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鈴野紀伊

 指揮はコンビニで絆創膏を買うかどうか悩む。

 頬は確かに切り傷のようで痛いが、傷薬も塗ったし……。

 と、そこで人影が見えた。

 疎らだが、人が行き交う歩道で、ソイツは指揮を待っているかのように立ち止まっている。

 その人の横にはマンションが建っていた。

 それで指揮は鈴野だと、検討をつけた。

 表情を判別できるくらいまで近づくと、無理やりな笑みを浮かべているのが見えた。

 指揮は罪悪感から目を逸らす。

「指揮!」

 唐突に駆け寄ってきた鈴野に指揮は「ああ」と呟く。

 それから二人で歩道を歩く。

「ねえ。何で私たちに何も言ってくれないの?」

「……何を?」

 自然に発そうとした声は引き攣っていた。

 指揮は失敗に表情を歪める。

 どうすればいいんだ?

 喋るのか? 死地に赴かせることになるのに?

 超能力者の皆を救う為に、科を救う為だとか、壊れ切った姫の両親を姫に突き出す為だとか。

 そんな正義を掲げて――『大義名分』を得て鈴野と姫を殺しに向かわせるつもりか?

 超能力を持っていても、人間で常人で、女の子だ。

 そんな残酷なことを出来る筈がない。

 角を曲がり、少し遠く公園が見えた。

 小さな子供や母親が数人居るだけの公園だ。

 指揮と鈴野が歩く道路には車が時々走り抜けるだけで、人通りはない。

「何でも、話してよ」

 鈴野が一度震えた。

 指揮は鈴野の顔を見る。

 泣きそうになった表情を真一文字に唇を結び、崩壊させないようにしている。

「……」

 指揮はその表情を見て、何も言えなくなってしまう。

 沈黙が降りる前に指揮は苦し紛れに言った。

「ごめん」

 鈴野の視線が指揮の背中に突き刺さる。

 そして、

「指揮は、私達の事を考えすぎて私達の事を理解してない!」

 鈴野は我慢が出来なくなったかのように叫んだ。

 指揮は本当に何も言えない。

「私は指揮の力になりたい! 姫ちゃんだってそう思ってる筈だよ!!」

 熱が籠った声音が指揮の精神を圧迫するかのように叩く。

「私は、一人で……」

 徐々に涙声になるが、鈴野は言う。

「指揮を一人で戦わせたくない!」

 柔らかい衝撃が指揮を覆った。

「え……?」

 抱きしめられた、と半瞬遅れて気づく。

 背中に顔を埋められる感覚がくすぐったい。

「私は、知ってるよ。指揮が何をしようとしてるのかも。だけど、話して」

 鈴野は懇願する。

 それは必死で、冗談なんて一つも見受けれなかった。

「私を巻き込んで。私を殺して」

 指揮の心に槍が串刺しにされるかのような衝撃を受けた。

 鈴野はもう覚悟を決めているのだ。

 指揮に巻き込まれ、場合によっては死ぬことを。

 指揮は何も考えられない。

 何が正しいのか。

 自分は何がしたいのか。

 鈴野の要望通り、話していいのか。

 思考が何重にも絡まり、重なり、どれも正解で、どれも間違いに思えていく。

「ごめん紀伊。まだ考えさせてくれ」

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