作戦会議
鈴野紀伊は『オトコノコの部屋』へ足を踏み入れた。
しかしそれは偽装だったらしい。
だってそこは明らかに初々しい恋人になる前の空間っぽい危険地帯だったのだから。
指揮と姫はお互い、黙秘し目を合わせようとしない。
更に言えば姫と指揮は若干頬を赤らめている。
ひく、と頬が引き攣るのを感じた。
「何、してるの?」
意識した明るい声は出ずに、震える声が勝手に漏れ出る。
指揮は紀伊の方を見て焦るように手を振った。
「いやー悪い! まだ網や機器用意してねえんだよ! さあさっさと用意してこようかなー!!」
さーっと逃げるようにキッチンに引っ込んでいく指揮。
姫はようやく呪縛から解けたかのように、ふうと一息吐いてゲームを開始している。
「姫ー! 鈴野じゃなくて……あー(紀伊、さん)とゲームしといて! 網がちょっと汚いから洗っとくから!」
指揮の声に姫はキッチンの方へ顔を向けて了解の返事をする。
「じゃあやる? ゲーム」
「いいよやろう」
二人は闘争心剥き出しにゲームを開始する。
◆◆◆◆◆◆◆
ご機嫌な鈴野紀伊と憔悴し切った姫、そして苦笑しながら肉を焼いている指揮。
「くく……負けたんだろ?」
「……見たらわかるでしょ」
「本当に弱かったね。初めは手加減されてるのかと思っちゃったもん」
「だろ? 俺もそう思った」
指揮と鈴野は談笑し合い、和やかな雰囲気へ。
姫は一人黙々と肉を食べ、指揮の茶碗にのった肉にまで手を伸ばす。
「何俺のまで食ってんだよ!?」
「べっつにー……というかさっさと作戦の話し合いでもしない?」
「あれ? お前さっきまでは「作戦なんて……」みたいな口ぶりだったのに……」
「いいから作戦会議よ作戦会議!!」
姫は話を逸らすように言う。
その直後に鈴野は、思い出したように二人に言った。
「ねえ、警察には電話した?」
「したのか?」
と指揮が言う。
「うん。でも全然相手にされなかった。酷いでしょ?」
と、鈴野が少し怒りながら言う。
「まあ、酷いな」
指揮は共感しながら頷いた。
考えてみれば、当たり前のことだろうと思うけど。
「警察なんてアテにする方が間違ってるのよ」
姫は言いながら焼肉を食べる。
指揮は二人を見て、頃合の焼肉を姫に取られた悲しみで顔を歪ませてから言う。
「じゃ、作戦会議でもするか」