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リーダー

 電車一本で行ける距離にある場所に『宇都うと市民ホール』はあった。

 大小合わせて五つの会議室に、合唱団などが使う一大ホール。地下にレストラン。

 そして、一階にフロアがあり、そこでどこの会議室でどんな団体が借りているのか分かるのだとか。

「にしてもよく鈴野は」

「紀伊ね?」

「う、うん……紀伊ちゃんはよく知ってるね」

 何が不満なのか、姫が電車の揺れに合わせてごすっと肘打ちを喰らわせてきた。

「いて!」

「静かにしなさいよ」

「この……っ!?」

 赤いマフラーをぶん取り、ぼすっと両手で大事に抱きかかえる。

 顔が半分マフラーに埋まった。

「な、返しなさいよ!」

「電車内は静かにしろよ」

 指揮は平淡に言い返すと姫はふん、と外を眺めてしまった。

 が、電車は地下に潜り姫を馬鹿にする。

「うふふ……」

 指揮はマフラーで声量を抑えながら笑う。

「で、何でそんなに詳しく知ってるんだ?」

「一回お父さんと一緒に行った事があるから……」

 そう言った鈴野の顔は沈んでいた。

 指揮は悲しげな鈴野の顔から逃げるように、マフラーに顔を埋める。

「あ、何か良い匂いがする……」

 意外だ、そう続けようとした指揮のセリフはそれ以上の声量によりかき消された。

 同時に声が響く。

「指揮の馬鹿っ!!!」

 怒りに塗れた鈴野(紀伊)の声。

「へ、変態ッ!!!」

 恥ずかしさが爆発したかのような姫の声。

 ゴガン!! 指揮は二人に鉄拳制裁を喰らった。


◆◆◆◆◆◆◆


 駅から伸びるスロープを登って行く。

 二十分ほど早くに出たのが功を奏したのか、疎らにしか人は居ない。

「スロープの先が市民ホールなんだよな?」

 指揮が緊張を滲ませた声で言う。

 後頭部にたんこぶがあるのはご愛嬌である。

「うん」

 と、鈴野も糸を極限まで張ったような声を出す。

「作戦、覚えてるよな?」

 指揮は緊張しつつ言う。

「指揮も戦闘になったら逃げる。鈴野は戦闘になったら相手の意識を奪って私の元に来させて、逃げる。私は殴ればいいんでしょ?」

 姫は呟く。

「……俺、役立たずだなあ……。姫、お前に任せる」

 周りを囲まれたら終わりだが、仕方がない。

 それ以外に能力活用の道がなかったのだ。

「頼んだよ姫ちゃん」

 スロープを登り終え、市民ホールが見えた。

 白いレンガの広場があり、他には建物はない。

 指揮は歩きながら、感想を言う。

「意外に大きいな……」

 ドーム型をしている市民ホールは意外に大きくてビックリする。

 周りは噴水や、意味の分かりかねる透明なピラミッドのような置物、そして疎らに木があるくらいだ。

 少し遠くに道路があり、町が広がっている。

 その手前には少し大きめの公園。

 近年、公園で遊ぶ子供が減っているというが、五、六人の子供が遊んでいた。

 手に、何か持っている。

 ゲームだ。

「……公園に来てるんだから、ゲームは持ってくるなよなあ……つーか今八時だぞ?」

 外に出る時はケータイ以外の余計な機器は持ってこない派の指揮は呟く。

「君が、大船指揮かい?」

 後ろからかけられた声は存在感がなかった。

「っ!?」

 なっ!? と指揮は真後ろを振り向く。

 鈴野と姫も飛び退き、静電気のようなピリピリとしたオーラを醸し出す。

「ちょっと待てくれよ。俺は大船指揮、君に用があって来たんだよ」

 サラサラと川のように流れる黒髪に、ユニセックスな整った顔立ちの男が指揮に無防備に近づいてくる。

 仮面のような笑顔を貼り付けたままに。

「何だよ? お前、誰だ?」

「神村駆流。十字団のリーダーだ」

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