空錆
「はあ……見つからない、よな……?」
二人とも右手だけは動かせないようにグルグル巻きにガムテープと縄で縛り上げ、村井は書斎へ。
倉品はクローゼットの中へ閉めこんだ。
学校にあるような飲み水器から水を灰皿に入れて二人に持って行ったし、死にはしないだろう。
銃弾が掠った頬が痛い。
そんな事を思いながら屋敷をあとにする。
門から出て、屋敷を見た。
「大船」
後ろから声が聞こえた。
冷たいその声は空錆の声だ。
「久しぶりですね」
「ああ」
錆は頷き、指揮を感情の読めない瞳で見る。
「屋敷で何をしてたんだ?」
「下調べを……」
「下調べ?」
そう尋ねる錆の声には好奇心などが一切見当たらなかった。
指揮はそれが心地よかったのか、話す。
誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。
「ええ。ある組織と戦うことになって、下調べくらいしないと、と」
「十字団だな」
「ええ。集会に来てましたもんね?」
「十字士とは思わないのか?」
「殺意も殺気も見当たらないし、神村に熱意があったとも見れなかったですから」
指揮はふわりと、微笑む。
「そうか。一人で戦うのか?」
平淡な声で言う。
「ええ。そうですね。周りに迷惑はかけられないから……」
「迷惑? 一人で背負い込む方がよっぽど迷惑だと思うがな」
錆は相手を責める事も、褒めることもなくただ冷静に物事を見た、という風に言った。
「まあ、人の考えなんて人それぞれだからな。指揮は指揮の思う道を行けばいい」
フォローするように言う錆に指揮は軽く笑う。
「ありがとうございます」
まだ、道なんて決まらない。
超能力者を二人撃破した事で、戦力を大幅に削ったのは間違いないがそれでも『死』の危険は濃く付き纏う。
決起集会……神村は内容を教えてくれなかったが、『十字士がしていた募金』と関係がある筈だ。
なら、何としてでも潰さなくてはならない筈だ。
戦力だって大分落ちているし、話しても――。
空回りする思考に水を差されたかのように疑問が沸いた。
「あ、そういえば何でこんな所に?」
「仕事で用事があったんだ」
そう言う。
「へーそうなんですか」
じゃあ、俺はコレで、と立ち去ろうとしたが、思いなおし、言う。
「首相とか政治家に向いてると思いますよ」
と指揮はただ事実思ったことを言う。
「首相……?」
初めて聞いた、とでも言うかのように目を丸くした。
「それじゃあさようなら」
後ろを振り向き、三叉路を歩き出す。
「頑張れよ」
立ち去る間際にほんの少しの思いやりが入った声音が指揮の耳元に届いた。
そして、足音が聞こえる。