須藤姫
水攻め、吊るし上げ、重量加速(テーブルを重くしていく)攻め……etc。
指揮はそれら何とか耐え切り、半分死にながら眠り込んでいた。
「う……」
やがて胸の痛みと、小さな、しかし指揮に届くような声で起きた。
まだ、テーブルの脚の痛みが腹部に残っている。
窓の外の暗さとは対照的に部屋は明るかった。
壁掛け時計を見ると十一時を指している。
目元を拭い、数回瞬きする。
「指揮……」
姫の声にびくう! と指揮の身体が跳ねた。
右隣に姫が転がっている。
寝言だったらしい。
黒い髪から薄い白い紙が飛び出しており、それを引き抜く。
見ればそれは『指揮の拷問方法』だった。
ぞっとしながら読み進めていくと、指揮のやられた水攻め、吊るし上げ、重力加速しか考えていなかったらしい。
いや、他にも書いてあるのは書いてあるのだが、黒く塗り潰されていた。
光に透かし、読む。
恥ずかし過ぎるものが数個と本気で死んじゃうものが数個存在していた。
「……一応の良識はあったんだな」
ほっと指揮は安堵の吐息をつく。
姫はごろん、と寝返りを打ち、指揮のジャンパーの裾を握った。
見れば姫の瞳からは涙が流れている。
指揮は息を呑み、心の底から悪い事をしたと反省した。
一緒に住んでいるのに。
あれだけ心配されたのに。
「でも……」
『教えない』その意思は揺らぐが、決定的な一打とはなり得ない。
その時。
姫の唇が彼女の意思を確かに受け止めて、音として吐き出した。
「死なないで……」
聖職者が祈るような、純粋な願いとして発せられたそのセリフは指揮の心を抉り取った。
「反則だろ……そんなの」
指揮は考える。
例えば、鈴野や姫が指揮に何も教えずに死地に向かうとすれば。
指揮を巻き込まないと考えて無理をしていたなら。
指揮はどういう行動を取るのだろうか?
「俺は、どうりゃいいんだ?」
「話せばいいじゃない」
ハッキリとした声が真下から聞こえて指揮は驚く。
「指揮が何で私に話さないかもわかってる」
「……」
指揮は押し黙る。
自分の為に死なせたくない。
生きていて欲しい。
指揮が話さない理由なんてこの二つだけだ。
姫は指揮に向けて言う。
「私は両親と決着をつけたい。指揮の為じゃない」
指揮を慮ったそのセリフに柔らかく頬を緩めた。
「でも。命を賭けるのは指揮の為よ」
「は?」
そのセリフに指揮は呆然として姫を見る。
「指揮を死なせたくないから。だから助ける」
姫は頬の傷を慈しむように柔らかく撫でた。
「もう、私の目の外で傷つけさせない為に。命のやり取りなんてさせない」
寝惚けたような掴み所のない声だったが、芯があった。
錆の言う『信念』や『考え』という物が。
「姫……」
姫の手を握り締める。
指揮は決意した。
「ありがとう」