策VS対策
「何とかしねえと……」
息が上がり、緩やかに歩き出すと息を整える。
周りを見渡せば、いつの間にか大きな部屋に来ていた。
真上には小さなシャンデリアが飾り付けられているが、灯りを灯してはない。
古めかしい暖炉が置いてあり、やはり火は点いていない。
大きな机は大きな窓の方面に設置させており、人が一人歩ける間隔で書棚が幾つも並んでいる。
まるで図書館のようだ。
『書斎』だろうか?
ウエストポーチを見た。
思考がほとんど勝手に回転する。
「時間が必要だ」
ウエストポーチから麻の縄を取り出し、ナイフで斬った。
それからドアノブと机の側面に付いてあった鉄の引っ掛かりを結びつける。
どちらの能力も脅威だし、こんな事は意味はないが二三秒の時間稼ぎにはなる筈だ。
思考を休みなく回転させ続けながら思う。
どうすればいい?
一人で二人を倒す為には。
◆◆◆◆◆◆◆
村井は調理場、テラス、寝室と立て続けに外れを引いた。
特に落胆することもなく書斎へと向かう。
下の階から部屋を覗き続けた結果、書斎に行き着いただけで意味などない。
誰が倉品を倒した? 疑問が生まれ、大船指揮へと結びつく。
ゴロツキにでも依頼したか?
外国の殺し屋?
大船指揮と接点が合わないが、勝つ為には何をするか分からない男だ。
思考の回転の速さ。肝の据わり方が常人とは違う。
いや、本能に負けない強さ、か。
あの男は強い。
『強い』そこのみ科と同じ気持ちを抱く。
だからこそ。
科があちら側に引き込まれる可能性を常に孕んでいる。
そして、十字団が潰されるかもしれない。
コレは決して考え過ぎではないはずだ。
書斎の扉を開け、銃を二つ突きつける。
指揮は驚いた表情で村井を見た。
机に腰掛けていた。
書棚は至るところにあり、指揮を挟むように書棚がある。
「……お前に訊きたい事がある」
村井は静かに、威圧的に問う。
指揮は緊張から頬を緩めようとする努力を見せるが、引き攣った表情にしかならない。
指揮の能力――歪曲能力。
恐らくはそうだ。
そして、一つのものしか曲げれない。
歩み寄り、足に何か当たった。
縄がピンと張られてあったのだ。
縄の先を見る。
左右の書棚に縄が伸びていた。
本を重石代わりにしているのが見える。
「……コレがお前の策か?」
「転べば万々歳だったんだけどな」
油断は出来ないな、と心中で呟き指揮に向き直る。
他の策はどこにある?
眼前にウエストポーチを構え、村井を見ていた。
「お前が雇った人間が屋敷に侵入してきたぞ」
そのセリフに怪訝そうな表情を浮かべる。
「何? 誰か侵入……?」
「……知らないのか?」
「知らないな。訊きたい事はそれだけか?」
指揮は睨みながら呟く。
村井は銃口を二つ向けて、冷淡な調子で言う。
「……そうか、なら死――」
「賭けだ!!」
指揮の大声に思わず引き金を曲げる手が止まる。
策――それが指揮の武器だ。
訊くべきか、訊かざるべきか。
『賭け』……?
その言葉が引っ掛かった。
いや、その言葉の意味は既に気づいている。
「ロシアンルーレットだよ」
挑発的な表情で村井を見る。
村井は両腕を見た。
特に変わった所はない。
どちらか一方に力を込めた瞬間、折り曲げるという事だろう。
馬鹿が。
力を込めた瞬間に曲げる、という事は相手の出方を待ち、手を打つことと同義。
後の先。
故に鎌をかければ、どちらかの腕を折り曲げるしかなくなる。
余った腕で撃てば終わり。
それと同時。
真上から金属が折れる音が聞こえた。
「な……ッ!!?」
真上を見るより先に走り出そうとし、縄の存在を思い出した。
足を振り上げ、飛び越そうとするが、縄を蹴り上げてしまう結果にしかならない。
ぞくり、と指揮の策が背筋を這い回り、首筋に刃を立てるのか感じた。
(……気をつけていた筈だ……ッ!!)
思考を急激に切り替える。
照準をとにかく、指揮に合わせ撃ち出した。
指揮はウエストポーチを掲げ、顔を防御するが、狙いは心臓だ。
ジャンパーがへ込んだのを見た。皺が下腹部の辺りがに寄る。
心臓ではなかったが、当てたと村井は安堵感に包まれた。
次の瞬間。
頭部に鈍器で殴られたような痛みが走った。