帰還
「どけえええええええええええッ!!!」
指揮は叫び、ひた走る。
神村の横にあるモノが恐らく『作っていた』兵器だ。
恐らく最も効果的な時に発動するつもりなのだろう。
姫は十字士たちを殴っていき、紀伊は人を操り隣の人間を殴ったり、真後ろのジャンプさせ将棋倒しにさせたりしている。
それでも一向に減る気配がない。
姫の頬から赤い血が垂れ流れた。
銃だ、と指揮は血の気が引いた。
「ソイツに道を開けろ!!」
神村の声が強く響く。
十字士たちの波を割った。
その間から倉品宗次がやってくる。
瞳には好戦的な色が浮かんでいた。
姫、鈴野、指揮は身体が一瞬萎縮する。
「く……ッ!!」
姫が重力を操り飛ぶ前に眼前に人が現れた。
それは、美しい幽霊のように。
「幽霊か……ッ!!?」
倉品は叫ぶ。
空錆だ。
「空さん!!?」
紀伊が驚いたように叫んだ。
「幽霊じゃない。しがないただの探偵だ」
倉品が振り上げる右腕を右腕で巻いて、いなし脚を上手く使い倉品の後ろを取った。
流れるような動き。
頭を殴ったのだろう鈍い音が響き、倉品は白目を剥いて倒れた。
指揮はそれらを気にせずに突き進む。
だって。何故なら。
「科!!!」
◆◆◆◆◆◆◆
ホールの上の階に姫の両親は居た。
パソコンで何やら打ち出すと、プロジェクターから光が放たれる。
それは昨日三谷の母親から貰ったSDカードの動画。
科はホールへと身を投げる。
指揮の心底嬉しそうな、純粋な歓喜の声が聞こえた。
木刀を握り、壇上の降り立つ瞬間。
村井に向かって一閃した。
「ごめん貴一さん」
肩を叩かれ、死んだように気絶した村井はゆっくりと崩れ落ちた。
「おいテメエら。何でソイツ苛めてんだよ」
指揮の決意の声が聞こえる。
天井に映された指揮の後ろ姿が見えた。
三谷の映像。
その姿に三谷は何を見たのだろうか。
SDカードに入っている映像は友だちとや両親と、そして十字団のメンバーとだった。
映像には科も入っている。
その後半部分に指揮と不良の対決は映っていた。
爆弾魔の部分は二枚目のSDカードに記録されていたのだ。
一体何人の人間がコレを見て正気を取り戻してくれるだろうか。
聖騎士が壇上へと飛び乗り、ナイフを振るった。
ホスト崩れの男だ。
「テメエ!! この裏切り者があああああ!!!」
木刀で軽く受け止め、いなしながら科は思う。
まだ、心の奥底では指揮を信じきれていない。
裏切るのではないか。科のことを友だちと殺すべき標的として見ているのではないか。
そして、汚い存在なのではないかという意味の分からない――言葉に出来ない負の感情もある。
だけど。
それでも、と。
科は大声で伝える。
「指揮!!! 俺、お前の友だちをもう一度やってもいいか!!? まだ指揮の事を心の底から好きになる事は出来ないけど!」
「何が友だちだクソが!!!」
前の方で成り行きを見守っていた聖騎士の少年――河野が銃口を向けてきた。
科は軽く首を振って避ける。
河野は銃口を向けた瞬間撃つ悪癖があった。
癖さえ見抜けば、避けるのは容易い。
科は一瞬で河野と距離を縮め、木刀を顎に振るった。
顎が砕けた衝撃が科の手に伝わる。白目を剥き、気絶した。
「でも!!」
ついでに脚を軸に一回転し、木刀を真後ろに振るう。
ホスト崩れの腰に木刀が当たった。
呻き、崩れる。
「一緒に居ていいか!!?」
木刀をコンパクトに振るい、壇上の前に居た聖騎士の三人を一気に撃破する。
「助けてもいいか!!?」
指揮の姿は十字士の波で見えない。
指揮の声は聞こえない。
戦闘の音で聞こえなかったのか、それとも科を見限ったのか。
一瞬考えるだけで、胸が張り裂けそうになる程辛い。
コレほどまでのことを自分はしたのか、と涙が出そうになる。
それでも涙は見せない。
指揮に対して、甘えをこれ以上見せられない。
そこで、岩盤に打ち上げられた波のように十字士が飛んだ。
その波を潜り抜けるように指揮が現れた。
「当ったり前だろうが馬鹿野朗!!」