二人の……
姫は指揮の様子がおかしい事に気づいていた。
何かを隠している。
だけど、何を?
「ナイフ……威嚇には、使えるかな?」
柄に刃を仕舞えるナイフを籠に入れ、そのまま工具売り場を練り歩く。
とても、『念の為』と言った風には見えない。
「ねえ。指揮は、何であんな感じなの?」
自分でも分からない感覚を伝えきれず、もどかしい表情をしている鈴野に姫は静かに同意する。
「わかんない」
鈴野はそっか、と言って指揮を小走りで追いかけた。
一体何を隠しているのか、不安が募る。
両親が十字士であったことを知らなかった時の不安感とはまた別物の不安感だったが、不快度は一緒だった。
銃で撃たれかけて、警察へと駆け込んだあの時と全く同じ。
そして、警官は両親に二、三質問してから姫の嘘だと断定した。
不安で両親の身さえ心配していた姫は絶望の淵に叩き落された気分だった。
警察は嫌い。
嘘は嫌い。
信頼が、欲しい。
信頼して欲しい。
一生、一緒に生きていく相手なら、尚更だ。
「……何を、隠してるの?」
本当に不安が爆発する時はぶん殴ってでも訊いてやろうと意気込む。
いや、指揮が殴った程度で喋るとは思えないから尋問くらいは止むを得ないだろう。
拷問にかけてやる。
姫は黒い笑みを浮かべた。
泣いて本当のことを話すまでは許さない。
「お、縄とか買おう。縛り上げれるし」
「あ、指揮! 私の分も買って!! 縛り上げたら気絶することも出来ずに苦しみ続けるような縄」
「んな危ねえ縄はねえ!」
◆◆◆◆◆◆◆
紀伊は指揮の背中を見る。
姫にすら話をしていないのだという事実に、死地に赴く覚悟でもあるのかと思う。
気迫や、時折見せる儚げな表情のあと、空元気や誤魔化すような雰囲気に変わる。
そして、一番気になるのが、味方が居ないというような切迫した雰囲気。
頼れるものなど何もないような野生の海亀のようで見ていられない。
「海亀に似てる」
「へ?」
指揮は自分を指差す。
「海亀?」
「うん。生き残る確立は数千分の一って話だよ。必死なんだよ生きるのに」
「俺と一緒で?」
「うん。皆一斉に出て行くから、護ってもらえないしね」
指揮は心苦しいのか、ガムテープを籠に入れながら曖昧に頷く。
「でも、指揮には私達が居るから」
安心させるように柔らかい口調で言う。
心の内を話せるような親友に、何時になったらなれるのだろう。
どんな苦しみからも救い出し、救ってくれる親友関係は何時になれば出来上がるのだろう。
紀伊は自分の能力を知り、利用しようとも不気味がられることもなく受け入れてくれて救われた。
だから、指揮にも。なんて。
おこがましい考えなのだろうか?