拷問
「うん。明日までには考えて」
鈴野は勢いをつけて指揮から離れると目元を手でごしごし拭う。
「でも、鈴野は知ってるんだろ? 俺が何するか」
今思い出した、という風な指揮の怪訝な表情に鈴野は苦笑いで答える。
「うん……だけど、指揮から言って欲しいし」
鈴野は笑って言う。
「ま、指揮が言わなくても行くけどね。でも、苦しみを分かち合えるような仲になりたいから」
指揮はそのセリフに対して微笑む。
「ありがとう」
◆◆◆◆◆◆◆
そーっと部屋を開けた瞬間、伸びて来た手が的確に首を掴んだ。
「ひっ!?」
小さく悲鳴を上げ、部屋へ引きずり込まれた。
姫は凄く怒った顔をしている。
まるで鬼のように目じりは吊り上り、頬が痙攣していた。
指揮は肌が粟立ち、恐怖で身体が竦む。
足を払われ、床へと叩きつけられた。
「うぐ!?」
そのまま、指揮の腰に姫は全体重+重力操作で操った重力を載せた。
「ねえ。何で私に何も言わずに出て行ったの?」
低く、震える声が指揮に降りかかる。
「あ、いや……その……行き先を訊かれるよなーと思って。あ、メモ置き忘れた?」
「置き忘れた? じゃないのよーーー!!」
拳を頭へ振り下ろし、殴った。
「いてぇ!?」
更に拳が振り下ろされた。
「アンタねえ! 私がどれだけ心配したと思ってるの!? 町中走り回って鈴野にも電話したんだから!!」
「ご、ごめ……!!」
指揮は必死で謝る。
やがて姫の拳の威力が衰え、胸を軽く叩くだけのものとなる。
「昨日あんなんだったから自殺でもしたらどうしようって……」
「する訳ねえだろ。そんなん」
ギロ、と潤んだ瞳で睨みつけてきた。
可愛い。そしてそれ以上に一種異様な迫力が指揮を圧迫する。
「今日の朝、どこに行ってたの?」
「……」
指揮は思わず黙る。
「答えない気?」
「まあ……」
「じゃあいいわ」
そう言って隣にあったテーブルを触る。
テーブルが浮き、姫の手によって指揮の腹部に導かれた。
「あ、あの……?」
「拷問するから」
姫の冷静な口調に指揮は青褪める。
「へ?」
机の脚が指揮の胸を抉るように突き刺さる。
「さて、バケツに水を汲んで来よう」
風呂場に向かおうとした姫に向かって叫ぶ。
「ちょっ、待っ……!! 死ぬ! 死んじゃいます!!」
くるりとコチラを向いた姫は笑顔で言う。
「死ねば?」
「まぜでぶねが抉られるろうにいらいいいいいいい!!?」
テーブルが秒増しに重くなってくる。
「痛い痛いぃぃぃぃぃぃ!!?」