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計画

「警、察……?」

 思わぬ味方に指揮は呆然とする。

 コレで、終わり……?

 長い、心労もコレで終わるのかと安堵しようとするが、上手くいかない。

 疑念が答えを指揮の思考から引っ張ってくる。

『超能力』

 十字団には村井貴一のような超能力者が居る筈だ。

 あんな無防備に姿を晒していたら、殺される。

 じわり、と指揮の全身から気味の悪い汗が吹き出る。

「ひ――!!」

 姫を援軍に呼ぼうと叫んだ瞬間、

「欠席するんじゃなかったか?」

 神村が言った。

 指揮は慌てて口を噤み、考える。

 やっぱり、警察内に十字団は居たのだ。

 余りの衝撃に落胆すらしない。

 もはや呆れるしか方法が見つからなかった。

(やっぱり警察に連絡しても無駄なのか……?)

 全ての警察官が十字団な訳はないだろうが、上層部の連中は篭絡されているかもしれない。

「はい。鈴野紀伊って子が、連絡してくれたお陰ですよ」

(鈴野、アイツ……ッ!!?)

 心臓が捕まれ、搾り取られるような感覚が襲う。

 まさか、鈴野が居ない理由は警官に……?

「能力者かどうかは分からないですが、捕まえた方がいいと思うんですが……」

 殿様に尽くす家臣のように警官は進言する。

 村井は意味あり気に視線を右斜めにやってから手を振る。

「別にいいさ。どうせバレやしない」

 そこで、指揮が気づいた。

 爆弾魔を撃った警官が居る。

 胸の内に生ゴミが這いずり回るような感覚がした。

 胸が気持ち悪いくらいに熱い。

 自分を救ってくれた他人が十字団だったという事実に指揮は絶望へと突き落とされそうになる。

「……警官まで……」

 ぽつりと呟く言葉に錆を緩やかに流れる風のように言う。

「人はそれぞれ信じるモノも守る正義も違う。矛盾なんてこの世にない」

 その冷淡な物言いは指揮に安堵を与えてくれた。

 警官たちはいそいそと席へ着く。

「錆が言うと胡散臭く感じますね」

「そうか? ただ、アイツらは酔っているだけだな」

「酔ってる?」

「この雰囲気に酔っている。洗脳されてる、と言ってもいいかもしれない」

 洗脳、その言葉に後戻りの出来ない怖さを感じて、身の毛がよだつ。

「今の日本にはない和がある。リーダーを中心として、一つの目的へと突き進む快感。どんどん居心地のいい空間へと成り果てる」

「……科も、そうなのか」

 小声で絞るように言う。

(科も、元那や俺と居るよりも十字団と、人生を狂わせやがった義父と居る方が心地いいってのか?)

 そうかも知れない。

 だけど、そんなことはどうでもいい。

 指揮が気に食わないのは、科が十字団として超能力者を狩り続けようとしている事実だ。

 そして、多分、科は迷っている。

 引っ張り上げる事が出来るなら、科を重荷から解放させられる。

(友だちを殺人者にさせれるかよ……)

 爆発音が、指揮の耳朶を打った。

 指揮は思考が断絶され、周りを見渡す。

「え……?」

 プロジェクターから映し出される映像が神村の後ろにある暗幕に踊る。

 映像が一気にぶれた。

 誰かの服が見える。天井を映し出し、一瞬だけ鈴野が映った。

 指揮は驚くが、表情には出さない。

 映像――カメラは女の子を映し――近づいてきた爆弾魔が何食わぬ顔で少女の肩を叩いた。

「あ」

 声が漏れ出る。

 あ、やばい。

 逃げろ。倒せ。

 ヒーローショーを見る子供のように声を出しそうになる。

 危ない、後ろだ。

 もう結末は決まっているのに、願い脳天がビリビリと痺れる。

 直後、指揮の予想通り、少女は爆発した。

 爆発と共に、少女にはモザイクがかかる。

 汚らしいものを、見せない為に。

 少女の為に。

 コレは、爆弾魔あのやろうの殺人方法。

 そこで、映像が途絶えた。

 神村は悲壮感をたっぷりに、言う。

「コレが、超能力者です。世間で認知されていない、最低の人種!!」

 十字団員は嵐の前の静寂に包まれる。

 指揮は、血管を大きく脈打ち、鼓動が高鳴るのを感じながら恐る恐る周りを視界に納める。

 突如、轟音が室内を揺るがした。

「殺せ!!」

「超能力者は悪だ!!」

 狂おしいほどの一体感。

 その中で、異端で居ることの破滅的な恐怖が指揮の身体を縛り上げる。

 ココで能力者だとバレれば間違いなく、殺される。

(狂ってやがる……!!)

 爆弾魔は確かに悪いが、それと超能力者は関係ない!

 自分がやっている事への正当性が欲しいだけだ。

 コレと似た雰囲気を指揮はかつて味わった事がある。

 ファミレスでの事件だ。

 あれを肥大化させた風景が、コレだ。

 我関せずのあの雰囲気よりも酷い。

 指揮一人の力では、変えられない。

 自分の無力さが倦怠感へと書き換わり、気だるくなる。

 もう、嫌だ。

 異常過ぎる。

 関われば、ただでは済まない。

 精神が理解不能な事態に崩壊しそうになる。

「……雰囲気だ」

「え?」

 錆の声は怒鳴り声と、悲しみの声が生み出す轟音の中でも聞こえた。

 まるで、声の質が違うかのようだ。

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