秘密
「月曜日、学校……欝だ……」
指揮は目に隈を作ってそう言う。
徹夜して昨日、神村と対談した内容を書き記したのだ。
「姫、コレ読んどいて」
まぐまぐと食パンを口に運んでいる姫はそれを受け取る。
「今日くらい休めば?」
「いや……」
首を振る直前に、考える。
学校に行って何か意味があるのか?
それよりも対策を立てなければいけないのではないか。
敵の能力も教えてもらった。
鈴野のケータイ番号もゲットしている。
唯一の日常である友だちに会えないのは残念だが、それよりも生きる為の対策が必要だ。
科を連れ戻す為の、策が。
元那も休みがちな科の帰りをきっと喜ぶだろう。
指揮も、心の底から喜ぶ自信がある。
「十字団の壊滅、か……」
十字団自体を壊さなければ超能力者は死に続ける。
そして、神村の瞳の色は強烈だった。
止めなければ、何か酷く大きい事をしそうな、そんな予感がある。
姫をチラリと見て、もう一度考える。
十字団を潰す為には姫と鈴野の力が必要だ。
そして、無事では済まないだろう。
指揮がどれほど頭を悩ましたところで姫と紀伊は指揮の思い通りには動かない。
策士と指揮官は種類が根本的に違う。
昨日の作戦だって頭を捻って考えた末の答えが『とりあえず強い奴が居れば鈴野で乗っ取り、姫で殴る』というモノだった。
何一つとして成功していない。
急なアクシデントに対応し切れなかった指揮の責任でもある。
無論、指揮だけの責任であるとは言わないが、一端を担っているのは確かだ。
そして、十字団を甘く見ていたのが最大のミス。
決起集会では十字団の全戦力が集まる筈だ。
勿論あの時のような人数ではないだろうし、聖騎士を連れ戻そうモノなら十字士達は積極的に指揮を殺しに来る筈だ。
そんな『戦場』よりも『死に場所』として呼ぶのが相応しい場所に姫も、鈴野も連れて行けば最悪――
――指揮のせいで無残に殺される。
指揮の体内から駆け上がる冷気が身体を奮わせた。
立ち眩みを覚え、柱に手を付ける。
打ち明けてはいけない。絶対に。
指揮は取り繕うように姫に笑いかけてから廊下を歩き出す。
「ちょっと!? 私も行く!!」
慌ててお茶を飲み下した姫は床に置いてあった黒コートを肩にかける。
「別に殺されねえって」
「何でそんなの分かるの!?」
怒ったように言う姫に一瞬、身体が萎縮する。
慌てる様を見せ付けないように、一度間を保つ。
そしてゆっくりと、さも今気づいたような表情で。
「……ま、それもそうだ」
手に持った鞄を見て、学校には行かないと決める。
鈴野には極力会いたくない。
嘘がバレる可能性が高くなる。
そこで、扉が開いた。
可愛い女の子の顔がひょっこり現れて言う。
「まだ『ぴんぽん』直してなかったの?」
「え? ああ、まだまだ。で、何で来たの?」
指揮が問うと、鈴野は滑り込むように玄関に入ってきた。
「無事かなあ……と」
「無事って言ったろ?」
鈴野は困ったような顔をして、意味もなく頷く。
何か変だ。
「学校は!?」
「休む」
「じゃあ私も」
「行けばいいのに」
「指揮も」
「俺は行かねえ。行くところあるし」
「じゃあ私も行く」
鈴野の言葉に弾かれたように姫も言う。
「私も行くからね」
「……ま『tinann』に行くだけなんだけど」
鈴野は首を傾げる。
「何買いに行くの?」
「……何か身を護れるモノ……かな? 傷薬とかは役に立ったし。持っておくにこした事はねえだろ?」
笑ってみせる。