
「凄いじゃん枯海、あの伝説の購買部からカレーパンを持ってくるなんて」
そい喋っているのは、発言順に成井、枯海、沖衣が机を囲んで座っていた。
そしていつも通りならこのタイミングで
「私たちも一緒に良いかしら?枯海君」
「やっぱり・・・」
「何か言った?枯海君」
「イイエ、ナニモ」
そう、最近ではこの3人に追加で清香、と清香の親友の・・・
「こんにちは弥生さん」
にこやかに沖衣がそう話しかけた女性こそ、今、枯海が思いだそうとしていた「春野 弥生」清香の親友であり、付け加えるのなら、沖衣の彼女である。
「あ、は、はい!こんにちは、沖衣君」
目のやり場に困りきょろきょろと恥ずかしそうに清香の後ろに隠れた。
清香もこの位可愛げがあればいいのに・・・
「枯海君、何か失礼なこと考えてたでしょ」
「考えてません、少しも考えておりません、そんな事より、そこの席借りて座れば」
そうして、前方の2つの机を3人で作っていた輪の中に入れて、再び昼食を取り始めた。
「ん?どうしたんだ?成井お前の箸のスピードが落ちるなんて」
成井はいつもなら、目に見えぬ速さで箸を使って食べ物を口に運び高速で弁当を平らげる、(最高タイム5秒)
「いやさ、お前ら付き合ってるのにさ俺だけ仲間外れだな~と思ってさ」
「付き合ってねぇ(ないわよ)!!」
「息ぴったり、説得力無ぇ~ってか枯海がマジになったぞ!!珍しい物を見させてもらいました」
合掌して頭を下げ、肩をピクピクさせながら笑っていた。
その後もそんな感じで、だらだらと昼休みを過ごしていた。