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無駄な伏線の活かし方

「まだよ!」

「いや、もう用意しないと……」

「まだ私は一回も勝ってない!!」

「さっき勝ったろ?」

「アレは手抜きしたでしょ」

「……この負けず嫌い」

 ただのテトリスなのだが、指揮の全戦全勝だった。

「なあ、こういうの苦手なんじゃねえか?」

「うるさいわよ。私が絶対に勝つんだから! コツは分かってきたわ!」

 息巻く姫に指揮は、無言で操作し『CPU(レベル2)』VS『2P』に設定した。

「コレで練習でもしておきなさい」

 そう言って、今までの疲れを押し付けるように姫の頭をぐしゃぐしゃ撫でる。

「うー。コンピュータのくせに強いじゃない」

 お前が弱いのだ、とは言わない。

「今日のご飯は~?」

 姫はポチポチコントローラのボタンを押す。

「今日のご飯は~焼肉でーす!! わー!」

 パチパチパチィ、と指揮は司会者のように拍手。

 姫は「ふーん」という可愛げのない反応。

「……さて、鈴野も呼ぼうかな――」

「何で!?」

 な、に被せるようにセリフを入れる姫に指揮はケータイ片手に言う。

「いや、集会に乗り込むんだし作戦が要るだろ?」

「まあ、そうだけど……でも、あの子には戦う理由がないでしょ?」

「そうなんだよなあ……でも、親友の役に立ちたいって……どうせ俺らが拒否しても後からコソコソ来るぞアイツは」

「……まあ、そういう感じの子っぽい」

 姫は迷惑極まりないという感じで頷く。

「だから、俺らがアイツを護らないと……ってお前、そんなにむくれてどうした?」

 別に、とテレビに意識を戻す姫。

 鈴野が来ると指揮はデレデレにやけ、照れる姿を見せる。

 それが無性にムカついて仕方がないのだった。

 もう一つ付け加えるなら、自分は『護られる対象』には入っていないという事実に言葉にするのもおかしな感情が渦巻いていた。

 姫は自分の感情に嫌気を覚えながらそれを発散するように言う。

「指揮のデレっとする顔を見るかと思うと不満だらけね」

 指揮は姫をむっとした表情で見る。

「しつこいぞ、お前。何で俺のデレっとした顔を見るのが嫌なんだよ? つーか、姫のことみて……そういう顔する時だってあるだろ。その時何も言わねえじゃねえか」

「へ? いつしたの? そんな顔?」

 姫の困惑気味な顔に指揮は、何か買い忘れた主婦のような顔になる。

「いや、あの……」

「いつ?」

「えーと……怒らない?」

 姫は、少し逡巡してから頷く。

「多分ね」

「多分?」

「多分」

「……だったら言わな――」

「ま、言いたくないんだったら構わないわ」

 姫は女神のように微笑んで言う。

 不覚にもドキリとした指揮はホッとする。

(何か、矛盾してる……)

 姫は付け加えるように指先を立てる。

「但し、鈴野に話すわ」

「え?」

「鈴野に私を見てデレデレするのよ、本当に困る変態だよねって言うからね」

「はっ、鈴野がそんなの信じるとでも?」

「信じると思うけど?」

 少しの間を空けたあと、ゆっくりと指揮は言った。

「ごめんなさい」

「じゃあ言ってよ」

 指揮は諦め、母親と話す反抗期男子のように不機嫌そうに言う。

「朝起こしに行くときだよ」

 ちらりと姫の方を見て反応を窺う。

 特に気を悪くした様子はなさそうだ。

「……何でそれでデレデレするの?」

「あのさあ、俺に何を望んでるの? 本当に。死にそうなんだけど」

 と指揮は泣きそうになりながら声を絞り出す。

 恥ずかしくて体内の血液が一瞬で沸騰し、爆死しそうだ。

 この鈍感馬鹿女は何プレイをご所望なんですかー!? と指揮は叫びたくなる。

「だって気になるじゃない」

 平然と質問に答える姫に指揮の心は全く読めないらしい。

 姫の顔を極力見ないように努力しながらポツリポツリと諦め、語りだす。

「寝顔、とか……」

 とか、には今日服が乱れていてドキドキしたことが含まれている。

 とか、の部分を鮮明に言えば半殺しにされるに決まっているのだ。

「な……」

 姫は指揮のセリフに予想外だとでも言うように大きく反応し、固まった。

「あ、あの? 姫さん? 姫さまー?」

 ぼすっ、と効果音が聞こえてきそうな程、真っ赤に頬を染めて、一心不乱にホットカーペットを見つめ続ける姫。

 居た堪れなくなってきた指揮も、どうすればいいか分からずに立ち尽くし、ホットカーペットを見つめる。

 そして、部屋に重苦しい沈黙のカーテンが降りた。

 ……。

 指揮は電気網焼き機――焼き肉焼き機――を準備しなければいけない訳だが、よく分からない重圧が指揮の身体を縛る。

「毎朝毎朝、だらしない顔で、下心満載で私を起こしに来たって事?」

 ふいに放った声が指揮に三秒は遅れて届いた。

「下心はないけど……まあ、可愛いなあとは……」

 雰囲気のせいなのか、胸の内から熱が込み上げてきて汗がだらだらと出る。恥ずかしい。

「そ、そう……?」

 一方姫も雰囲気に呑まれているのか、頬を染めながら呟く。

 何というか、ピンクな空間が出来上がっているような錯覚が指揮を襲う。

(いやもう止めて下さいよホント! 何? 何でコイツまでこんな乙女なんだよ!?)

 コレはもう網焼き機を無視して取りに行くしか手段はない! と指揮は雰囲気ブレイカーの能力を発動しようとした瞬間。

 ドアが開いた。

「チャイム鳴らしても出なかったから……」

 鈴野だ。

 それと同時にインターホンを直し忘れていたことを思い出した。

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