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家へ

 どこか、騒がしくない所。

 それは紀伊の家だったりする。

 見て欲しいモノがあると言われ、ついてきたのだが五分で目的の場所に着いた。

 高級住宅マンションの最上階が彼女の家らしい。

 指揮はなぜこういう状況に陥ったのか、とか。

 金持ちなんだな、とか。

 そして二ヶ月ほど前のことで医者が骨折したところを指揮が助けて感謝された思い出が甦る。

 そういう感情が絡まり合い、そしてエレベーターに居る時間の長さに感心する。

 エレベーターに乗ること一〇秒。

 ようやく指揮は感心を口にした。

「高いんだな」

「高度五十メートルはあるっていうから」

 そして、紀伊は気恥ずかしげに笑う。

「走れば八秒か……」

 意識せぬままに指揮は呟き、マンションを駆け上がる自分を想像する。

「……指揮って変な所あるよね?」

「……へ? 変か? 俺?」

「うん。何か変」

 くすっと笑いながら紀伊は肯定する。

(変、なのか? 俺……)

 周りが変な奴らばっかりなので少し自分の性格を美化していたのかもしれない。

 チーン、という安っぽい音を聞いて、

「あ、ここも同じ音なんだな」

 と、変な所で感心する。

 エレベーターの音には何か決まりでもあるのだろうか。

 エレベーターを降り、レッドカーペットの上を歩く。掃除が大変そうだ。

「着いたよ」

 そう言って薄い小さな板を取り出して、鍵穴の上に存在しているボタンにそれをかざす。

 ピッという歯切れのいい音と共に扉が開かれる。

 指揮と紀伊は中へ入ると、ドアが自動的に閉められた。

「お邪魔しまーす」

「お邪魔するなら帰って下さーい」

 散々使い古された冗談を笑いながら言う。

「私の部屋に来て」

 紀伊は一般のマンションよりは長い廊下を歩いていき、ドアを開ける。

 入り口から見て二つ目のドアだ。

「このドアは?」

 一つ目のドアを指し示す。

「……お父さんの部屋」

「家族で住んでんの?」

「そっちは独り暮らし?」

「まあ……」

 言った瞬間。

「凄い!」

 紀伊がキラキラ瞳を輝かせて反応する。

「何で独り暮らしなんか?」

「将来の為だってよ」

 指揮の家族――お父さんの家族は男子が生まれると高校生には独り暮らしを経験させて社会に出る為の経験値を積むらしい。

 慣習、というヤツだ。

「へー。凄いね。女の子を家に上げ放題じゃん」

「上げる女子が居ないし、上げねーからな」

「……けち」

 ま、あがってよ、と紀伊はドアの中へと吸い込まれるように入っていく。

 続いて指揮も部屋へ入る。

「……」

 まず初めに感じたのが女の子の甘い匂い。

 そして広さ。

 八畳は下らない部屋に緑の絨毯が敷かれ、勉強机が一緒になっているベッドが端に寄せてある。机にはウサギだか、豚だかわからない生物を象ったぬいぐるみが置いてあった。

 真ん中にある小さな卓袱台には黄色のパソコンがちょこんと載っている。

 女の子の部屋。

「そういや、初めて来たや……」

「?」

「女子の部屋」

「あ、そうなんだ」

 何が楽しいのか、ふふっと笑みを浮かべて、卓袱台に座る。

「で? 見て欲しいモノって?」

「ちょっと待って。今開いてるから」

 カチカチ、という音が何秒かこの部屋を支配する。

「はい。これ見て」

 ん? と指揮はパソコンの画面を覗く。

 目が悪いことが災いして、紀伊のすぐ隣に顔を持っていく。

 紀伊が慌てたように顔を遠ざけ、

「目、悪いの?」

「ああ悪いな」

「いや別に悪くないよ。何たって、私達……恋び……」

 冗談を口にしかけた瞬間、紀伊は急に気恥ずかしくなって語尾を濁した。

 恋人なんて、部屋で二人っきりの男女の間で使っていい言葉じゃないような気がしたのだ。

 それにクラスの勘違いだし。

「そういえば、休み明けもああなのかなあ……」

「何だこりゃ?」

 指揮は画面を何秒か観察した後、そう呟いた。

 動画投稿サイトの、動画だ。

 人影らしきものが、ビルからビルへと飛んでいた。

「コレはね。この姿町に超能力者が居る証だよ」

「超能力者? 俺達みたいな?」

「ホラ。このビルからビルに飛んでる」

 確かにそれはビルからビルへ飛んでいるように見えた。

 指揮はごくりとおかしな緊張感で胃酸が口元まで競りあがってくる。

 少なくともコイツは五メートル以上ジャンプしている。

 こんな人間は世界に存在していない。

「これはマジなのか?」

「うんマジ。もうこの情報は一部のネットでは大騒ぎになってる」

「やばいんじゃないか? ネットで大騒ぎってことはこのビルに人がすげえ集まるんじゃ?」

「私もこのビルに行ったんだけど……その人は居なくて」

「へー。お前も野次馬化しに行ったのか」

「違う。私はその人と友達になりたいの。同じ能力者だから……」

 一瞬だけ紀伊の表情が陰った気がした。

 指揮にはその『陰り』の意味を少しだが汲み取れる。

 自分の能力を認められず――認められても、気味悪がられるか、マスコミに垂れ流される事実。

 しかし、指揮は認めていようがいまいが、「凄いな」と褒めてくれる人が確かに居た。

 この少女はどうなのだろうか?

『精神を操る能力』――それの風当たりは間違いなく指揮の非ではない。

 認めた瞬間に、まずは恐怖が支配するような超能力。

 同じ能力者なら分かり合えると思ったのだろうか?

 指揮と紀伊の能力では天と地の差がある。

 重みも何もかも違う筈だ。

 分かり合うことなんて不可能だ。

 例えば、男は男同士でしかわかりあえないことも存在するが、個人によってその性格は違う。

 超能力者だって同じ事が言える筈だ。

 超能力者同士が分かり合う事実も勿論あるだろうが、種類が違うならその重みも違う。

「……」

 指揮は紀伊に何も言えずに歯噛みした。

 そんな指揮の雰囲気を感じ取った訳ではなさそうな嬉しそうな声で指揮に言う。

「あと。最近幽霊も出るらしいよ~」

 ヒュードロドロドロ、と大して怖がらさせる気もなさそうな感じで手を顔の前でだらけさせる。

「幽霊、ねえ……」

「そう。ホラ。最近は爆弾魔も居るでしょ? それに合わせたんじゃないかな」

「ああ……爆弾で無差別に人を殺すんだっけ?」

 指揮は一昨日見た事件を思い出しながら言う。

 通り魔の爆弾バージョンで、所謂愉快犯というヤツだ。

 しかし、爆発物の痕跡などは一切なくそれがまた世間を騒がせている。

 指揮はソイツに殺される可能性だってあるんだよな、と思い、溜息を吐いた。

 世の中に真の安全はないのだろう。

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