科と狂人
三叉路を右に曲がった瞬間、元那が居た。
「うわお!?」
元那は指揮の顔を見て、大げさに驚く。
「何だよ?」
「いや、頬が切れてるぞ?」
「あ……」
傷薬は塗ったが誤魔化せる傷ではない。
「あ……コレは、その……」
「猫にでも引っ掛かれたか? ココに居る野良猫はひでえからな」
元那はそう言い、掌を見せた。
掌は傷つき、血袋が出来ていた。
痛そうだな、と思いながらもラッキーと思い、話を合わせておく。
「まあそんな感じだな」
「ふーん」
疑念の目で見てくる元那に罪悪感を刺激される。
「悪い。もう行くわ俺」
じゃあ、と足早にその場を去っていく。
「……ああ、じゃあな」
元那のセリフは深い様々な感情を載せた声音だった。
◆◆◆◆◆◆◆
科は三谷の家族を訪れていた。
リビングに上げられ、ソファに座る。
対面には母親が居た。
「すみません。挨拶に行こうと思ってたんですけど……」
母親は柔らかく目元を緩める。
「いえ、いいんですよ挨拶なんて」
「いえ。俺ら十字団の為に……アイツは」
そして、母親は言う。
「聖騎士様が来てくれたと知ったら喜ぶでしょうね」
悲しげに、しかし誇らしそうにそう言う母親。
「そうですか……」
科は心中穏やかではなかった。
胸がざわざわとし、焼け付く。
「あ、そうだわ。聖騎士様に見てもらいたい物が……」
パタパタとスリッパを鳴らして棚の辺りをごそごそ探っていた母親は目当てのものが見つかったらしく戻ってきた。
「コレです。神村様にも渡したんですけど……」
母親が科にソレを手渡してきた。
「何ですかコレ?」