救い
「な、んだ……?」
指揮が目覚めるとそこは熱気に包まれていた。
その雰囲気が異様だということに、まだ目覚めてもいない脳が警告を鳴らす。
目の前には神村駆流がマイクのテストをしている男女の後ろに居た。
血液が沸騰し、掴みかかろうかと考えるが周りの状況を理解し諦める。
体育館を半分くらいにした部屋で、ぎっしりと詰め込まれているパイプ椅子に人がぎっしりと敷き詰められていた。
何だ、コレ……? と指揮は自問自答し、集会だという答えに行き着く。
どういう考えか知らないが、科は指揮を連れ込んだのだ。
(もしくは、別の誰か……でもそうだとしたら誰だ? 権力がないと無理だと思うし……やっぱり、科の奴が……)
鈴野は? 姫は? 分からない事だらけで、指揮は立ち上がろうとする。
と、右斜め前に姫が居たのが見えた。
安心感で全身の力が抜ける。
周りを見渡すと、鈴野は居ないが、姫が生きて座っているのだからどこかに居るのだろう。
「ようやく目覚めたか」
右隣から温度の感じない声が聞こえた。
しかし、それでいて柔らかく温かく、そして冷たい。
矛盾を孕んでいるその声の主を指揮は見る。
冷たい物事を普遍的に見そうな瞳に、綺麗に整った柔らかい顔立ち。
二〇代ほどの男は静かに口を開く。
「錆の名前は空錆って言うの」
「は?」
平淡な声から出たセリフとは思えなくて、思考がフリーズする。
「という自己紹介を駅でされて、メールアドレスを貰ったんだが……どう扱えばいい? こういうのが流行っているのか?」
「え、いや……流行ってはいないと思いますけど……。まあ、メールして上げればいいんじゃないですか?」
「そうか。した方がいいか」
そう言った後、男はもう一度口を開いた。
「名前は?」
「あ、ああ。大船指揮って言います……空錆さんですか?」
空錆は少し、表情を変化させた。
あまりの小さい変化にどんな感情だかもわからない。
「ああ。空と呼んでくれて構わない。錆、でも構わないが」
「錆……」
何となく、イメージが似ているような気がする。
冷たく、何を考えているのかわからないという意味で。
「まさか、名前で呼ばれるとはな……」
ふっ、と少し笑顔を作り、言う。
「あ、すみません」
「別にいい。それよりも、始まる」
くい、と顎で神村を指す。
「あ、はい」
色々と訊きたい事もあったが、神村の方を見る。
神村は一度、指揮の方へ視線をやった。
ぎり、と指揮は奥歯を噛み締め、睨み返す。
「一ヶ月に一度行われる十字団の集会だが、今回の欠席者は七十八名だ」
周りの人たちは真摯な態度で神村を見る。
物音一つ、立たない異常。
不安と抗えない恐怖で指揮はおかしくなりそうになる。
ねっとりと、部外者を寄せ付けない空気。
肌を粟立たせる異常な崇拝感。
全てがこの部屋を異常へと変えていた。
「その内、三十五名がロサンゼルスへ成敗しに行ってる。あの銀行強盗は超能力でしか説明がつかない」
成敗、その言葉にヒーロー性を感じて、胸の内に熱く粘つくモノが生まれる。
こういう言葉の端々にも『正当性』などに気をつけて発言しているのだろう。
徐々に、徐々に。そして深く洗脳していく。
その考えに吐き気と生理的な恐怖で心臓が不規則に跳ねる。
呼吸が自然に荒くなっていく。
ばん、後ろから扉の開ける音が聞こえた。
「……え?」
五人の警官が姿を現した。
青を基調した制服は警察の者だと主張している。