効力
紀伊は、第一会議室へ向かっていた。
「まずは姫ちゃんの安全確保。それで……」
鈴野は考え込みながら、第一会議室へ走り――曲がり角から現れた姫が生気のない顔をしていたのが見えた。
「姫ちゃん!?」
鈴野は驚愕の声を上げながら、姫に問いかける。
「どうしたの!? 何かあった?」
「ただ、事実を知っただけよ」
そう一言言って、頼りない足取りで廊下を歩く。
「どこに、行くの?」
鈴野は姫のその様子に恐怖と心配が混ざり合った声で訊く、
「どこ? そうだね。神村を殺す」
それくらいしないと、アイツは許せない、そう恨みの籠った声を発した姫に鈴野は顔面蒼白になる。
「そんな! 警察にでも任せれば……!!」
一度、警察には馬鹿にされたがもう一度。
話の分かる人が出るかもしれない。
殆ど祈るようにポケットから出したケータイの番号を押していく。
「警察? あんな集団に何が出来るってのよ」
ふらり、と姫は更に頼りない足で突き進んでいく。
「警察の方ですか?」
「ええ。何があったんですか?」
「あの、十字団って言うある特定の人たちを殺すための集会があって……」
たどたどしくも懸命に喋る。
「十字団、ですか?」
明らかに訝しがっている声だ。
「はい。それで『宇都市民ホール』に来て欲しいんですけど……」
ケータイ越しから何か思案するような間を保ってから、
「わかりました。では、何人かそちらに向かわせますのでお名前の方を……」
「鈴野紀伊です」
「鈴野、紀伊さんですね。わかりました」
ケータイを切った。
明らかに信じきっていない声だったが、警官は来てくれるらしい。
「警察の方が来てくれるって!! 姫が行かなくても捕まるよきっと」
声が聞こえていないのか、それとも無視しているのか姫は更に奥へと進む。
紀伊は苛立ちよりも、心配な気持ちが湧き上がり大声で怒鳴りつける。
「それにどこに居るかも分からないのにどこ捜すの!!」
「全部」
たった一言、殺気立った声が鈴野の身体を打った。
鈴野は萎縮したように身体をびくりと震わせる。
姫は構わず先へ歩んでいく。
「?」
そこで、自動ドアが開いた。
ドアから、明らかに力の抜けている指揮の手を肩に回し、抱えた科が現れる。
「……指揮!?」
鈴野は声を上げて、敵である科の方へ寄って行く。
姫は指揮を見て、科に瞬時で詰め寄った。
科は巧みに指揮の重心まで使い、最速で姫に指揮を突き出す。
まるで盾のように。
「何のつもりよ!!?」
姫はそう声を荒げながらも指揮を奪い取り、抱える。
生きていることを確認するように唇の方へ耳を当てた。
息をしていることを確認してほんの少しの安堵の表情を見せる。
「会議室に来い。今日は席が余ってる筈だ」
「どうする? 姫ちゃん」
「……行く。行ってアイツを半殺しにして――警察に突き出してやる!」
鈴野は安心したように一息吐く。
警察はまだなのか、鈴野はドアの方へ一度視線を向けて、歩き出した科のあとを追っていく。
(あの人も、来てるのかな……)