苦悩
科はコーヒーに口を付けていた。
新しく引っ越した家で、特に不自由はないソファに座り込む。
コーヒーを木製のテーブルへ置く。
思考が望んでもいない方へ向いた。
どうすればいい?
指揮は、悪じゃない。
科は表面上は思うが、心の奥底では信じきれていない自分が居るのも確かに感じていた。
『指揮は、悪じゃないフリをして俺を騙そうとしているのかも知れない』
少し気を抜けば声が聞こえる。
どれだけ、人を殺していたとしても息子を聖騎士にしようと育てても……駆流は父親だ。
自分はどの道を進めばいい?
誰を信じればいい?
唐突に、爆弾魔が三谷を殺した場面が甦った。
無残に死んだ。
「くそっ!!」
超能力者が、三谷を監禁したから三谷は超能力者に異常なまでの嫌悪感を抱くようになった。
元を辿れば、超能力者のせい――。
そして、死んだのも。
「違う!!」
歪んだ考えを吹き散らすように叫ぶ。
自分に嫌悪感が増す。
超能力者を見ると、考えると、無意識の内に殺したくなってくる。
十字団の深い関わりがあった科は能力者の『汚い』部分ばかりを見ていた。
指揮が超能力者だと分かってからだ。
思考のセーブをかけたのは。
「指揮が、居なけりゃ……」
指揮や元那との思い出が脳内に溢れ、涙が流れそうになる。
苦しい。
誰か、助けてくれ。
「もう、嫌だ……!! 逃げてくれよ! 指揮!!」
もう、俺と顔を合わせないでくれ! 科は叫び散らし、情けなくもソファに拳を振るう。
ソファに顔を埋め、涙を堪える。
「俺は……どうすれば……」
◆◆◆◆◆◆◆
一時間ほど、ソファに顔を埋めていた科だったが、
三谷の両親のところへ行っていない事に気づいた。
「あ、見舞い……」
十字団の中の数少ない知り合いであった三谷の両親へ出向いていない。
聖騎士としても、戦死した十字士へ追悼しなければならない。
葬儀には行ったが、両親は忙しそうに人に喋りかけられていたので躊躇してしまったのだ。
「行かないと」
決起集会まで、あと三日。
明日にでも行けばいいかと考える。