銃口
指揮は屋敷のホールとでも呼ぶべき部屋に出ていた。
天井には大きなシャンデリアが三つ。
真ん前には螺旋状の大きな階段があり、登った先にあるそこから伸びる床はホールを囲んでいる。
床は柱でホールと繋がっていた。
指揮は取り合えず、シャンデリアを三つずつ折る寸前まで曲げておく。
何か、指揮を手助けする状況を作り出す。
意味があるかないかは分からない。
『種』を蒔くことに意味があるのだ。
それから階段に敷いてあるレッドカーペットに刺してある釘を一つずつ抜いていく。
何かしなければ駄目だ。
「何か、しねえと」
指揮はそれでも、暗い未来しか思い浮かばない。
ドアの開く音が聞こえた同時。
銃音が鳴った。
指揮は経験値と本能で、階段を転がる。
銃弾が階段に当たり、火花を散らした。
頬に焼けるような痛みが襲う。
「うあ……っ!!?」
ちりりと頬の痛みを感じながらも、全身のバネを使い跳ね起きた。
後ろを見て、目を見開く。
村井と倉品が居た。
村井は指揮への対策なのか、銃を二挺持っている。
指揮は走り出す。
銃音が幾度もなり、しかし距離のせいで指揮に当たることなく階段に火花を散らした。
◆◆◆◆◆◆◆
部屋へと入って行った。
ベッドや高級そうな調度品が飾られ、輝いている。
「どう、する?」
考えろ。
指揮は恐ろしいほど、冷静にこの事を受け止め考えていた。
寧ろ心の奥底ではそれを待ち望んでいた自分すら居る。
ようやく、戦力を減らせる。
それも最大戦力を――。
「科を助ける絶好のチャンスだ」
唇の端を持ち上げて、笑む。
コレで戦力を大幅にダウンさせたなら姫と鈴野に話せるかも知れない。
十字団を潰せる絶好の機会だ。
「でも、二人同時に?」
思考が空回りし、案が思い浮かばない。
その時、近くで足音が聞こえた。
肌を刺激するような緊張感と、汗が噴き出した。
(や、ば……ッ!!?)
緊張感と恐怖。
この二つを忘れ去っていた指揮は悲観的な未来を見ることを忘れていた。
部屋を突き止められたらどうする?
こんな所で見つかったら、殺される。
ウエストポーチを外して、滑った両手で持つ。
「来るなよ……」
「お前は向こうを捜しに行け! 俺はこの辺りの部屋を当たる!」
血流が逆戻りしたかのように頭が冷えた。
ドアを乱暴に開く音が聞こえる。
全部で三つのドアがあり、コレは最後のドアだ。
素早く足音を立てないように気を遣いながらドアノブに手をやる。
息を数瞬だけ整えドアから転がるように飛び出した。ウエストポーチを真後ろに掲げて走る。
「っ!!」
倉品は指揮が逃げたのを見ると、無防備に握っていた銃を左で撃った。
ウエストポーチの左端に掠り、革が焦げる。
銃弾は指揮の視界から逃げるようにどこかへ消え失せてしまった。
後ろを見るとコチラに正確に狙いを定めている倉品が映った。
三メートル先の曲がり角を全力疾走で目指す。
唐突に大声で叫ぶ。
「曲がれ!!!!!」
相手は突然の大声で驚くのか、警戒するのかは知らない。
しかし、種は蒔いておくべきなのだ。
壁に銃弾が当たり、赤い光が弾けた。
本能的に瞳を強く閉じてしまう。
銃口を背中で意識するたびに背中から汗がぬめりと出て、緊張感が背筋に静電気のようなモノが走り続ける。
「っ!!」
角を曲がり、足が千切れ飛びそうなほど回転させる。
(時間が必要だ……! 策を練る時間が!!)