思い通り
「雰囲気がこの場の無茶苦茶な理論を信じさせてる。何もせずに時が経てばも目覚めるのかも知れないが……」
そんなの、無理だ、と指揮はあとを引き継いで心中で喋る。
滝のように鳴り止まないと思っていた轟音は波のように、引いていく。
「流行、昔好きだったバンドや女の子と同じ類だ。盲目的にそれらの好きな所にだけ目が行く。そういう経験はないか?」
漫画ならありました。今も好きです、と指揮は口に出そうとした所で、錆は言う。
「この熱狂的な雰囲気……オリンピックのサッカーだって一緒だ。世界が沸いている――いや、周りの友だちが沸いているからってそれに合わせようとする。雰囲気に当てられて、涙する奴だって居る。サッカーなんて関心すらないのに、だ」
それはあるかも知れない、と指揮は思う。
友達同士の会話の笑いどころ、アレだって雰囲気で笑っているに過ぎない奴が居る。
「何が面白かった?」
訊いたところで、明確な答えを話せる奴は少ない。
雰囲気は最大のルールなのだ。
個人の意見や国の法律など、軽く超越する。
「今流行っている一発芸だって理屈は一緒だ。意味なんて皆無なのに、皆真似してる。平凡を嫌うくせに異端で居るのは嫌なんだ」
十字団は巧みにその心理をついている、と錆はまるで温度を感じさせない声で話す。
それは不快ではなく、指揮の心に染み渡る声だった。
こんな人が政治家になれば、いい国を築けそうだな、と指揮は一瞬思う。
喋る事が真新しくなくとも、熱意や姑息さを感じさせないその態度は『不安』と『安心』というものをいい意味で与えない。
一人一人が国について考えるんじゃないだろうか。
指揮には未来は見えないし、政治も知らないが、それでもなればいいのに、とそう思う。
多分、プロの意見よりもこういう素人の意見の方が『いい』人材を見つけれる、と指揮はぼんやり思う。
「諸君には超能力者を駆逐することに全力を挙げて欲しい!!」
神村はそう言い、隅に控えていた男の人が紙の束を渡した。
「では、今月の成果を発表する」
全体の雰囲気が張った糸を更に張ったような緊張感と期待が湧き出た。
指揮は全身を硬く緊張させ、言葉が出るのを待つ。
「今月は川田純也の一人だけだ」
あからさまにガッカリした雰囲気が覆うが、ただ一人、警官だけが喜んで前へ跳ねるように進んでいく。
指揮はほっと安堵する。
爆弾魔だけだと分かったからだ。
「ありがとうございます」
そうお礼を言って、神村に握手を貰う。
「では、拍手を!」
神村がそう言うと、手と手を打ち鳴らす音が部屋中に響いた。
「よくやった!!」
「俺もやりたかったぞ!」
などなど学生のように盛り上がる和気藹々とした雰囲気が指揮の心を緩ませようとする。
それと同時に猛烈な違和感と恐怖が指揮の全身を震わす。
(コイツらは何をしたかも分かってない……いや、分かってるけどそれを善としか受け止めてねえんだ)
「では、コレで今月の集会は終わりだな。皆、今まで以上に頑張ってくれ!」
「はい!!」
統率の取れた声が何重にもなる。
それから、全員神村に頭を下げてパイプ椅子から立ち上がり、出て行く。
指揮は立ち上がり、神村に向かって歩き出す。
横に避けていた村井が神村の下へ来る。
姫も一瞬で、神村との距離を詰めた。マフラーが落ち、同時にマイクのテストをしていた男女が声を上げる。
村井はそれを許さなかった。
右手を姫の方へ向ける。
ガチン、右手から現れたのは、キラキラと輝く砂。
姫は砂など気にしてられないと、目を瞑り村井へと拳を振るう。
指揮は単純だが効果的な方法だと思わず感嘆する。
神村は腕で拳を防いだが、想像以上の威力だったのか、壁に叩きつけられよろめいた。
そして、その時間で村井の手には、スタンガンが用意されていた。
既にスイッチも入れてあり、紫電が両方の先端に流れている。
能力者用に、出力を通常よりも上げている筈だ。
「姫!!」
目を瞑り、攻撃への反応が遅れた姫の首筋には既にスタンガンが押し付けられた後だった。
ビクリ、と姫は一旦震えてから崩れ落ちる。
どう、する?
指揮は考える。
どうするも何も、助け出すしかない。
だけど、指揮に大人数を相手に出来る力はない。
一対一で指揮の力は発揮されるのだ。
村井の腕を曲げて、どうにか操るというのはどうだ?
無理だ。
腕しか曲げれないのに、敵が攻撃範囲内に入ってきてくれる訳がない。
仮に入ってきたとしても力が入っていない拳で敵がやられるとも思えない。
そこで、神村が姫を意識してないかのように跨ぎ、指揮の元へやって来た。
「指揮と話がしたい」
「俺と、話……?」
指揮は姫を見る。
「姫を解放するんなら……」
「今日は解放しよう。その為に生かして捕まえてくれ、って頼んだんだからな」
指揮は思わず歯噛みする。
計算尽くって訳だ。