ケンカの結末
そして、科は何かを決意したかのように表情を一変させる。
初めて見た殺しのプロとしての顔じゃない。
もっと、別の顔だ。
「本気でお前を潰す」
一歩。
たった一歩で指揮の懐に入った。
指揮は後ろへ飛び退き、能力を発動させる。
科は何かを察したのか、腕の方向を変え、腕を振り上げた。
くん、とスイングするかのように腕は真下へ向かうが、遅い。
指揮は既に科の攻撃範囲内に入ってしまっている。
圧倒的な戦闘力の差。
能力を使っても簡単には埋まらない実力は、指揮を襲う。
真下から振り上げられた拳は指揮の顎を的確に射抜いた。
「は……っ!!」
完全に入った拳は指揮の意識を刈り取りそうになった。
衝撃が頭蓋を襲い、まだ力がある足が崩れ落ちそうになる。
(科を……!!)
「お、あわああああああああ!!!」
叫び、意思の力で更に脚を科の方向に進めようとした。
直後。
膝に圧力がかかり、崩れ落ちた。
「な……」
科の蹴りだ、と一瞬遅れて分かる。
「お前と俺には越えられない差がある」
声が入るが、理解するのが難しい。
一度に三度のことをやっているように理解が出来ない。
頭が朦朧としている。
「努力、か……? 才能?」
「お前は、甘い。俺の腕くらい本気になれば折れた筈だ。何で折らなかった?」
意味を噛み締め、理解してから言う。
「甘い? 何勘違いしてんだよ科」
「出来なかったって事か?」
科は怪訝な声で尋ねる。
「俺たちがしたのは、ケンカだよケンカ。腕を折るのが、ケンカかよ? 違うだろうが!」
科の後ろで人が怪訝そうな顔して通り過ぎていくのが見えた。
「躊躇なく折れた時点で友達じゃねえよ。ケンカしようが何しようが、最後の一線を保つのが友だちだろうが」
挑戦するように科を見る。
お前は、どうなんだよ?
「……なら、俺はお前の友だち失格だな。あの時、俺はお前を殺そうとした」
「出来なかったろ。お前には、殺しなんて向いてない」
力ない声で断言する。
「向いてる向いてないは問題じゃない。俺はこれからも、ココで……」
ぎりっと奥歯を噛み締めた科は後ろを向く。
「お前は、これからどうする? 俺には敵わない。警察にもマスコミにも聖騎士が居る。どう足掻いたって指揮が勝てる相手じゃない」
やる事は、一つしかない。
「地の果てまで逃げろ」
そう言って科はホールへ去って行った。
「ふざ、けんな……。ココまで来たんだ。お前を、連れ戻せる所まで。まだ連れ戻せるこの時に!」
全身の力を入れ、立ち上がろうとする。
麻痺したように上手く動かない手足を蓑虫のように動かして、立ち上がり、崩れ落ちた。
もう、動けない。
科は立ち去っていく。
意識が緩まり、ふっと飛んだ。