スプーン曲げの詳細
姫の服装は黒コートにマフラーだ。
理由は単純で姫は極度の寒がりらしいからだった。
そんな寒がり姫は焼き鮭と味噌汁を食べ終え、『スプーン曲げQ&A』メモ(今命名)を見ていた。
指揮は呑気にケータイを弄っている。
何となく気になりつつも、汚くて読めない訳ではない程度の文字に目を通す。
『Q 人の骨を折る場合と、金属を折る場合の時間差。
A 金属(鉄パイプ)の方が若干遅いと思う。人の骨を折る勇気はないから分からない。
Q 見なくては折る事は出来ないのか?
A 見ないと折ることは出来ないけど、見てから後ろを向いて(要するに見ずに)折る事は出来る。だけど、折る部分を明確に思い出さないと駄目。
Q 速度の調整は?
A 限界はあるけどできる。
Q あのイメージの『流れ』は存在しているものなのか?
A 姫に手を貸して貰ったところ、ない。
Q どれだけ巨大な物を折ることが出来るのか?
A 鉄パイプならいけた。大木は無理。
Q 折るだけではなく、操る事は?
A 俺が能力を使いこなせていないのが、理由なのかどうしても無理だった。
Q 二本同時は無理なのか?
A 集中力の問題で無理。二つ同時に行うと、二つの対象物にかかった能力が消える。
Q どれだけ離れた距離から折る事が可能なのか?
A スプーンなら俺の歩幅で七歩。姫の歩幅で八歩。鉄パイプなら十七歩。
Q 自分の骨は折れるのか?
A 折れる。凄く痛かったからやめた。
Q 距離で強弱が変わるのか?
A 分からない。
Q 能力使用の最大数は?
A 五十回ほどやったけど、切れることはなかったから多分ない。
Q 障害物があっても能力は問題なく使えるのか?
A 見てから障害物を挟んで明確に思い出せば出来る。
Q 何時間曲げ続けれるのか?
A 姫に怒られた』
姫はそれを見終わり、紙をテーブルに置く。
「さっきからケータイで何やってるの?」
それから、テレビでケータイでゲームをし続ける五十代が増えたとか言うのを思い出し、言う。
「ゲーム?」
「いや?」
「じゃあ何?」
「メール」
「誰と?」
「鈴野紀伊さん」
「……だからにやけてたんだ」
「何でぶすっとしてんだよ?」
「は? どこが? 私は毎日こんな顔だけど?」
「いや、たまにいい笑顔見せるじゃないですか?」
「見せたことない」
ふん、と姫は顔を背け、クッションを取り、顔を埋めた。
指揮は困惑する。
「鈴野、嫌いだったり?」
「別に嫌いじゃない。鈴野と話してデレデレ気持ち悪い顔を見せる指揮が嫌い」
クッションによって埋もれた籠った声が指揮の心を串刺しにする。
「……別にデレデレしてないし、そもそもコレは今日の予定を立てようと……」
「予定?」
「ほら、いよいよ集会だろ? だから作戦くらい立てとかないとと思って」
「別に突っ込んで大将ぶん殴れば解決よ」
「科に負けたくせに何言ってんだか……」
クッションから顔を上げ、寝転んだまま睨みつけてくる。
「アレは油断したの。次は私が勝つわよ!」
「いや、俺が科とは決着をつける」
「は? 指揮に勝てる訳ないでしょ?」
明らかに馬鹿にしたような顔に指揮はむっとする。
「確かに勝つのは無理だけど、何で十字団なんかに入ったのか訊きたいし」
宮野の言葉が甦る。
『ぶん殴ってでも更生させる』
「あわよくば、連れ戻したい」
「……一度裏切った相手をよく許せるわね」
理解できないという表情で姫が言う。
「別に許してねえよ。ただ、恨んでもいない」
ただ、意味がわからなくて。
理由を知りたくて。
皆を守りたいと思って。
科を連れ戻したいと、ようやく思えた。
多分それは、元那やあの男や宮野――それに一緒に居てくれる姫と鈴野のお陰だ。
「気分転換にゲームでもしようか」




